じじぃの「カオス・地球_367_世界はなぜ月をめざすのか・序章・月探査のブーム」

世界はなぜ月をめざすのか

【目次】
はじめに

序章 月探査のブーム、ふたたび到来!

第1章 人類の次のフロンティアは月である
第2章 今夜の月が違って見えるはなし
第3章 月がわかる「8つの地形」を見にいこう
第4章 これだけは知っておきたい「月科学の基礎知識」
第5章 「かぐや」があげた画期的な成果
第6章 月の「資源」をどう利用するか
第7章 「月以前」「月以後」のフロンティア
第8章 今後の月科学の大発見を予想する
第9章 宇宙開発における日本の役割とは
終章 月と地球と人類の未来

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『世界はなぜ月をめざすのか』

佐伯和人/著 ブルーバックス 2014年発行

アメリカのアポロ計画が終了してから40年余――その間、人類は月に行っていません。
人々のあいだにはいつしか「いまさら月になど行く必要はない」という認識さえ広まってきています。
しかし、それは月での優位を独占しようとするアメリカの広報戦略にはまっているにすぎません。
じつは世界ではいま、アメリカ、中国、ロシアなどを中心に、月の探査・開発をめぐって激しい競争が水面下で始まっています。30~40年後には、月面基地が完成するともみられているのです。

序章 月探査のブーム、ふたたび到来! より

私が宇宙探査の世界に入ったきっかけ

ちょうど私が東京大学理学系研究科の博士課程の学生だったとき(1994年)に、小惑星探査計画「はやぶさ」がスタートしようとしていました。その計画に、「宇宙の鉱物がわかる人」ということで誘われたのが、私が宇宙探査に関わるようになったきっかけです。

その後、私の興味は、同時期にスタートした月探査計画「かぐや」に移ります。ちなみに「かぐや」は公募にもとづく和名です。日本の探査機は伝統的に、無事に討ち上がったあとで和名が正式名称になります。計画段階での名称は「SELENE(セシーネ)」でした。これはSELenological and ENgineering Explorerの略で「月科学と技術開発のための探査機」という意味です。

私がなぜ月に惹かれたのか、その理由は本書の行間に埋めておくとして、それ以来、私は、「かぐや」で得られたデータの研究をするだけでなく、「かぐや」以降の日本の月探査計画の草案作成にも参加するようになりました。具体的には、月着陸探査計画「SELENE-B」、月着陸探査計画「SELENE-2」、月サンプルリターン計画、縦孔(たてあな)探査計画、などです。次期月探査計画「SELENE-2」では、多数の研究者の意見を調整して着陸場所選定する、着陸地点検討会の主査(取りまとめ役)も引き受けました。

日本の月探査計画は現在、いくつかある選択肢の中から重要な選択をしなくてはならないターニングポイントを迎えています。どのような選択肢があるのか、そして、その結果は将来の日本の宇宙での立ち位置にどのような影響を及ぼすのかを、本書ではくわしく語ります。

この本の構成について

まずは第1章で、なぜ月が次のフロンティアにふさわしいかを納得していただきます。次に、第2章で、みなさんを月世界に誘い込みたいと思います。月面に立ったら、どんな世界が広がっているのか、具体的にイメージしていただけるようにします。

第3章は、月の地形を「観光ガイド」風に紹介し、その次の4章では、月科学の基礎知識のエッセンスを短い時間で吸収できるようになっています。最新の月科学をてっとり早く理解したい方は、まずここから読んでもらってよいでしょう。そして5章では、いよいよ「かぐや」の最新成果を紹介します。

第6章は、月のどこを開発すべきかの情報をまとめました。みなさんが将来の月開発計画を考えることにときは、ぜひ参考にしてください。

第7章では、月というフロンティアへの旅立ちが、人類の歴史の中でどういう位置づけになるかを考えてみました。次なるフロンティアをどこからどんな戦略で開拓していくか、その計画を示す道しるべとなるロードマップは、目先の確実な成果だけに気をとられていると見えてきません。過去のフロンティア開発で人類が登ってきたステップを、未来に重ねることで、初めて見えてくるものだと信じています。

第8章では、将来の月探査で得られるかもしれない成果を大胆に予想してみました。そのうち、半分は当たるでしょう。残りの半分は外れるかもしれませんが、それはもっとすばらしい科学知識が得られることを意味しています。想像しえなかった発見が、想像していた分量の何倍いや何十倍も、あるはずです。フロンティアへの船出する自然科学者は、どこか楽観的です。

そして第9章では、日本の宇宙政策は具体的にどういう方向に向かうべきか、私の考えを書きました。

本書によって、読者のみなさんが「人類と月との未来」を見通す眼が、新たな方向へひらけたとしたら、これほどうれしいことはありません。いままさに、人類は次のフロンティアに足を踏み入れようとしています。宇宙への大航海時代の最初の一歩が、始まろうとしているのです。