じじぃの「歴史・思想_587_トッド・第三次世界大戦の始まり・ヨーロッパの立場」

Could the Ukraine war turn into World War III ?

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=8exTSmRnXUw

Could the Ukraine war turn into World War III ?


第三次世界大戦はもう始まっている』

エマニュエル・トッド/著、大野舞/訳 文春新書 2022年発行

4章 「ウクライナ戦争」の人類学 より

第二次世界大戦より第一次世界大戦に似ている

我々はすでに「世界大戦」に突入してしまいました。そして戦争の歴史によく見られるように、誰もが予測していなかった事態が、いま起きています。
先日、ドイツの財界人や経営者を読む『フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング』紙に、「この戦争は1914年と1939年のどちらと比較すべきか?」という見出しの記事が出ていました。要するに、この戦争を「第一次世界大戦」「第二次世界大戦」のどちらのアナロジーで捉えるのが適切なのか、と問いかけているわけですが、私自身は「第一次世界大戦」の方が近いと考えています。
ロシアによるウクライナ侵攻が始まった時、おそらく多くの人々は、第二次世界大戦電撃戦のような戦争を想像していたことでしょう。しかし実際は、戦争の進行は遅く、むしろ第一次世界大戦のようになりつつあります。
もちろん第一次世界大戦の時も、人々は、「短期決戦」で片がつくと思っていました。ところが実際は、誰も想定していなかったことが起きたのです。

本来、この戦争は簡単に避けられた

さてここからは、私が最も懸念する事柄について述べたいと思います。
私は、「西側メディアからじょyほうを得ているヨーロッパ人」という立場で話をしています。ロシア語は分からないし、そもそも戦時下の情報は不確かなものばかりで、限られた情報しか持ち合わせていません。にもかかわらず、この戦争勃発の「以前」と「以後」が信じがたいほど”不釣り合い”であることは明らかで、まずそのことに私は驚いています。
この戦争は、「ウクライナの中立化」という当初からのロシアの要請を西側が受け入れていれば、容易に避けることができた戦争でした。
そもそもは解決が非常に簡単な問題だったのです。ロシアは、戦争前にすでに安定に向かっていました。自国の国境保全に関してロシアを安心させていれば、何事も起こらなかったはずです。その意味で、ロシアの立場の方がヨーロッパの立場より、シンプルでリーズナブルなものに私には見えます。

「反露感情」で経済的に自殺するドイツ?

とはいえ、ヨーロッパの人々は、この戦争が実際に始まったことに、精神的に大きな衝撃を受けています。そこが、常に戦争をしてきたアメリカとは異なるところです。
そして今後、ヨーロッパの人々は、対ロシア制裁の具体的な影響を感じ始めることでしょう。この点も、ロシアと経済的関係が深くないアメリカとは異なるところです。その意味で、この危機の第1の被害者はウクライナ人ですが、第2の被害者はヨーロッパ人のなです。
対ロシア制裁によって、ドイツは自国産業の崩壊というリスクに直面するでしょうし、ヨーロッパの中でロシアへの最大投資国であるフランスも、ロシアでの権益を失い始めています。
フランス右派の『フィガロ』紙には、「この戦争から直接利益を得るのはアメリカだ。アメリカはこれを機に液化天然ガスをヨーロッパに売ろうとしているのだ」という記事が出ていました。実際、アメリカが最も懸念していたのは、ドイツを中心としたヨーロッパがアメリカから自立することだったのですが、ロシアとドイツを結ぶ天然ガスパイプライン「ノルド・ストリーム2」を停止させることに見事成功しました。
これから注視すべきなのは、フランス以上にドイツの動きです。
ドイツの未来は非常に不明瞭です。というのも、ドイツ企業の経営者たちが、ロシアからのエネルギー供給が途絶えることに不安を感じている一方、ドイツ国民の「反ロシア感情」は、フランス国民のそれよりも強いからです。
フランス人にとって、この戦争から顔を背けることは、精神的にさほど難しいことではありません。そもそもフランス人の大多数にとっては、どこにあるかもよく分からないほど、ウクライナは”遠い国”であり、歴史的にもほとんどつながりがないからです。
フランス大統領選の1回目の投票では、「ロシアに近い」と批判されていた極左のメランションと極右のルペンが高い得票率を得て、「ロシアにより厳しい態度で臨むべくだ」とする共和党のペクレス、環境政党のジャドー、社会党のイダルゴは大敗しました。低所得層から票を得ていたのはメランションとルペンの方で、要するに、ロシア関連の問題には、フランスのエリート層が関心を抱いているだけで、一般大衆は関心がないのです。
これに対して、ドイツにとって、ウクライナ問題は、より身近で重大な問題として存在しています。まさに第二次世界大戦ソ連赤軍ドイツ国防軍が死闘を繰り広げた戦場だったからです。先祖をウクライナの地で亡くした人もいて、ドイツ人にとっては、より具体的で感情的にも複雑な問題なのです。
この点を考慮すると、ドイツが今後、非合理的な「反ロシア感情」によって経済面で自殺的な行動に走る可能性も十分考えられます。

