ド・ブロイの物質波とハイゼンベルグの不確定性原理
●ド・ブロイの物質波と電子波
固い言葉で説明しますと、波動性と粒子性を併せ持つと表現できます。
そして、この波動性と粒子性を結びつける式のことをド・ブロイの物質波の式と呼び、以下のように表すことが出来ます。
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XI 波と粒子 より
ド・ブロイの式とは何ですか
フランスの青年、ルイ=ヴィクトル・ド・ブロイが物理学の学士号を取得した1913年という年は、たまたま、ニールス・ボーアが水素原子を量子論で説明した画期的な研究を八兆したのと同じ年だった。このころすでにド・ブロイの頭に量子物理学があったのかどうかは知らないが、彼はのちに1929年のノーベル賞受賞演説で、「物理学のあらゆる領域に侵入を続けていた量子という奇妙な概念」に興味を引かれたと語っている。
第一次世界大戦で兵役についたあと、ド・ブロイは復学して物理学の大学院過程を修め、1924年にパリ大学での博士論文の一部として、見かけはシンプルだが、じつはたいへんに強力な式を発表した。現在、彼の名前がつけられているその式は、このように書かれる。
λ = h/p
左辺のラムダλの記号は、波長をあらわす。これは明らかに波の特性である。右辺の分母のPは、運動量をあらわす。これは明らかに粒子の特性だ。その2つを結びつけているのがプランク定数のhで、これは量子物理学のあらゆる方程式に出てくる数字だ。この式は、光子に――その存在を信じるならば――正しく当てはまることがわかっていた。ド・ブロイはこの式が、電子にも、ほかのすべての粒子にも当てはまると主張したのである。
それから数年後に、デイヴィソンとジャマーとトムソンが電子の波長を測定したとき、その測定結果はまさにド・ブロイの式を裏づけるものだった。
ド・ブロイの式は時の試練に耐え、いまも量子物理学を支える柱のひとつでありつづけている。見かけはシンプルだが、じつは強力だという点では、アインシュタインのE=mc2にも劣らない。
現在でいうところの「波と粒子の二重性」をあらわしているド・ブロイの式は、2つのことから導かれたと、のちに本人が語っている。ひとつは1923年、コンプトンが当時の最新の研究により、エックス線に粒子の特性と波の特性がともに見られる証拠をもたらしたことだった。そしてもうひとつは、ド・ブロイ自身が気づいた、古典的な世界では彼のふるまいがしばしば「量子化」される(ある種の塊となってあらわれる)のに対し、粒子のふるまいはそうではない(本質的に連続的なふるまいをする)という事実である。彼がそのとき念頭に置いていたのは、バイオリンの弦やフルートの気柱が、任意の振動数ではなく、特定の選ばれた振動数でしか振動しないということだった。当時知られていた原子の内部の量子的なふるまいは、振動する波の性質として説明できるのではないだろうか? 原子は楽器と同じようなものではないだろうか?――そう彼は考えたのである。
アインシュタインの式とド・ブロイの式のそれぞれの構造は、単純だが重要な一点において異なっている。E=mc2では、Eとmが正比例するから、質量が大きくなればエネルギーも大きくなる。対照的に、λ=h/pでは、λ(波長)とp(運動量)が反比例しているので、粒子の運動量が大きくなれば波長は短くなる。だから加速器が協力であるほど、加速される陽子は短い波長をもつことになり、原子以下の距離で起こる現象を探る手段として優れることになる。中性子はかなりゆっくり働くこともある――つまり運動量がかなり小さくなる――ので波長が長くなり、そのために多くの原子に届いて同時に相互作用を起すことができるのだ。
この影響は人間大のスケールにも及んでくる。あなたが街を歩いているとき、あなたは運動量を持っている。もしド・ブロイが正しければ、あなたは同時に波長も持っているはずだ。それはどこにあるのだろう? どうしてあなたはそれを感じないのか? あなたはたしかに波長を持つのだが、あなたの運動量が原子スケールで見ると大きすぎるため、その波長はとてつもなく短く、検出不可能なのだ。約68キログラムの人間が時速3.2キロメートルで歩いているとすると、その波長はおよそ10-33センチメートル。測定する気力を失わせるような数値なのである。「だけど」と、あなたは言うかもしれない。「もっとゆっくり歩くことだってできるんだから、そうしたら運動量が少なくなって波長が長くなるんじゃないか」。いい考えだ。しかし、無駄だろう。もしあなたが100年につき1センチメートルの速さで這いずったとしても、あなたの波長は3x10-22センチメートル。1個の陽子の直径よりずっと短い。好むとこのまざるとにかかわらず、わたしたち人間は古典的世界の住人なのである。
だが、もしもあなたが粒子世界に突入するぐらいまで質量を減らしたら、そのときは波長がきわめて重要な意味を持つようになる。電子には波の性質があるため、原子内の電子は原子全体を包み込むぐらいまで大きく広がる。同じように、原子核内の中性子や陽子も、原子核全体に及ぶぐらいまで大きく広がる。粒子がきわめて高いエネルギーに加速された場合だけ、その波長は縮んで、原子核の大きさ以下、あるいはその内部の1個の中性子や、1個の陽子の大きさ以下にまで小さくなる。だから高エネルギー粒子は、その波長の短さによって、最小距離を探索する優良な手段になっているのだ。