じじぃの「カオス・地球_353_林宏文・TSMC・第2章・価格戦略のヒミツ」
【公式】秒でNEWS180「なんで日本ではiPhoneが人気なの?」
モリス・チャン氏

なぜiPhoneはこんなに高いのか…受託製造するTSMCが掲げる「高くても売れる商品を作る」という経営哲学
2024年4月26日 Infoseekニュース
iPhoneの価格は年々上昇している。その背景には、受託製造している台湾の半導体メーカー「TSMC」の強気の価格設定がある。
●TSMCの価格は他社よりも高い
次にTSMCの価格は、先端プロセスも成熟プロセスも競合他社より高く設定されている。先に述べたようにTSMCはリーディングカンパニーとして、競合他社よりも高い良品率と早い納期と手厚いサービスを提供しているため、それに見合うだけのプレミアム価格を設定できるようになっているからだ。
特に7ナノメートル以降の先端プロセスの競合他社はサムスンとインテルしかいない。サムスンはよく値引きして受注をもぎ取っているので、TSMCの提示価格はサムスンよりもかなり高くなっている。
https://news.infoseek.co.jp/article/president_80741/
『TSMC 世界を動かすヒミツ』
林宏文/著、牧髙光里/訳、野嶋剛/監修 CCCメディアハウス 2024年発行
2024年の熊本工場(JASM)始動と第2工場の建設決定で、注目が高まるTSMC。創業時からTSMCの取材を続け、創業者モリス・チャンのインタビュー実績もある台湾人ジャーナリストが、超秘密主義の企業のベールを剥がす。
(以下文中の、強調印字は筆者による)
第2章 TSMCの経営とマネジメント より
価格戦略のヒミツ――価格以外のすべてで競合他社を圧倒せよ
TSMCの価格戦略には、深く掘り下げる価値があるとずっと考えていた。30年前に半導体産業の取材を始めたときから、半導体業界の価格競争や価格設定、値上げや値下げに関する話を数多く耳にしてきた。ここではTSMCが価格設定をどう捉えているのか、そしてモリス・チャン(張忠謀、ちょう ちゅうぼう)はなぜ、CEO(つまりモリス・チャンの言う「総裁」)の一番重要な仕事は価格設定だと考えているのかを説明したい。
実はTSMCは、ほぼ毎年のように受注価格を引き下げている。各プロセスを平均すると1年で4%ほど値下げする理由は、半導体製造の学習曲線が年々向上して良品率や効率、コスト管理の成熟度が増しているため、値下げ戦略を毎年維持できるからだ。
価格を毎年引き下げても、TSMCの成熟プロセス部門にも依然として高い収益性がある。先端プロセスをリリースした直後は学習曲線がまだ完成していないため、ある程度の間は資金をつぎ込まざるを得ないのは確かだ。しかし、TSMCの減価償却期間は業界最短の5年間が採用されているため、減価償却を終えたら6年目には粗利率と純利益が一挙に跳ね上がり、先端プロセス導入初期に利益が上がらなかった分を十二分に回収できるようになる。
TSMCの価格が競合他社よりも高く設定されるようになって久しいが、その理由は単純である。業界のリーディングカンパニーであり市場経済シェアの過半を占めているため、価格決定権を握っているからだ。
「価格以外のあらゆる分野で、競合他社をリードせよ」――モリス・チャンの最高機密
価格設定の実践経験が豊富なモリス・チャンはかねて、CEOは価格設定に定見を持ち、その決定権を握っていなければならないと再三強調している。各種技術やサービスの受託を行う際には価格を設定しなければならないが、TSMCには価格計算と価格戦略を専門に手掛ける部門がある。この部門は社内の企業計画組織の直属で、副社長が責任者となって、週に1回モリス・チャンに報告していた。
モリス・チャンは1999年に、11項目からなるTSMCの戦略を一通だけ自筆で書き記している。この自筆書を見せられたのはわずか十数人の幹部のみで、これが企業統治の最高機密だった。このなかで最も重要な項目が、「TSMCは価格以外のあらゆる分野で、競合他社をリードしなければならない」だった。
別な表現をすると「TSMCの価格は競合他社より常に高く設定し、技術、良品率、納期、サービスといった価格以外のすべての分野で競合他社をリードしなければならない」となる。価格以外の全てで競合他社よりも優位に立てば、価格設定でも主導権を握ることができ、顧客はTSMCの提示価格を受け入れるしかなくなるからだ。
アップルのスマートフォンは他社製品よりも高いのに消費者が欲しがるのと同じで、TSMCの顧客はTSMCのファウンドリーサービスに対して、価格はほかより高いがそれを補って余りある価値を感じているのだ。
モリス・チャンは会社の人事構造を例に挙げて「価格設定」の重要性を説いている。CEOの報酬は通常、一般的なエンジニアの50倍、作業員の400倍だが、そもそもCEOはなぜエンジニアの50倍もの報酬を得られるのか。会社の利潤は販売価格からコストを差し引いた額になるが、仮にここで、1%のコストを削減するためにエンジニア1000人をリストラしなければならなくなったとする。この場合、価格設定に長けたCEOなら価格を1%上げて、1000人をリストラしたのと同じ効果を生み出すはずだ、CEOがもっと値上げしても製品を売ることができれば、CEOが高額の報酬を受け取ってもいいはずだ。
もちろん、市場競争が激しくなると従来価格の維持すら難しいのだから、簡単に値上げできない。だがモリス・チャンは差別化されていない製品を売るときは、販売価格の決定権は販売者ではなく市場と競争相手にあるが、オーダーメイド製品を製造する場合、価格設定の余地は大いにあると語っている。
サムスンのメモリーが汎用品であるのと対照的に、TSMCが受託する製品はオーダーメイド品が多いため、TSMCの方がより大きな価格決定権を持っている。しかもTSMCは業界のリーディングカンパニーでもあるため、むしろ積極的に価格決定権を行使できる立場にある。