じじぃの「カオス・地球_349_林宏文・TSMC・第1章・中国半導体・中芯(SMIC)」

11月6日(月)「『中国SMIC、自力で最先端7nmチップ製造に成功』の衝撃!米中半導体戦争の行方と日本の戦略とは!?」萩原直哉の“スロー・トーク”第116回

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=tYFr5sB3ZJ4

中国のファウンドリーSMICの7nmプロセスノードで製造された、Huaweiの新たなスマートフォン


米制裁下のHuaweiが開発、初の中国製5Gチップを分析

2023年09月07日 edn.itmedia.co.jp
●SMICの7nmプロセスで製造
中国のファウンドリーSMICの7nmプロセスノードで製造された、Huaweiの新たな5G(第5世代移動通信)スマートフォン向けSoC(System on Chip)が話題になっている。
メディアでは、米国やその同盟国による半導体技術規制を受けた中国にとっての『勝利』だ、と取り上げられている。技術情報サービスを手掛ける米国TechInsightは、このHuaweiスマートフォン「Mate 60 Pro」を分解し、レポートを作成した(参考)。
https://edn.itmedia.co.jp/edn/articles/2309/07/news079.html

TSMC 世界を動かすヒミツ

【目次】
はじめに――TSMCと台湾半導体産業のリアル
序章 きらめくチップアイランド

第1章 TSMCのはじまりと戦略

第2章 TSMCの経営とマネジメント
第3章 TSMCの文化とDNA
第4章 TSMCの研究開発
第5章 半導体戦争、そして台湾と日本

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TSMC 世界を動かすヒミツ』

林宏文/著、牧髙光里/訳、野嶋剛/監修 CCCメディアハウス 2024年発行

2024年の熊本工場(JASM)始動と第2工場の建設決定で、注目が高まるTSMC。創業時からTSMCの取材を続け、創業者モリス・チャンのインタビュー実績もある台湾人ジャーナリストが、超秘密主義の企業のベールを剥がす。
(以下文中の、強調印字は筆者による)

第1章 TSMCのはじまりと戦略 より

中国が恐るるに足りないヒミツ――中国の中芯(SMIC)は脅威にはならない

先に述べたように、2000年は台湾の半導体産業にとって怒涛の1年だった。この年、TSMCはTI-Acerと世大積体電路(せだいせきたいでんろ、WSMC 以下、世大)を買収し、UMC(聯華電子、れんかでんし)は五合一を行ってTSMCを全力で追い始めた。そして世大創業者の張汝京(ちょうじょきょう)はTSMCに買収された世大を去り、今や中国最大のファウンドリーとなった中芯国際集成電路製造(SMIC 以下、中芯)を上海で立ち上げた。

当時、多くの台湾企業が急成長中の中国に投資したため、ハイテク業界に「上海移住」の波が押し寄せていた。中芯の創業は、台湾と中国はもとより国際社会からの注目も集めており、特に中国での就職を目指す技術者にとって、中芯は吸引力のある、指標的な企業となっていた、中芯の将来性に、だれもが高い関心を抱いていた。

そこで当時の私はモリス・チャン(張忠謀、ちょう ちゅうぼう)に取材した際に、中芯の今後の運営や発展に対する意見を求めた。

「中芯が今後、TSMCファウンドリーリーディングカンパニーとしての地位を脅かす可能性はありますか」

そのときの答えはこうだった。
「中芯はTSMCの脅威にはならない。運営も苦しくなるだろう。景気がいいときに多少は儲かるかもしれないが、儲けが出ないかもしれない。景気が悪くなれば、大赤字を出すだろう」

今から20年異常もモリス・チャンが示した見解は、かなり正確だったことがわかる。確かに中芯は創業時から赤字が続き、わずかな黒字を出したのもほんの数年だ。2020年から2022年の好景気のときに、ようやくまずまずの業績を上げたのだった。

実は私は当時、モリス・チャンの話に半信半疑で、モリス・チャンの意見に同意する業界人はほとんどいないだろうとも思っていた。当時、中国は破竹の勢いで成長を続けていたため、大国が勃興する姿に世界が驚嘆し、いっぽうで台湾の産業の多くは、人材流出と中国との熾烈な競争に直面していたからだ。だから多くの人は中芯に期待を寄せ、中芯が台湾の半導体産業の大きな脅威になるだろうと考えていた。

だが、中芯の進展の足跡と照らし合わせながら当時のモリス・チャンの見解を振り返ってみると、産業の発展と競合他社に対するモリス・チャンの深い観察力が見て取れる。

だが、もっと重要な点は、モリス・チャンが当時の段階ですでにファウンドリー産業の将来に十分な見通しを立てていたこと、そしてTSMCが10年以上培ってきた競争優位性を心から信頼していたことである。

一流の顧客なくして、一流のファウンドリーは生まれない
モリス・チャンが中芯の設立後すぐにその将来を予見できた背景には、3つの大きな理由があったと私は考えている。

まずはモリス・チャンが、TSMCの盤石な基盤に絶対的な自信を持っていたことだ。

TSMCは創業以来、受託製造業の発展を自社のなすべきこととして、顧客を成功させることを自らの使命に掲げ、そうすることで、成長してきた。ファウンドリーの主な顧客は欧米、特に米国に多く、TSMCは米国の企業文化を土台に、台湾の優れた人材をフル活用しながら、米国の一流企業に最高のサービスを提供して、ファウンドリー事業を確立してきた。

いっぽうで中芯の場合、本社を置く中国では、IC設計産業がまだ発展初期にあって顧客にもあまり競争力がないうえ、プロセスの先進性も規模も十分とはいえない。こうした環境では、中芯が技術力を磨くのは難しい。ハイエンドな顧客から高度な技術やサービスを要求され続けることもなく、顧客と共に成長する機会も得られないのだ。世界トップクラスの顧客へのサービス提供を目標に掲げているTSMCに追い付くのはたやすくない。

TSMCにとって、顧客とはファウンドリー企業が成功するためのカギである。一流の顧客を持つことでしか、一流のファウンドリーは生まれず、三流の顧客は、三流のファウンドリーを探すしかない。そして一流の顧客はすべてTSMCが握っているため、競合他社はTSMCを追い越すチャンスさえない。

半導体の勝ち組に入れない?――一流と二流の違い
中芯はいまや、TSMC、サムソン、UMC、グローバルファウンドリーズに次ぐ世界第5位のファウンドリー企業に成長し、中国の半導体製造業の中心的存在である。だが、安定株主のさまざまな思惑によって派閥問題が起きているほか、執行役員の構想も後を絶たない。他のファウンドリー大手に大きく後れを取っているだけでなく、今後も米中半導体戦争という逆風にさらされる。中芯は努力しなければ中堅メーカーの域を出られないだろう。

中芯についてのモリス・チャンの予言を振り返ってみる。20年以上前のモリス・チャンの言葉は、今の中国半導体業界の現状をピタリと言い当てていたとは言えないかもしれないが、モリス・チャンが当時から、かなり先の見通しまで立てていたのは間違いないだろう。亀の甲より年の功という言葉がある。モリス・チャンが今、米国の対中政策(中国の半導体産業の発展を遅らせる政策)を支持し、中国の半導体産業は台湾より5~6年遅れていると考えているのも、この老大人が数年後の大勢も予想しているからではあるまいか。