じじぃの「カオス・地球_360_林宏文・TSMC・第4章・エヌビディア(NVIDIA)」

【基礎から分かる半導体】21世紀の石油と呼ばれる理由/NVIDIAの設計方法の独自性/台湾危機とTSMC/日本はなぜ半導体の覇権を失ったのか/半導体バブル/ラピダスとは何か…

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=jXy5rtwArgY

半導体大手「エヌビディア」時価総額世界首位に マイクロソフト抜く

2024年6月19日 Yahoo!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/articles/c874b3415cb1523d331fe0de433f09cbe144afcb

NVIDIATSMC および Synopsys と提携すると発表した


TSMC と Synopsys が画期的な NVIDIA コンピュテーショナル リソグラフィ プラットフォームでの生産を開始

2024年3月21日 prtimes.jp
NVIDIA は本日、TSMC と Synopsys が、次世代の高度な半導体チップの製造を加速し、物理学の限界を押し上げるために、NVIDIA のコンピュテーショナル リソグラフィ プラットフォームを使用して生産を開始すると発表しました。

NVIDIA の創業者/CEO であるジェンスン フアン (Jensen Huang) は次のように述べています。「コンピュテーショナル リソグラフィはチップ製造の要です。TSMC および Synopsys と提携した cuLitho への取り組みは、アクセラレーテッド コンピューティングと生成 AI を適用して、半導体スケーリングの新たなフロンティアを開拓するでしょう」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000455.000012662.html

TSMC 世界を動かすヒミツ

【目次】
はじめに――TSMCと台湾半導体産業のリアル
序章 きらめくチップアイランド
第1章 TSMCのはじまりと戦略
第2章 TSMCの経営とマネジメント
第3章 TSMCの文化とDNA

第4章 TSMCの研究開発

第5章 半導体戦争、そして台湾と日本

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TSMC 世界を動かすヒミツ』

林宏文/著、牧髙光里/訳、野嶋剛/監修 CCCメディアハウス 2024年発行

2024年の熊本工場(JASM)始動と第2工場の建設決定で、注目が高まるTSMC。創業時からTSMCの取材を続け、創業者モリス・チャンのインタビュー実績もある台湾人ジャーナリストが、超秘密主義の企業のベールを剥がす。
(以下文中の、強調印字は筆者による)

第4章 TSMCの研究開発 より

「グランドアライアンス」――サプライチェーンの分断を起こさない

2023年3月21日、米国企業エヌビディアCEOのジェンスン・フアン(黄仁勲、こうじんくん)は、自社イベント「GTC2023」で、コンピューターリソグラフィー[リソグラフィーは、ウェハー上に回路を転写する手法]を改善できるソフトウェアライブラリ「cuLitho」をリリースした。
パ-トナーのTSMC、露光装置会社のASML、EDAソフトウェアツール[IC設計を自動化するツール]を手がける米国企業シノプシスと連携することで、工場はスループット[時間あたりの作業量]を向上させて二酸化炭素排出量を削減し、2ナノメートル以降のプロセス技術に、より堅固な基盤を構築すると述べた。

エヌビディアはAI分野のリーディングカンパニーで、同社が設計するグラフィックス用チップは世界中のAIに採用されている。この日、ジェンスン・ファンは「AIのiPhoneの時代がすでに始まっている」とも言い、エヌビディアはオープンAI[AIを研究開発する非営利研究機関として設立され、現在は営利企業としても注目される。代表はサム・アルトマン]と提携するマイクロソフトだけでなく、アルファベットとも提携してスーパーコンピューターサービスを提供するとも話している。

ChatGPTがAI革命を牽引するなか、エヌビディアの影響が増しているため、この4社同盟も半導体業界の今後5年から10年間の発展に大きな意義があるだろう。半導体業界が今後もムーアの法則に挑み続けて、1ナノメートル以降のさらに高度なプロセス技術の発展に向かうにせよ、目覚ましい進歩を遂げている世界のAIに対し、ニーズが日増しに高まっている演算能力を提供するにせよ、この4社同盟が大きく貢献するだろう。

TSMCの側から見ると、これは「TSMCグランドアライアンス」というエコシステムの実力が、最も新しく、最も具体的に花開いたものである。

「グランドアライアンスエコシステム」はモリス・チャン(張忠謀、ちょう ちゅうぼう)が昔、TSMCサプライチェーンエコシステムの構想を練っていたときに、第二次世界大戦の歴史からインスピレーションを得て生まれたものだ。第二次世界大戦中に英国と米国が連合軍を組織して、ドイツとイタリアと日本の枢軸国側と戦ったように、TSMCは今、多くのサプライチェーンのメーカーと一緒に、この大連合(グランドアライアンス)という概念を共有している。

