じじぃの「カオス・地球_354_林宏文・TSMC・第2章・熊本工場(JASM)」

世界最大級の半導体メーカー・台湾のTSMC 国内初工場で開所式(2024年2月24日)

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=Gy2UOJfT9j8


TSMC】熊本新工場・JASMについてまとめ

2022.10.19 ウサギの半導体勉強部屋
●JASMの概要
・JASM の株主:
 TSMC過半数株主)
 ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社(20%未満株主)
 株式会社デンソー(10%超株主)
・主要製品:ロジック半導体(22/28nmプロセスならびに12/16nm FinFETプロセス)
・生産能力:5.5 万枚/月(12インチ, 300 mm ウェーハ換算)
・総従業員数:1,700 名
・稼働計画:
 2022年4月-建設開始
 2023年9月-竣工予定(装置搬入開始)
 2024年末-生産開始
https://www.1p-semicon.com/?p=409

TSMC 世界を動かすヒミツ

【目次】
はじめに――TSMCと台湾半導体産業のリアル
序章 きらめくチップアイランド
第1章 TSMCのはじまりと戦略

第2章 TSMCの経営とマネジメント

第3章 TSMCの文化とDNA
第4章 TSMCの研究開発
第5章 半導体戦争、そして台湾と日本

                    • -

TSMC 世界を動かすヒミツ』

林宏文/著、牧髙光里/訳、野嶋剛/監修 CCCメディアハウス 2024年発行

2024年の熊本工場(JASM)始動と第2工場の建設決定で、注目が高まるTSMC。創業時からTSMCの取材を続け、創業者モリス・チャンのインタビュー実績もある台湾人ジャーナリストが、超秘密主義の企業のベールを剥がす。
(以下文中の、強調印字は筆者による)

第2章 TSMCの経営とマネジメント より

熊本工場JASMのヒミツ――日台連携、成功のカギを握るのは

熊本県菊陽町(きくようまち)は人口4万人ほどの小さな町だ。2022年の春、半導体工場の建設がこの地で始まったことで、菊陽町は一躍脚光お浴び、工業用地の地価の名上がり幅が日本一になっただけでなく、商業用不動産の価格もそれと共に急騰した。新工場の建設はほぼ24時間体制で進められ、夜の8時を回ってもトラックや作業員が現場を出入りし、静かな地方都市だった菊陽町眠らない街へと一変した。

工場とはTSMCソニーデンソーが共同出資したJASM(ジャパン・アドバンスト・セミコンダクター・マニュファクチャリング)だ。投資総額約86億ドルのうち、日本政府からの補助金は最大4760億円で、日本で最先端の半導体工場になると同時に、過去最愛の半導体投資プロジェクトでもある。

九州はかつて日本の半導体産業にとって重要な場所であり、自動車産業サプライチェーンもあるため、TSMC日系企業合弁会社JASMが熊本に誕生したことが、日本の半導体産業と自動車産業を奮起させている。

JASMは現時点で月産5万5000枚、プロセス技術は28~10ナノメートルの間を予定している。TSMCアリゾナ工場の投資プロジェクトと違うところは、TSMCがJASMの全株式を保有するのではなく、株式保有構造上、TSMCが50%超、ソニーが20%未満、デンソーが10%超となっている点だ。

TSMCは現在、中国と米国と日本で大型工場を建設しているが、JASMは現時点でTSMCが顧客と共に設立した唯一の合弁会社である。この点から、このプロジェクトに特別な意義があることが分かる。というのも、この工場が生産するのはソニーデンソー向けのCMOSイメージセンサーや車用チップで、全量が特定の顧客に供給されることになっている。これには日本側と共に出資して、双方の結びつきを保証する意味合いがある。

TSMCが日本でJASMに投資するのは、1つにはもちろん地政学的な理由があるからだ。日本は安倍政権の時代からTSMCに対して積極的に工場誘致を働きかけてきた。TSMCの工場を誘致することで、後れを取っている日本の半導体製造技術をキャッチアップさせ、より即時的な現地供給を実現できるようにしたいという期待が日本側にあるからだ。だがTSMCの側からするとJASMへの投資と米国への投資は少し様相が異なっている。TSMC総裁のシーシー・ウェイ(魏哲家、ぎてつか)は以前に、TSMCが各国で工場に投資するのは主に顧客のためであり、日本工場の建設もそれと同じだと話している。

シーシー・ウェイは、日本は生産コストが低い場所ではないと言う。その日本に工場を設置する理由は「ある顧客をどうしても支えなければならない」からで、この日本の顧客とは、TSMCの主要顧客のサプライヤーでもある。主要顧客の製品が売れなければ、TSMCの3ナノメートルや5ナノメートルも売り先がなくなる。

シーシー・ウェイの言う「ある顧客」とはソニーだ。ソニーは世界最大のイメージセンサー(CIS)サプライヤーで、アップルにCISを提供している。そのアップルはTSMCの営業収入の26%を占める最大顧客で、アップルのスマートフォンタブレットには相当数のCISが使用されているため、もしCISが手に入らなくなったらアップルはこうした製品を販売できなくなる。つまり、ソニーを支えるために日本に工場を構えるということは、アップルを支えるのと同じことなのだ。TSMC最先端の3、4、5ナノメートルというハイエンドなプロセス技術は、アップルという大顧客にしか売ることができないからである。

TSMCが米国や日本に工場を建設したのは、日米両政府から要請があったからだと考える人もいる。この点についてシーシー・ウェイは、TSMCが各地で行っている投資は、日本や米国の政府のためではないし、TSMCにも政府と対立するような力はない、すべては顧客のため、顧客が永遠に一番だと述べている。

シーシー・ウェイはすでに、TSMCが表明できる立場を非常にはっきり伝えているように見える。顧客第一主義はTSMCの受託製造業を長期的に成功させるためのカギだ。政治に関しては、政府への不満を公然と口にしたり、政府と直接対立したりするような愚かな企業がどこにあるだろうか。トップ企業は変なする世界情勢の流れに乗って、自分の最高のポジションを見つけ出すものだ。

20年後のヒミツ――TSMCの隆盛はいつまで続くのか

2011年にアップル創業者のスティーブン・ジョブズが世を去ったあと、ティム・クックがCEOに就任したときのことをまだ覚えておいでだろう。あのとき多くの人が、ジョブズを亡くしたアップルは、顧客の心をあと何年掴み続けられるだろうかと思ったはずだ。

2018年にTSMC創始者のモリス・チャンが引退してマーク・りュウとシーシー・ウェイが後継者に立ったとき、人々の頭に同じような疑問が浮かんだはずだ。つまり「モリス・チャンが抜けたTSMCは、あとどれくらい先行していられるのだろう」と。

いい質問だ。ジョブズが物故してからもアップルはハイレベルな成長を維持し、クックが会社を引き継いだときの時価総額は3460億ドルだったが、2022年には3兆ドルを突破して、8.5倍近く成長した。ジョブズ時代のイノベーションパワーが削がれたと感じている人もいるものの、アップルは十数年経った今でも顧客に愛され続けている。

TSMCはどうだろうか。引退したモリス・チャンがインタビューに応じて、TSMCの未来について話しているのを目にしたことがある。モリス・チャンは「これからの20年もTSMCは成長を続けるはずだから問題ない。だが、その次の50年となると、TSMCは存続しているに違いないが、成長を維持しているかどうかはわからない」と言った。

モリス・チャンの言った「あと20年は問題ない」という言葉には私も同意する。