ウクライナに兵器を送るべきだ」の冷酷さ」

いま西側、とくにヨーロッパの人々は衝撃を受けている状態ですが、戦争はまだ”リアルなもの”とはなっていません。経済的なショックは、現実にはまだ生じておらず、生じたとしても労働者層に影響を与えるもので、たとえば物価高騰は、私のようなパリに暮らすブルジョア層ではなく、地方に暮らす市民層を苦しませます。
現在の状況は、私に「モノポリー」というゲームを思い起こさせます。
最初はとくに何も考えずゲームに参加してみる。するとだんだん熱中し始め、家を建てたり奪われたりしながら、ゲームにのめり込んでいく。そしてゲームが終わった途端に熱は冷め、いったい自分は何をしていたのだろうと我に返る。
これを私は「モノポリー効果」と呼びたいのですが、いまフランス人は、まさにそのような状況に置かれています。ウクライナで起きていることに対して、ろくに考えもせずに発言し、ウクライナ人が具体的にどんな状況にいるのか想像すらできていないのです。
アメリカの戦略的現実主義者の論客ジョン・ミアシャイマーが指摘していたように、「ウクライナに兵器を送るべきだ!」「ウクライナ人は最後の1人になるまで戦うべきだ!」などと声高に叫ぶことが、どれだけ冷酷なのかにすら気づいていません。「もうこの戦争は終わられなければならない!」「交渉するべきだ!」とは誰も言わないのです。
この戦争にブレーキをかけうる要素を1つ考えるとすれば、関係国の人口動態上の脆弱さです。
人口減少はそれ自体、社会の存続に取っては問題ですが、国家間紛争の解決は、各国の人口が増大する局面よりは減少する局面の方が容易だからです。
いま私たちが生きているのは、人口が貴重なものになっている時代です。出生率の低下によって、人口が非常に縮小しています。人口減少は、日本だけでなく、ロシアでもウクライナでも生じています。人々に理性を取り戻されることができるとすれば、それはひとえに「兵士の命の価値の高さ」へ意識が向けられることによってでしょう。

米国が”参戦国”として前面に

ここに来て、アメリカがいよいよ、この戦争の中心的な”参戦国”として姿を現しつつあります。ロシアが示していた「レッドライン」を無視してウクライナ武装化することで事実上のNATO加盟国とし、そもそもの初めから1番の当事国であったことをみずから”告白”しているかのようです。この戦争は、ロシアとアメリカの戦争であることがはっきりしてきたわけです。

ウクライナの背後でこの戦争を主導しているのは、アメリカとイギリスです。この事実自体が、ドイツ、フランス、日本、そして他の国々に対して「果たしてこの戦争にコミットすべきなのか」と問いかけています。