TSMCグランドアライアンスは、ファウンドリーとサプライチェーンの提携を強調しており、ビジネスモデルはかつてのIDM(自社内で回路設計から製造工場、販売までの全ての設備を持つ統合メーカー)メーカーよりも強大になっている。そしてグランドアライアンスのメンバーは、それぞれが分業して、自社の最も得意とする分野で貢献している。受託で製造を請け負うTSMCがIC設計業界やサプライヤーと提携することによって、世界の半導体業界のビジネスモデルと産業エコロジーを変化させることができるのだ。

エヌビディア、TSMC、ASML、シノプシスの4社の提携が今、TSMCグランドアライアンスをより意義深いものにしている。エヌビディアはTSMCとの提携期間が最も長く、関係も密接で、まるでTSMCの兄弟のようなパートナー企業である。IC設計で世界トップのエヌビディアがTSMCの2ナノメートルプロセスを全面的に後押しし、そこに装置メーカーASMLの精密機器と、EDAベンダーのシノプシスの先端EDAソフトウェアをプラスすれば、勝ち組の団結をさらに強固にして、サムスンインテルといった競合他社を排除することもできる。
このトップ企業4社が同じ戦線に立ってグランドアライアンスとして行動することを誓ったため、その他の「枢軸国」に宣戦布告するというニュアンスがますます強まったようだ。

これまでもTSMCグランドアライアンスの運営は、もともとよく組織化されており、ほぼすべての半導体サプライヤーが含まれていた。米中半導体戦争やコロナ禍、サプライチェーンの寸断やウクライナ戦争を経て、TSMCグランドアライアンスがもはや単なる勝ち組グループではなくなって、すべてのサプライヤーを魅了するようになったのは、TSMCがより即時性が高く、より現地化の進んだサプライチェーン体系を積極的に構築したせいでもある。このようにして多くの現地サプライヤーを育成し、彼らがTSMCと共に世界一流の製品と技術を発展させたおかげで、TSMC半導体業界のリーディングカンパニーとなった。

地元台湾の業者は、TSMCのために製品を製造し、TSMCのために独自の設計、製品、サービスを開発したいと願っており、しかも多くの海外サプライチェーンよりもうまくやる。そのため、台湾のサプライヤーの多くは、TSMCサプライチェーンの一員となってから、世界のサプライチェーンのなかでさらに不可欠の存在となっている。

たとえば、TSMCは毎年年初に、前年の優良サプライヤーに「卓越表現賞」を授与している。2022年にTSMCの優良サプライヤー18社の1つに選ばれた台湾の新応材(しんおうざい、AEMC)は、非常に印象に残っているケースだ。

新応材が生産するフォトレジスト製品[「製造(前工程)」で「リソグラフィー(露光)」を行う準備として塗布する感光材のこと]は、、半導体リソグラフィープロセスの重要材料であり、技術的難易度が非常に高く、半導体材料界の王と言われている。主な市場は現在、日本と米国のメーカーが寡占しており、日本のJSR、信越化学工業富士電機、東京応化工業、米国のローム・アンド・ハースといった大企業だけで、世界シェアの9割以上を握っている。

2019年7月、第二次世界大戦中の徴用工の訴訟問題で日韓関係が悪化したとき、韓国に輸出する3つの主要電子材料に日本政府が2段階の輸出規制を発動した。そのため、サムスンやSKハイニックスといった韓国の半導体大手が生産停止の危機に直面した。日本が規制対象としたフッ化ポリイミドとレジストとフッ化水素の世界シェアは当時、日本が握っていた。

2019年、TSMCの南科工場でものサプライヤーのレジスト不良によって、12ナノメートルと16ナノメートルの生産ラインで数万枚ものウェハーがダメになり100億新台湾ドル以上の損失を出した。それだけでなく、その後に発生したコロナ禍とウクライナ戦争によって半導体の原料供給が混乱し、サプライチェーンの自主性の重要性がさらに浮き彫りになった。

よって、TSMCの場合、より多くの地元サプライヤーを育成してTSMCグランドアライアンスというジグソーパズルをさらに完成に近づければ、韓国に起きたようなサプライチェーンの寸断という危機を未然に防ぐことができるだろう。