じじぃの「歴史・思想_582_トッド・第三次世界大戦の始まり・ロシアの経済的抵抗」

Russia is Using Chinese Yuan Instead of Ruble and US Dollar

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=P_K9hNX7Q1w

ロシアのルーブルと中国の人民元


人民元ルーブル取引が1067%増! アメリカの制裁により広がる非ドル経済圏

2022.6.3 Yahoo!ニュース
【執筆者】遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士)
アメリカが中露、特にロシアに対して金融制裁を強化する中、中国の人民元とロシアのルーブルの取引が爆発的に増加している。
特に人民元の成長が著しい。アメリカの大手メディア、ブルームバーグが報じた。
ウクライナ戦争が中国経済を強大化させる
中露がドル以外の取引を進めることは、いくつかの新興市場の間で人気を集め、中露が進めるドル・リスク軽減戦略を有利にしている。
https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20220603-00299148

第三次世界大戦はもう始まっている』

エマニュエル・トッド/著、大野舞/訳 文春新書 2022年発行

4章 「ウクライナ戦争」の人類学 より

第二次世界大戦より第一次世界大戦に似ている

我々はすでに「世界大戦」に突入してしまいました。そして戦争の歴史によく見られるように、誰もが予測していなかった事態が、いま起きています。
先日、ドイツの財界人や経営者を読む『フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング』紙に、「この戦争は1914年と1939年のどちらと比較すべきか?」という見出しの記事が出ていました。要するに、この戦争を「第一次世界大戦」「第二次世界大戦」のどちらのアナロジーで捉えるのが適切なのか、と問いかけているわけですが、私自身は「第一次世界大戦」の方が近いと考えています。
ロシアによるウクライナ侵攻が始まった時、おそらく多くの人々は、第二次世界大戦電撃戦のような戦争を想像していたことでしょう。しかし実際は、戦争の進行は遅く、むしろ第一次世界大戦のようになりつつあります。
もちろん第一次世界大戦の時も、人々は、「短期決戦」で片がつくと思っていました。ところが実際は、誰も想定していなかったことが起きたのです。
予想に反して、フランス軍がドイツ軍による攻撃を食い止めました。そこでドイツ軍は北海方面へと突き進み、4年にわたる「長期戦」が始まってしまったのです。
第一次世界大戦は、少なくとも西部戦線においては、はっきりとした軍事的勝利によって終結を迎えたわけではありません。連合国のイギリスと、とくにフランスが「兵糧攻め」にしたことによって疲弊したドイツが、精神的にも崩壊し、第一次世界大戦はようやく終わりを告げたのです。
ではいま、何が起きているのでしょうか。軍事的な側面と経済的な側面の2つの面から分析できるでしょう。

正しかったミアシャイマーの指摘

2022年3月23日のインタビュー[本書「1 第三次世界大戦はもう始まっている」]で私は、アメリカの戦略的現実主義者の論客ジョン・ミアシャイマーの議論に言及し、彼の見立てに大方同意しながら、批判も加えました。
それから1ヵ月近く経過したわけですが、この間の推移を見てみると、前回述べたことはすべて有効であることが明らかになってきたように思います。
私が同意したミアシャイマーの第1の見解は、「いま起きている戦争の原因と責任は、アメリカとNATOにある」ということ、つまり、ウクライナが”事実上”(defacto)のNATO加盟国になっていたからこそ、ロシアは、強大化していたウクライナ軍を手遅れになる前に叩き潰そうと決断した、という指摘です。
私が同意した第2の見解は、「ウクライナ側の軍事的成功と、ロシアが陥っている困難な状況を、われわれ西側の人間は、手放しで喜んでばかりはいられない」というものです。その上でミアシャイマーは、「この問題は、ロシアにとって『生存をかけた死活問題』である以上、ロシアは困難な状況に陥ることで、さらに攻撃的、暴力的になるだろう」と予測していました。
現状を見るかぎり、すべて彼の予測通りに事態は進んでいます。戦闘は、ますます容赦のないものとなり、ロシアは、この戦争にますます深くのめり込んでいるからです。

ミアシャイマーへの反論

しかし私は、一点においてミアシャイマーを批判しました。
「ロシアはアメリカやNATOよりも決然たる態度で態度でこの戦争に望むので、いかなる犠牲を払ってでもロシアが勝利するだろう」と彼は予測しました。この問題は、ロシアにとって「死活問題」である一方、アメリカにとっては「地理的に遠い問題」「優先度の低い問題」で「死活問題」ではないからだ、と。
しかし私は、そうではないと考えました。これでもしアメリカがロシアの勝利を阻止できなかったら、アメリカの威信が傷つき、アメリカ主導の国際秩序自体が揺るがされることになるからです。そうである以上、この問題は、アメリカにとっても「死活問題」になる、と私は考えたわけです。
この1ヵ月の事態の推移によって、ミアシャイマーの指摘の大部分だけでなく、彼に対する私の批判もまた有効だったことが証明されたように思います。

米国は戦争にさらにコミットする

いまアメリカがロシアの軍事的失敗を喜んでいるのは、明らかです。
ロシアに対する経済制裁によって、ヨーロッパ経済、とくにドイツ経済が麻痺していくことについても、ひそかに満足感を味わっていることでしょう。
しかしそのこと以上に、中国に支援された「ロシアの経済的抵抗」によって、アメリカ主導の国際秩序が窮地に追い込まれることを恐れているのではないでしょうか。
ロシアは、中国に支えられながら、制裁に耐えています。

今後、中国は、さらにロシアを支援することになるでしょう。ロシアが倒れたら、次はみずからが単独でアメリカに対峙しなければならないことを承知しているからです。つまり、中国にとって、戦略上の選択肢は他にないわけです。

ここにきて、中国はロシアとの戦略的連帯を再確認するに至っています。この「中露陣営」に対して、「西洋陣営」を固めることにアメリカは必死になっています。もしロシアがこの戦争に耐えて生き延びるとすれば、それ自体が、世界の経済的支配力をアメリカが失うことを意味するからです。
西側諸国のロシアに関する言説は現実離れしたもので、合理性を欠いています。それは本質的に、基軸通貨ドルを前提にした言説で、「ドルこそ世界の”真実”であり、ドルの外に位置する国は世界から孤立する」という言説です。
アメリカの戦争の”真の目的”は、アメリカの通貨と財政を世界の中心に置き続けることにあります。だからこそ、早期の停戦をめざすのではなく、この戦争にどんどん突き進んでおり、この戦争にさらに深くコミットする覚悟でいるはずです。