じじぃの「カオス・地球_347_林宏文・TSMC・序章・3+1の必勝ルート」

台湾半導体の実力を解説【Review & Preview

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=uI2xco3y__M

世界の半導体市場の行方を左右するTSMC


世界経済の「新たな要」となった台湾の半導体大手TSMCが独り勝ちできる理由

2021.5.10 COURRiER JAPON
供給不足と熾烈な開発競争が続く半導体業界で独り勝ちしている企業がある──TSMC(台湾積体電路製造)だ。
英紙「フィナンシャル・タイムズ」は、台湾にある同企業を徹底分析した長編記事を掲載した。
https://courrier.jp/news/archives/244574/

TSMC 世界を動かすヒミツ

【目次】
はじめに――TSMCと台湾半導体産業のリアル

序章 きらめくチップアイランド

第1章 TSMCのはじまりと戦略
第2章 TSMCの経営とマネジメント
第3章 TSMCの文化とDNA
第4章 TSMCの研究開発
第5章 半導体戦争、そして台湾と日本

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TSMC 世界を動かすヒミツ』

林宏文/著、牧髙光里/訳、野嶋剛/監修 CCCメディアハウス 2024年発行

2024年の熊本工場(JASM)始動と第2工場の建設決定で、注目が高まるTSMC。創業時からTSMCの取材を続け、創業者モリス・チャンのインタビュー実績もある台湾人ジャーナリストが、超秘密主義の企業のベールを剥がす。
(以下文中の、強調印字は筆者による)

序章 きらめくチップアイランド より

独自の強みのヒミツ――3+1の必勝ルート

半導体業界や情報エレクトロニクス業界を30年間取材してきた私は本書を通じて、業界や企業を研究するための経験則を確立してみたいと考えている。
TSMC(台湾積体電路製造)の創業者モリス・チャン(張忠謀、ちょう ちゅうぼう)はなぜこれほどの成功を収めることができたのだろう。そして台湾の半導体産業は、今日までどうやって世界をリードしてきたのだろう。

まずは台湾のエレクトロニクス産業全体が大きな成長を遂げた理由をまとめてみたい。情報エレクトロニクス産業と半導体産業の成功の裏には、主に3つの要因があったと私は考えている。

勤勉な国民性が生む驚異のコストパフォーマンス
まずは国民が勤勉で、コストパフォーマンスが驚異的に高いことが挙げられる。これは産業が成功を収めるための基本的な要素だ。台湾人には、たとえ残業代が出なくても残業したり仕事を自宅に持ち帰ったりするようなひたむきさと、勤勉で責任感が強いという気質がある。そして台湾の給与そう高くないため、企業の営業コストも抑えられる。つまり台湾企業には、優秀な従業員を低コストで大量に雇用できるという、高い競争力を養うための好条件がそろっている。
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事実、シリコンバレーのIC[ICを総称して「半導体」と呼ぶこともある]メーカーの多くは最低でも5割から6割の粗利益が必要だとして、4割を切る製品は作らない。マネジメントや販売、研究開発にかかるコストを差し引いたら利益が出ないからだ。だが、多くの台湾メーカーは粗利益3割のICを生産しても採算ベースに乗せられるうえ、利益を捻出するためにコスト削減にも知恵を絞り続けている。その結果、いくつものローエンド市場が台湾メーカーの土壇場と化した。

欧米メーカーは価値の創造を重視しているため、新製品を絶えず発売することで収益を上げている。たとえばインテルは、次世代CPU[コンピューターの頭脳にあたるIC]を頻繁にリリースして1つ前の世代よりも高く販売し、粗利の高い新製品の販売を常に利益獲得の最重要手段としている。よって製造コストの削減は、いつも後回しにされてきた。もちろん、インテルのプロセス技術が先行していた偉大もあったのだが、常に二番手、三番手に甘んじていて、TSMCの生産能力が増した結果、市場が奪われてしまった。

産業を細分化して特化して延びる
台湾の成功のカギを握った2つ目の要素は、各産業をさらに細かくカテゴライズして、各々を派生産業として独立させた分業制だ。そこでは各社が各自の分野で自分の強みを発揮することに専念しながら、完成品を構成するサブシステムや部品を1社が1つずつ攻略している。まるでアリの集団が、大きなケーキを切り崩しながら最後には運び去ってしまうように。

インテルは昔、CPUを販売するためにマザーボード[コンピューターのメイン基盤]まで自作していた。顧客に売り込むには、実際に動かせるパソコンにCPUを実装して必要があったからだ。だから当時のインテルCEOアンドリュー・グローブは訪台して、台湾ではマザーボードというサブシステムの製造が独立した1つの産業を形成し、ASUS(エイスース)のようなマザーボード専門メーカーがひしめき合っているのを目の当たりにしたとき、「マザーボードの生産だけで1つの産業が成り立つとも、それで収益が上がるとも思ってみなかった」と驚きを隠さなかった。

インテルはその後、マザーボードを作るのをやめてCPUやチップセットといった半導体分野に専念するようになった。

国際競争の前に国内競争で磨かれる
3つ目は、台湾では各派性産業のなかで激しい国内競争が起きていることだ。優勝劣敗の世界を生き抜くことができなければ、勝ち組になることはできないが、まずは台湾国内で競争力を磨いておかなければ、国際社会の舞台に立つこともできない。

「最初に熾烈な国内競争を経験しなければ、国際社会では戦えない」
米国の経営学マイケル・ポーターのこの言葉は、台湾の電子・半導体産業をよく言い表している。国内で闘い抜いて実力をつけ、鉄壁の産業チェーンを構築したからこそ、台湾企業の今がある。
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こうした産業クラスターが台湾に多いことも、成功のカギの1つになっている。たとえば台湾中部では精密機械や工作機械、自転車の製造が盛んで、高雄や台南はねじ産業のメッカだ。産業クラスターが発揮しているパワーのなかでも最も驚かされるのは、あらゆる製品が出そろうまで産業が発展すると、バイヤーはすべての調達を一度の訪台で済ませられるようになることだ。

以上の3点はすべて、台湾エレクトロニクス産業の成功に不可欠の要素であり、台湾でこの産業が大きく躍進した理由でもある。もちろんこのなかには、半導体産業も含まれている。

半導体産業の特色――資本と知識の集約
前述の3点のほか半導体産業には、他の情報エレクトロニクス産業にはない、産業構造が複雑で、精密性と難易度が高いという特徴がある。これらの特徴が半導体産業の参入障壁を高くしているため、研究開発と技術と長期的な努力という条件をそろえなければ、先行優位を蓄積できないようになっている。よってこれは、台湾の半導体産業に特有の競争力といってよく、この部分が3+1の「+1」にあたるもう1つの成功要素だと私は考えている。

半導体の産業構造が複雑になる理由は製造工程が数百に上るうえ、半導体産業が資本集約型産業であると同時に知識集約型産業でもあるためだ。
巨額の資金と長期的な投資が不可欠になる。昔のノートパソコンや携帯電話のように新製品を次々と発売し、薄利多売で稼ぐメーカーが、スピードと臨機応変な対応とマネジメントによって懸命に利益をひねり出してきたのとは違い、半導体メーカーはそれよりも研究開発と先行技術、そして長期的な努力に追うところが大きい。そうしなければ先行優位を蓄積できないのだ。