じじぃの「歴史・思想_585_トッド・第三次世界大戦の始まり・経済力はエンジニアの力」

Top technical international university in Russia (SPbPU)

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=I57P6KzL9BA

Russian Technical Universities


Russian Technical Universities

13 March 2018 latest news on russian education
The high level of education provided by Russian engineering universities attracts students from across the world.
According to statistics, engineering and technology fields are popular with 22 percent of international students. Foreign nationals select not only Moscow and Petersburg for engineering education but also other host cities across Russia.
https://studyinrussia.ru/en/actual/articles/russian-technical-universities/

第三次世界大戦はもう始まっている』

エマニュエル・トッド/著、大野舞/訳 文春新書 2022年発行

4章 「ウクライナ戦争」の人類学 より

米露の生産性

ロシアは、人口規模では日本と同程度にすぎません。軍も疲弊しているようで、装備も十分でないようです。しかし、以下の点に注目すべきです。
まず2014年以降に科された経済制裁に対して、ロシアはうまく適応しました。農業生産が倍増するなど、2014年から2022年にかけてのロシア経済の適応能力には目を見張るものがあったのです。
さらにロシアは、中国を頼りにすることもできます。工業生産で中国が協力することになれば、ロシアが弾薬不足に困ることはないでしょう。
他方、アメリカはどうか。たとえば、1945年時点でのアメリカの生産力は圧倒的で、世界の工業生産の半分をも占めていました。しかし今はそうではありません。
さらに今日のサプライチェーンは、相互依存が進み、非常に複雑化しているため、予測困難です。実物経済で世界各地からの供給に全面的に依存しているアメリカにとっては、大きなリスクとなるでしょう。

真の経済力は「エンジニア」で測られる

そもそも西側諸国の経済力を過大評価する一方で、ロシア経済の耐久力を過小評価しているのは、今日の経済分析があまりに具体性を欠いているからです。
各国の経済力を測るには、農業部門、工業製品、サービスの付加価値を集計した国内総生産GDP)を比較するのが通例ですが、例えば、アメリカの弁護士の熱心な活動が数字上は膨大な付加価値を生み出しているように、そこには、まったく「生産的」ではなく文字通り「虚構」と言えるようなサービスもかなり含まれています。
ロシアの経済力は、こうした指標(GDP)で測れば、韓国と同程度となります。
しかし、もしロシアの経済力がその程度だとすれば、ロシアはどうやってアメリカと軍事的に対峙できているのでしょうか。クリミア占領後の欧米の制裁にどうやって耐えたのでしょうか。それどころか、その後、穀物原発の輸出大国になり得たのはなぜでしょうか。欧米のシステムから自立したインターネット網や銀行システムをどうしてつくれたのでしょうか。S-400地対空ミサイルシステムや超音速ミサイルの開発など、ある分野ではアメリカを技術的に凌駕できたのはなぜでしょうか。
これらはすべて「謎」なのでしょうか。
経済力を抽象的に捉えるのではなく、労働人口の教育水準といった経済力の具体的な中身を見れば、何の不思議もありません。

現在、ロシアの中等教育システムの水準は、アメリカのそれよりも高いと思われます。そしてとくに、アメリカとは違ってロシアでは、多くの若者がエンジニアとしてのキャリアを志向していることが重要です。

2019年のOECDの調査によれば、高等教育の学位取得者のうちエンジニアが占める割合は、アメリカが7.2%であるのに対してロシアは23.4%です(日本は18.5%、韓国は20.5%、ドイツは24.2%、イギリスは8.9%)。
この「エンジニア不足」をアメリカは、他国からの”輸入”で補っているわけですが、問題は、そのエンジニアの多くが中国人であることです。
ここに、未来予測を可能にするような手がかりが存在します。「アジアからアメリカへのエンジニアの流入は今後も続くのか」という疑いが生じてくるのです。
第1に、インド出身のコンピュータ技術者はあまり問題でないにしても、中国人エンジニアを大量に受け入れることに、安全保障上の問題はないのでしょうか。
害2に、東アジア諸国が急速な少子化に直面している以上、アメリカは、これまでのようにはアジア系移民を当てにできなくなるのではないでしょうか。
ここでもし、アメリカの経済力を「ドル」ではなく「エンジニア」で測るとすれば、グローバルなサプライチェーンの崩壊――この戦争が引き起こしている「脱グローバル化」――に、アメリカは対応できるのかが問われてきます。
そしてもし、ロシアの経済力を「ルーブル」ではなく「エンジニア」で測るとすれば、2014年からの制裁に耐えられたように、2022年の西側による制裁にもロシアは耐えられるのではないか、考えられるのです。
断言はできませんが、科学的厳密さをもって、私たちは次のように問わなければなりません。「経済の真の柔軟性」とは、銀行システムや金融商品を開発する能力にではなく、生産活動の再編成を可能にするようなエンジニア、技術者、熟練労働者にこそ存しているのではないか、と。
いま問われるべきは、アメリカ経済の真の実力です。アメリカはウクライナに400億ドル(約5兆円)もの資金を援助する一方で、ベビー用粉ミルクが不足し、急遽スイスやオランダから輸入する必要がある、と『ニューヨークタイムズ』紙が報じています。「貨幣を配ること」と「実際の商品を配ること」は同じではないのです。
アメリカは、勇敢なウクライナ兵と優れたアメリカの武器でロシアを追い詰めようとし、ロシアを永久に弱体化させることを目的にこの戦争を長引かせるために、ウクライナに膨大な貨幣を供給しています。
しかし、ここには大きなリスクがあります。アメリカ産業の脆弱さと中国製品への依存は、もう1つの可能性を示唆しているからです。中国には、戦争が長期化するなかで、ロシアを利用してアメリカの武器備蓄を枯渇させることで、アメリカの弱体化を図るという選択肢が残されています。巨大な生産能力を持つ中国からすると、ロシアに軍需品を供給するだけで、アメリカを疲弊させることができるのです。