じじぃの「歴史・思想_583_トッド・第三次世界大戦の始まり・時代遅れの空母」

Aircraft carrier Shandong upgrade complete, sails through Taiwan Straits driven away US warship's

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=yCNBv5QFqHY

「時代遅れ」と言われる空母に、中国はなぜこだわるのか


【そもそも解説】「時代遅れ」と言われる空母 中国がこだわる理由

2022年6月17日 朝日新聞デジタル
上海で17日、中国海軍3隻目となる空母「福建」が進水した。習近平(シーチンピン)国家主席が掲げる「世界一流の海軍」の実現へ、さらに増強を図る構えだ。
ミサイルや無人機など最新技術を駆使した兵器の開発が各国で進み、「空母は時代遅れ」との指摘もあるなか、中国はなぜ空母建造にこだわるのか。
https://www.asahi.com/articles/ASQ6341RCQ62UHBI048.html

第三次世界大戦はもう始まっている』

エマニュエル・トッド/著、大野舞/訳 文春新書 2022年発行

4章 「ウクライナ戦争」の人類学 より

時代遅れの「戦車」と「空母」

この戦争から得られる教訓は他にもあります。
第1は、軍事技術に関するもので、”逆説的な教訓”も含まれています。
ウクライナ軍の完全ではないにしろ一定の成功から、「戦車は時代遅れの兵器である」ことが明らかになりました。アメリカがウクライナに給与した「ジャベリン」など、携帯式対戦車ミサイルによって、「戦車の弱点」が露わになってしまったのです。
この事実は、ロシアのように「陸地の戦い」を得意とする「ランドパワー(大陸勢力)」にとっては深刻です。おそらく今後、ロシアにとって頭痛の種となるでしょう。
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アメリカの「空母の脆弱性」は、「台湾問題」にも直結してきます。中国は台湾に武力侵攻した場合、果たしてアメリカは台湾を守れるのでしょうか。アメリカの空母が軍事技術としてすでに廃(すた)れている以上、「アメリカは台湾を守らない/守れない」と私は考えます。この点は、日本にも無関係ではありません。

米国の戦略家の”夢”を実現

第2は、外交面での教訓です。
ミアシャイマーは、ロシアによる侵攻の前から、「ウクライナが”事実上”のNATO加盟国になっていた」と指摘していましたが、実際の戦場で、そのことが想像以上に事実として明るみに出ました。この戦争で誰も最初に驚いたのは、2014年以降、ウクライナ軍が、アメリカとイギリスによって見事に増殖されていたことです。アメリカの情報活動や衛星システムに支えられながら戦う姿を見ていると、「ウクライナ運はすでにアメリカ軍の一部」とすら思えてきます。
ウクライナ軍は、アメリカの優れた軍事技術を手にしつつ、逆にアメリカ軍兵士には欠けている”勇敢さ”も兼ね備えています。
アメリカは、冷戦終結後も常に戦争をしてきたわけですが、相手は弱小国ばかりで、自分より強い敵を相手に直接戦うことはありませんでした。その意味では、「アメリカの優れた軍事技術に支えられた、死も厭(いと)わず自分よりも強い相手に立ち向かう勇敢なウクライナ軍」は、アメリカの戦略家たちの”夢”を実現したものとも言えるのです。

”真のNATO”に独仏は入っていない

ロシアによる侵攻の前に、アメリカとイギリスはそれを予告していました。しかし、ドイツとフランスは、「ロシアとの交渉はまだ可能だ」と言い続けていました。
この点については「ドイツとフランスの情報機関の仕事がずさんだった」と解釈され、実際、フランス軍情報当局トップのエリック・ヴィドー将軍が解任されましたが、真実はそこにはないと思われます。
アメリカもイギリスも、ウクライナで起きていることを把握していました。ウクライナ軍をコントロールしていたのはアメリカとイギリスで、ロシアに脅威となるほど増強されていたことも認識していました。だからこそ、彼らはロシア側の反応も容易に予測できたのです。しかしドイツとフランスは、ウクライナが戦争に向けて準備をここまで進めていたことを把握していませんでした。
これは、NATOにおける”事実上”の重要度は、NATOに正式に加盟しているかどうかに関係ないことを意味しています。
軍事的な意味での”真のNATO”とは、アメリカ、イギリス、ポーランドウクライナ、そしておそらくスウェーデンから成り立っています。そこに、ドイツとフランスは入っていないのです。それほど強力でないドイツ軍は、ウクライナ危機をめぐる軍事同盟のメンバーとしては、事実上、見放されています。フランスは一定の軍事力を保持していますが、事態を把握できていません。
この二国は、いわば”人質”に取られたような状態にあると言えるでしょう。”真のNATO”メンバーではない一方で、自律的に自由に行動することも許されていないのです。
実際に戦闘が始まることでこれまで顕在化していなかった、こうした外交的構造も可視化されてきました。

ウクライナ分割

この戦争が軍事面でも長期化する可能性が高いのは、アメリカが許容できる戦況ではないからです。
ロシア軍の失敗は、確かに驚くベきものでした。キエフ(キーウ)制圧の失敗も、黒海艦隊の旗艦「モスクワ」の沈没も、凄まじい失態でした。
とはいえ、もし戦争が現時点で終結すれば、ロシアは、ヘルソン州からドンバス地方までの広大な領土をすでに奪取したことになります。クリミア半島への水の供給源確保にも成功し、アゾフ海も「ロシアの湖」のようになっています。アゾフ大隊の大半を叩き潰すこと――プーチンの言う「非ナチ化」――にも成功しています。
領土を少しずつ獲得している点では、18世紀のヨーロッパにおける戦争に似ているかもしれません。当時と同じように、領土(ウクライナ)が分割され始めたわけで、現時点ではロシアが勝利を手にしつつあります。
しかし、これはアメリカには許容できないことです。だからこそ、この戦争は、まだまだ続くことになるのです。