じじぃの「科学・地球_417_始まりの科学・海の始まり」

Origins of Oceans | National Geographic

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=BvrzM-BavDg

海の誕生


海の誕生

NHK for School
46億年前に誕生した地球には、最初から海があったわけではありません。38億年前に誕生したといわれる地球の海。その誕生のしくみを説明しています。
https://www2.nhk.or.jp/school/movie/clip.cgi?das_id=D0005402585_00000

『【図解】始まりの科学―原点に迫ると今がわかる!』

矢沢サイエンスオフィス/編著 ワン・パブリッシング 2019年発行

パート6 海の始まり――氷の彗星か、ぐらついた木星軌道の産物か? より

●地球は”海の惑星”
われわれはふだん、陸地の面積や地形に目がいきやすい。日本の国土は37万平方kmで山がちだとか、中国の国土は日本25倍だというふうに。人間が陸上で生きているからだ。
だが実際には、地球表面の4分の3近い70%以上は海である。これを見るかぎり地球は海の惑星、水の惑星であり、宇宙から見れば”藍色のビー玉”のごとくでもある。もっともそれは地球表面の話で、地球の深部にまで海が広がっているわけではない。
地球に存在する水の量の13億3500万平方kmと計算されている。少しわかりやすく言うと、一辺が1100km(東京ー北海道稚内の距離)の立方体の大きさに等しい。そのほとんど(97%以上)は海水であり、残りの3%足らずは陸地の川や湖や地下水、北極や南極の海に浮かぶ氷、大気中の水蒸気や雲など、おもに淡水として存在する。
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だがここまで見てくるとすぐにある疑問が浮かぶ。それは、これほど莫大な量の水はいったいどこからやってきたのかである。

●地球に落ちた無数の彗星が水源?
この疑問には、20世紀半ばから科学者たちがさまざまな推論(仮説)を試みてきた。もっともよく知られ、また素人受けしそうな答えは、地球の水は太古の地球に落下した無数の彗星――チリまみれの氷のかたまりなので”汚れた雪玉”とか”凍った泥玉”と呼ばれる――がもたらしたというものだ。
だが読者が海岸に立って広大な海を眺めれば、水平線のはるかかなたまで広がる太平洋や大西洋の水が、彗星の衝突の結果だけとは想像しにくいに違いない。海洋が生まれるまでにいったいどれほどの大きさ、どれほどの数の彗星が衝突すればよいというのか?
これまでに世界の天文学者たちの観測によって発見された彗星は6400個ほど。これらの彗星はもともとは「オールトの雲」または「カイバーベルト」からやってきたもので、そこにはいまも1兆個以上の彗星のタマゴが存在すると見られている。大半は直径100m以下だが、なかには直径30kmもの巨大彗星もあるらしい。しかし平均的な大きさの彗星が何万個、何十万個と地球に落下しても、いまの地球の海をつくるにはとうてい足りそうもない。
そこで近年、こうした彗星起源説を否定する主張も出てきた。カリフォルニア大学の天文学者デヴィッド・ヒューイットらは、有名な4個の彗星――ハレー彗星、ヒャクタケ彗星、ヘール・ポップ彗星、チュリュモフ・グラシメンコ彗星――の観測結果から、それらの同位体比(水素と重水素の比率。液体の起源を調べるときに用いる)を調べた。するとそれらの比率は海水の同位体比の2倍にも達することがわかった。彗星の氷が海水とは異なる証拠だというのだ。
だが海水の同位体比は太古からいまのようであったのではなく、地球をおおってから別の原因で低くなったという説もあり、その場合はいましがたの彗星起源説が生き延びることになる。
ちなみにヒャクタケ彗星は、1996年に日本のアマチュア天文家百武裕司が天文用双眼鏡で発見したもので、軌道が極端に細長く、次に地球近くにやってくるのは7万2000年後とされている。百武は発見の10年ほど後に死亡している。

●若い研究者に残されたテーマ
そもそも彗星が”彗星の巣”とされるオールトの雲カイパーベルトから飛来したものかどうか定かではない。イタリアの惑星天文学者アレサンドロ・モルビデッリは、さきほどの同位体比をもとに、別の水供給源を指摘している。それは、いまの火星の軌道と木星の軌道の間に広がっている小惑星帯のうち、とくに外側軌道を公転する大型小惑星(原始惑星)である。これらの赤ん坊惑星は、水を大量に含む鉱物である炭素質コンドライトでできている。モルビデッリは、それらが誕生まもない、または成長途上の地球に無数に落下し、かくも莫大な水をもたらしたという。
また別の新説では、月の岩石(1960年代の有人月探査計画アポロ15、16号でサンプルを採取)を近年になってくわしく調べたところ、その組成は、誕生時の地球に水がすでに存在したことを示唆したという。それも、同位体比がいまの地球の海水とほぼ一致するというのだ。月と地球の水の起源はどちらも同じということだ。
こうした発見や研究は、地球の水の起源についての新説を生み出す。それは、巨大ガス惑星である木星が、かつてしばしばいまの木星の公転軌道より内側(太陽側)に入り込み、その重力が炭素質コンドライトを含む小惑星の軌道を乱した。その結果、これらの小惑星が軌道を外れて太陽側に入り込み、地球などの岩石惑星の原材料となり、かつ水を提供したというのだ。

どうやら、地球の”水(海)の始まり”についての理論はいまだ定まっていないようである。彗星起源説はまだ生きているし、他方、軌道をよろよろした巨大な木星がその重力で無数のコンドライト小惑星を投げ飛ばし、それが地球に岩石と水を供給したという新説もわれわれを魅了する。”海の始まり”は、若い研究者が取り組むべきテーマとしていまも目の前に残されている。