じじぃの「カオス・地球_297_日本がウクライナになる日・第5章・迷える中国は?」

【豊島晋作】拡大する中国「デジタル人民元」の影響力!各国が模索する通貨のデジタル化【セカイ経済】(2023年8月1日)

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=odR1VRyI-nY

ドル覇権に挑戦する人民元


ドル覇権に挑戦する人民元 ―世界秩序の変動と日本の対応

2023年8月8日 一般社団法人平和政策研究所
【執筆者】眞田幸光(愛知淑徳大学教授)
1.ドル覇権の揺らぎ
ここ数年間の国際情勢の大きな変化は、コロナ禍とウクライナ戦争によって起きたと思う。
現行の世界秩序は、その価値判断は別にして、英米の秩序を標準として成り立っている。つまり、英語(言語)、米ドル(通貨)、英米法(法律)、ISO(モノ作り基準)、英米会計基準など、ビジネスに必要な基本的標準は英米の基準で成り立っている。ところが、この英米の基準が「今後崩れていくかもしれない」という声が(国際マーケットの世界で)じわじわと高まりつつある。
https://ippjapan.org/archives/7841

『日本がウクライナになる日』

河東哲夫/著 CCCメディアハウス 2022年発行

プロパガンダにだまされるな。「プーチン=悪、ゼレンスキー=善」という単純な見方でウクライナ危機の深層は分かりません。外交官・作家としてソ連・ロシア観察50年の実感から書いた、歴史・軍事・地政学に基づくロシア・ウクライナ関係の多角的分析。

第5章 戦争で世界はどうなる?――国際関係のバランスが変わる時 より

迷える中国は?

ロシアとウクライナ、両方とも大事
中国は今回の宇露で、ふらついている「ロシアがこれだけ世界の孤児になると、中国一国だけではとてもアメリカに立ち向かえない。ロシアはこれから中国にとって余計な負担になるかもしれない。ロシアのせいで自分も世界経済の中で干されたら、国内が大騒ぎになって権力がもたない」と思っているからだ。

それに、中国は今回、ロシアの肩を持ってウクライナを敵に回すことはできない。なぜならば、中国は緊密な経済関係を築いており、トウモロコシなど穀物の輸入先としてウクライナは1、2位の位置にあるからだ。そしてウクライナは実は軍事技術の宝庫で、中国はカネのないウクライナの弱みにつけこんで、ずっとこの技術を吸収し続けている。既に言ったように、ソ連時代のウクライナは、アメリカを狙う長距離核ミサイルSS-18を製造できる唯一の企業を持っていたし、軍艦のタービン・エンジン、ヘリコプターのエンジンも独占供給していた。

それにロシアはアメリカに対抗するため、中国と準同盟関係にあっても、このごろは最先端の技術は出したがらない。4千キロメートルもの国境線を境にして、旧満州部分だけでも人口はロシア極東部の20倍、経済力ではそれをはるかに超える中国である。ロシアはその存在を怖がっているのだ。
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宇露戦争でロシアを非難した、国連総会緊急特別会合での決議に、中国は反対することなく棄権した(2014年クリミア併合無効の決議でも棄権している)。西側の制裁で旅客機の部分が入手できなくなったロシアが中国にこれを頼んできた時には拒絶している。部品は中国がエアバス(ヨーロッパの航空宇宙機器製造会社)のライセンスで製造しているのだ。これをロシアに提供すれば、西側の制裁の抜け道になってしまう。そうすれば、中国は西側から制裁を食らう。

また、ウクライナでの戦況が思わしくなくなったロシアが、中国にドローンなどの供与を頼んできた時にも、アメリカの圧力を受けて、供与の決定を引き延ばしている。

制裁で、ロシアが世界経済の孤児にさらされたのを、中国はじっと見ている。今回ロシアを助けたら、中国もアメリカに制裁を食らいかねない。今年の秋には共産党の党大会がある。習近平が終身の指導者になるのを決めようという時に、なけなしの経済をさらに悪くするわけにはいかないのだ。

何千年もの、血で血を洗う抗争を経てきた中国には、冷酷な格言がある。それは、「水に落ちた犬は叩け」というもの。今回ロシアは、世界の孤児扱いになる。それを助けるのは大変な負担だ。もともとアメリカに対抗するためにロシアを引き込んでいたのだ。力になるどころか、しがみつかれては叩きたくもなる、というものだ。

自他とともに過大評価の中国
中国の力は、中国自身、そして世界中が過大評価している。過大評価することで、中国自身、そして世界中の国々の外交政策がおかしなことになっている。

中国の現在の力は、2000年代以降の経済の大躍進に基礎を置いている。この大躍進は、19世紀後半、ヨーロッパからの大量の移民と賃金の流入産業革命の同時進行で、アメリカが一農業国から超大国に変身を遂げた時によく似ている。

ただ、中国の躍進は、19世紀後半のアメリカに比べて、足腰に問題を抱える。大企業の多くは国営で、社会保障負担の多くを担っていたり、数年で転出する共産党幹部に経営をかき回されたりして、敏捷性が足りない。現代の製造業のコメとも言える半導体では、金額ベースで85%ほどを外国からの輸入に依存している。自分で設計できても、微細な加工ができる製造機械、そして高品質の素材製造技術は米日欧の企業が独占していて、これの対中・対露輸出は法律で禁止されている。

ドル支配の世界に終止符は打てない
そして中国政府は近年、毎年60兆円を超える財政赤字を続けていて、これを国債を発酵してまかなっている。その中で、外国人が保有する中国国債が増えている。これは中国政府の負債なので、人民元が暴落した時、人民銀行が介入用に使える外貨が実は足りないということだ。外貨準備から上記の負債分などを引くと、外貨準備の規模は公表されている300兆円強から50兆円程度にまで大減りしてしまう。

中国政府は、近く「デジタル人民元を発行すると、もう何年も言っている。「これで米国ドルの世界支配は終わり」という呼び声が高いのだが、そうはならない。デジタルと言うが、既に中国での取り引きは、細かいものまでスマホ、つまりデジタルで決済がされるようになっている。そこを敢えてわざわざ「デジタル人民元」と呼ぶからには、何か違いがないとおかしい。

ところが違いをつけようとすると、いろいろ問題が起こる。「デジタル人民元」は、中央銀行であるところの人民銀行が独占的に発行するものなのだが、全国の資金需要をそれで満たすことができるのだろうか。特に、各地方での融資をやってきた他の国営・民間銀行の仕事を、人民銀行だけでこなせるだろうか。

そして、デジタル人民元にしたから他の通貨との交換が自由にできるかと言ったら、そうではない。これまでと同じで、資本取引では自由な交換は認められないだろう。だとすると、「世界の基軸通貨」などにはなりえない。その他、いろいろ理由はあるが「デジタル人民元」というのは、眉唾ではないかと思うのだ。

というわけで、結局のところ世界では、製造業も金融業もその他も満遍なく強い経済、しかも交換自由で使い勝手のいい通貨ドルを持つアメリカが、ナンバーワンの地位を続けていくだろう。心地いいものではないが、人のものを力ずくで取り上げていくロシアや中国よりは、ぜんぜんましだ。アメリカには変な人間も多いが、基本的には自由で民主的。

中国がアメリカをしのぐ日は来ない。国際政治、世界経済、そして外交を考える場合には、このことを念頭に置くべきだろう。