じじぃの「カオス・地球_358_林宏文・TSMC・第4章・夜鷹部隊のヒミツ」

TSMC | Taiwan Semiconductor Manufacturing Company | Phoenix Arizona | April 2023 Construction Update

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=Khlqtrn3YHA&list=PLUqJ82yabbkIeDd0E_WHGDFVbon3ijNgp&index=1

台積電不敗秘密…「夜鷹部隊」


TSMC無敗の秘密…「ナイトホークフォース」

2016/05/25 自由財經
[インスタントニュース/総合レポート] TSMCは世界的に有名な優良企業であり、業界におけるTSMCの継続的なリーダーシップを支える重要な要素は、張忠蒙会長の賢明なリーダーシップと優秀で勤勉なグループです。
技術者だけでなく、「厳格な軍管理」「マネジメント」「TSMC社員の妥協のない働き方」など、そして24時間体制で活動する謎の「ナイトホーク部隊」もある。
https://ec.ltn.com.tw/article/breakingnews/1707569

TSMC 世界を動かすヒミツ

【目次】
はじめに――TSMCと台湾半導体産業のリアル
序章 きらめくチップアイランド
第1章 TSMCのはじまりと戦略
第2章 TSMCの経営とマネジメント
第3章 TSMCの文化とDNA

第4章 TSMCの研究開発

第5章 半導体戦争、そして台湾と日本

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TSMC 世界を動かすヒミツ』

林宏文/著、牧髙光里/訳、野嶋剛/監修 CCCメディアハウス 2024年発行

2024年の熊本工場(JASM)始動と第2工場の建設決定で、注目が高まるTSMC。創業時からTSMCの取材を続け、創業者モリス・チャンのインタビュー実績もある台湾人ジャーナリストが、超秘密主義の企業のベールを剥がす。
(以下文中の、強調印字は筆者による)

第4章 TSMCの研究開発 より

「夜鷹部隊」のヒミツ――セブンーイレブン体制の研究開発部門

サムスンインテルという巨大企業との競争に直面したTSMCは、この強大なライバルを追い越すため、あらゆる方法を慎重に考え尽くした。2016年にTSMCが10ナノメートルプロセス技術で大きくリードしたことは重要な布石となったが、この10ナノメートルで勝利の基盤を築くカギとなったのが、研究開発部門が24時間交代制でフル稼働した「夜鷹部隊」だった。

ことの発端は、2014年12月にサムスン電子が14ナノメートルの量産を開始して、TSMCに半年以上先行していると発表したことだった。サムスンが20ナノメートルプロセスを飛び越えて14ナノメートルに進んでリソースをつき込んだことは、その行動も成果も半導体業界に衝撃を与えた。

ファウンドリー業界におけるサムスンの技術について、モリス・チャン(張忠謀、ちょう ちゅうぼう)は昔「レーダーに映った小さな点」と形容したことがあったが、サムスンTSMCに追いつくどころか追い越す可能性すら出てきたため、このことはTSMCにとって相当大きなプレッシャーになったはずだ。

当時のTSMCの主なプロセス技術は16ナノメートルで、翌年にはサムスンが14ナノメートルTSMCから受注を奪うと予想されていたほか、インテルも10ナノメートルに着手しようとしていた。両社との距離がじりじりと縮まるなか、TSMCは10ナノメートルという次世代プロセス技術の開発に全力で挑むことを社内に宣言した。この「負けが許されない戦い」の陣頭指揮はモリス・チャンが直々に執り、世界でも類を見ない、半導体研究開発部門による三交代制「夜鷹計画」を発表したのだった。

「夜鷹計画」では研究開発スタッフが「日勤」「準夜勤」「夜勤」の3グループに分かれて24時間三交代制のノンストップ方式で働いた。つまり各グループが毎日8時間ずつ輪番で出勤して、10ナノメートルの研究開発を切れ目なく続けて学習曲線を短縮した。その目標は2016年にサムスンインテルに完全に先行することだった。

結果、TSMCの夜鷹計画は大きな成功を収めた。アップルのiPhone 6sシリーズのA9プロセッサはもともと、半分をサムスン、もう半分をTSMCが受託製造していた。だがその後、「チップゲート事件[サムスン製のプロセッサの放熱効果がTSMCより劣る]」が起きたため、2016年にアップルはA9の次のA10プロセッサの全量をTSMCに製造委託した。こうして夜鷹計画の成功がクリーンヒットを放った。

2022年にサムスンは、TSMCよりも先に3ナノメートルの量産計画を発表した。だがTSMCは3ナノメートルの量産開始を発表した。だがTSMCは3ナノメートルの量産開始こそ遅かったが、良品率と納期では明らかにサムスンに勝っており、もともと10ナノメートルプロセスでトップに立つつもりでいたインテルのことも、同社が数年にわたり足踏みをしている間に置いてけぼりにした。

TSMCはすでにすべてのライバルを大きく引き離していたと言っていいだろう。

生産ラインではなく、研究開発部門をフル稼働させる

かつてはどこの半導体生産ラインも年中無給の24時間体制で働いていたため、そこで働く技術者は2日出勤したら2日休むという「2勤2休」で勤務していた。よって彼らの生活は夜勤が回ってきたら昼間に眠って夜に仕事をするという、昼夜逆転の生活になる。

だが、研究開発部門を24時間稼働させた例は、半導体業界にはなかったはずだ。研究開発部門のエンジニアを真夜中に駆り出すなど多くの国では絵空事で、よしんばそうしたいと思ったしても、一笑に付されて終わりだ。だがTSMCは研究開発部門もセブンーイレブン、つまり24時間営業にして、途切れることなく開発を続けた。つまり、人よりも早く走って、ライバルがどれだけ努力しても追いつけないようにしたのである。
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とはいうものの、夜鷹計画は少なからぬ議論や批判も巻き起こした。社員の健康を犠牲にして研究開発を優先するなんてあんまりだ。給料を2倍にしても割に会わないと批判する人もいれば、研究開発部門ですら三交代制を採用して競争優位を時間と引き換えにしなければならないのなら、台湾のハイテク産業の競争力はすでに頭打ちになっているのではないかといった疑問の声も上がった。

だが台湾のエレクトロニクス産業が世界の舞台に立てたのは、イノベーションと柔軟性に立脚したからだ。だから夜鷹計画は台湾が人的資源分野で打ち出した独創的な戦略だったとも捉えていいのではないだろうか。私たちはよく「研究開発」と口にするが、「研究」と「開発」のうちTSMCのプロセスの研究開発は、厳密にはどちらかというと「開発」の色合いが強い。「研究(通常は個人の創造性に拠るところが大きく、人には理解しにくく、人とのリレー方式で進めることが難しい)」よりも「開発」の方がモジュール化や分業化がわかりやすい。後者は記録をしっかりと取って仕事をきちんと進め、申し送りのときにそれを分かりやすく説明さえすれば、次のシフトに入る技術者が続きをスムーズに進めていくことがでいるからだ。これが夜鷹部隊の成功の秘訣の1つだった。
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TSMCの研究開発チームは現時点で7000人以上を抱えており、2022年の研究開発費は1632億新台湾ドルにも達した。また、2年遅れているといわれていた技術も今では世界をリードし、あらゆるプロセスノード[製造技術の世代を表す]で最先端を維持し続けている。TSMCが研究開発と技術面で世界をリードするためのカギは、24時間ノンストップ三交代制の夜鷹部隊が握っていたのかもしれない。