じじぃの「カオス・地球_352_林宏文・TSMC・第1章・2トップ体制のヒミツ」

C.C. Wei Takes Over From Mark Liu as TSMC Chair | TaiwanPlus News

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=PCeq4VkalhQ

TSMC会長のMark liu(マーク・リュウ)氏


2024年6月に TSMCのMark Liu会長が退任へ、後任はC.C. Wei氏に

2023年12月19日 EE Times Japan
Mark Liu氏は1993年、TSMCにエンジニアリング担当副部長として入社。先端技術事業担当上級バイスプレジデントやオペレーション担当上級バイスプレジデントなどの要職を歴任し、2012~2013年には共同COO(最高執行責任者)に就任。
その後、2013~2018年まではTSMCの社長兼CEOを務め、TSMCの最先端技術開発を指揮した。2018年6月、創業者であるMorris Chang氏の退任を受け、会長に就任した。
https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2312/19/news164.html

TSMC 世界を動かすヒミツ

【目次】
はじめに――TSMCと台湾半導体産業のリアル
序章 きらめくチップアイランド

第1章 TSMCのはじまりと戦略

第2章 TSMCの経営とマネジメント
第3章 TSMCの文化とDNA
第4章 TSMCの研究開発
第5章 半導体戦争、そして台湾と日本

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TSMC 世界を動かすヒミツ』

林宏文/著、牧髙光里/訳、野嶋剛/監修 CCCメディアハウス 2024年発行

2024年の熊本工場(JASM)始動と第2工場の建設決定で、注目が高まるTSMC。創業時からTSMCの取材を続け、創業者モリス・チャンのインタビュー実績もある台湾人ジャーナリストが、超秘密主義の企業のベールを剥がす。
(以下文中の、強調印字は筆者による)

第1章 TSMCのはじまりと戦略 より

2トップ体制のヒミツ――企業とCEOの責任と報酬を同レベルに

2018年、87歳を迎えたモリス・チャン(張忠謀、ちょう ちゅうぼう)は正式な引退を表明した。このときの事業継承は、台湾企業に大きな試金石を残すことにもなった。

かなり前にモリス・チャンを取材したとき、彼が米国のゼネラル・エレクトロニック(以下、GE)のCEO交代について話したことを、私はまだ覚えている。モリス・チャンはGEの事業は失敗だったと言った。「20世紀最高の経営者」と称されたジャック・ウェルチが複数の候補者のなかからジェフ・イメルトを後継者に選んだが、選ばれなかった残りの幹部全員がGEを辞めてしまったからだ。モリス・チャンは、彼らのような逸材をGEに引き留められなかったのは、GEにとって大きな損失だったと指摘した。

そのため、優秀な人材を辞めさせないことが、モリス・チャンの退任準備のなかでも最も大きな懸案事項になっていた。モリス・チャンは、候補者を不毛な競争に駆り立てるのではなく、基本的には候補者に課題を与えて、誰がどのポストにふさわしいかを判断するだけでいいと考えていた。モリス・チャンにしてみれば、彼らはすでに経験豊富で熟練したプロフェッショナル経営者である。だから誰を後継者に選んだとしても、残りの全員も会社に残さねばならなかった。

モリス・チャンは最初に、2012年にマーク・リュウ(劉徳音、りゅうとくおん)とシーシー・ウェイ(魏哲家、ぎてつか)と蒋尚義(しょうしょうぎ)の3人を共同COOに就任させるつもりだった。この3人はもともと、TSMCで最も重要な部門――製造、マーケティング、研究開発の責任者だった。だから彼らに共同COOを任せるためには、彼らにとって畑違いの事業を半年で順に引き継がせる必要があった。

だが事業継承を順に進めるなかで、頻繁に問題が起きた。たとえば、もともと研究開発の責任者だった蒋尚義は、研究開発の進捗状況をスムーズに把握できたが、他の2人が研究開発事業を引き継ぐ際にはさまざまな問題が発生した。モリス・チャンは以前に雑誌「天下」の取材を受けた際、この順繰りの引き継ぎ計画は完全な成功には至らなかったと明かしている。

また、蒋尚義はモリス・チャンに、CEOになる野心はないと何度も訴えた。蒋が他の2人より年上だったこともあり、その後の選抜は、マーク・リュウとシーシー・ウェイに研究開発部門とマーケティング部門でより多くの経験を積ませることが主な目的になった。蒋尚義が2013年に67歳で引退すると、マーク・リュウとシーシー・ウェイの2人が共同CEOに就任して2トップ体制になった。

選抜にあたり、モリス・チャンはパラシュート人事という選択肢を早くから捨てていた。会社のトップを外部から招くと、社内の士気が大幅に下がるためである。

TSMCには濃厚な米国文化がある。幹部の多くに海外経験があるし、米国で働いていた人も多いから」と考える人もいるが、モリス・チャンは、TSMCの企業文化の7割から8割は台湾文化だから、外部から採用された経営幹部は慣れるのに苦労するだろうと考えていた。
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モリス・チャンは雑誌「天下」の取材に対し、シーシー・ウェイはさっぱりした気質に自信家でユーモアがあり、スピーディで明確な意思決定を下す人物だと評し、マーク・リュウは思慮深い慎重派で、時間が許す限りのものごとをじっくり考えるタイプだと語っている。2人の性質がまったく異なっているため、モリス・チャンは最終決定の1年前になってようやく、マーク・リュウを会長に、シーシー・ウェイをCEOに任命することを決めた。

CEOの最大の責務は、外の世界を会社のなかに持ち込むこと
モリス・チャンは引退後に清華大学の講演会で、CEOを選んだ際の構想を次のように明かしている。

「技術の重要性はもちろん承知だが、セールスと市場マーケティングも重要だ。セールスしなければビジネス(商売)は成り立たず、利益を獲得できない。ビジネスこそが、企業が生きていくための大本となっている。よって、技術だけでなく、価格設定とリーダーシップについてもCEOは学ばなければならない。CEOの最大の責務は、外の世界を会社のなかに持ち込み、それから会社のリソースを動員して、外部からの挑戦を迎え入れることだ。CEOが会社のなかと外を繋ぐ最も重要なコネクタとなって、あらゆる面で顧客を満足させれば、株主も大喜びだ」

こうした話から考えると、モリス・チャンが2人を後継者に選んだ理由はこのあたりにありそうだ。モリス・チャンは雑誌「天下」の取材中、マーク・リュウとシーシー・ウェイの2人には非常に強い相互補完作用があるとして、シーシー・ウェイは総裁だが、マーク・リュウは会社の主な意思決定の最終確認者だと言った。つまり、資本的支出や合併、従業員の解雇、バイス・プレジデント以上の人事発令といった重要事項はどれも、熟考を重ねて取締役会で承認を得なければならないため、シーシー・ウェイが間違った決定をしたとしても、最後の砦としてマーク・リュウがいるという意味だ。

2人の意見が分かれた場合は? との問いに、モリス・チャンは「もし2人の意見が真っ向から対立したら、取締役会が重要な役どころになるはずだ」と答えている。