Climate Engineering Conference 2014: Critical Global Discussions
Climate Engineering Conference 2014
2014 Berlin Climate Engineering Conference "Accelerated Weathering"
Aug 23, 2014 PPT
https://www.slideshare.net/slideshow/2014-berlin-climate-engineering-conference-accelerated-weathering/38268071
気候を操作する―温暖化対策の危険な「最終手段」
【目次】
はじめに
第1章 深刻化する気候変動
第2章 不十分な対策と気候工学の必要性
第3章 気候工学とは何か―分類と歴史
第4章 CO2除去(CDR)
第5章 地域的介入
第6章 放射改変(SRM)
第7章 放射改変の研究開発―屋外実験と技術
第8章 ガバナンス
第9章 人々は気候工学についてどう思うか
第10章 日本の役割
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『気候を操作する―温暖化対策の危険な「最終手段」』
杉山昌広/著 KADOKAWA 2021年発行
第10章 日本の役割 より
危機を叫ぶ専門家の少なさ
ここでいう「弱い」(日本は気候変動問題で存在感がない)というのはあくまでも平均的な意味で、活発に活動している方や、以前から警鐘を鳴らしている方がいるのは事実です。しかし、欧米と比べてそうしたアクティブな方が少なく、科学者コミュニティ全体として見ると、その認識は弱いように感じることが多々あります。
気候の緊急事態宣言について考えてみましょう。環境NGOだけではなく、地方自治体や大学などで緊急事態宣言を発出する機関が増えてきています。2019年11月に学術誌『バイオサイエンス』に掲載された論文のタイトルは、「世界の科学者は気候危機を警告する」でした。オレゴン州立大学のウィリアム・リップル教授が第1著者となっている論文は、世界中の科学者にも署名を依頼して、合計で1万1092人が名を連ねています。署名をした人の一覧表の国(国籍ではなく所属機関の所在地)を見ると、アメリカは1000人以上、ドイツやイギリスも800人以上でしたが、日本は16人でした。その中で名前から判断して(帰化した人などを無視して)日本人だと思われる人はたった4人でした。
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なお、研究が少ないと書きましたが、、気候変動一般について日本人の貢献が少ないという意味ではありません。気候変動研究は膨大な領域で、日本人の貢献が大きい分野と少ない分野があります。特に様々なモデリング(気候モデル影響・適応モデル、統合評価モデル)では日本でも優れた研究が行われてきており、国際的にも認知されています。モデル研究以外についても日本人が素晴らしい貢献をしているにもかかわらず、私が不勉強でしらない分野もあるでしょう。しかし、気候工学や気候の危機については、認識が弱いと言っても間違いないのではないでしょうか。
海外の知見を取り込む工夫は必須
政治に加えて工夫が必要になるのが研究資金です。日本の財政赤字を考えると、放射改変の分野を優遇する理由がないとも述べましたが、もし仮に、アメリカなどが予算を増加させ研究のレベルを上げたとすれば、相対的に日本では気候工学に関する知見が不足するようになるでしょう。この場合、海外の知見をうまい形で取り込むことが必要になります。もちろん、これは気候工学だけに限られません。21世紀は知識経済の時代と言われます。科学研究の生産を加速して、日本語でカバーできない領域はどんどん増えています。
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個人的には、日本の貢献についてはもっと積極的にとらえたいと思っています。21世紀は知識経済が一層強まり、グローバル化も止まることはありません。大学入試改革で言われるように思考力や表現力がより一層求められ、なおかつ理系といえども英語で発信していくことが求められます。まさにこれが起きているのが気候変動分野や気候工学なのです。気候変動に関する国際的な動向を押さえ、自然科学や技術の研究開発を政策につなげる場合、理系の素養は当然ですし、英語のコミュニケーション力が求められます。しかも社会のルール形成にも関連します。まさに日本が21世紀で必要としている能力が全て必要とされるのです。
自分の経験の話になりますが、ベルリンで2014年に開催された気候工学の国際会議"Climate Engineering Conference 2014"は衝撃でした。
私はアメリカの留学経験もあるので英語には不自由する方ではありませんし、理系の国際会議では普通に参加できるほうです。しかし、この会議は想像を超えていました。自然科学の非常に細かな議論から、政治学的なガンバナンスの話や倫理の話まで話題が多岐にわたり、人文学者・社会科学者から自然科学者までが入り交り熱く議論していました。論争的なテーマですから、みな熱く持論のペースも速くなります。一番驚いたのは司会の切り回しのうまさです。もちろん英語がネイティブの人が担当しているのですが、自然科学を理解した上での立ち回りは絶妙でした。ここに入り込んでいくことの難しさと日本人としての重要性を感じた瞬間です。
気候変動をはじめとして、21世紀は科学・技術と社会が一層複雑に絡み合っていく時代で、この時代を生き抜くためには分野横断的な視点でグローバルに主張をしていくことが必須です。日本が気候変動分野で、また気候工学で、一定の貢献ができるようになるということは、裾野(すその)としてこうした人材を増やすこととシンクロするのではないかと思っています。
最後にですが、国際的に見ても日本が気候工学に取り組む意味合いは大きいと思います。
2020年に先鋭化したアメリカと中国の技術覇権の争いは1つの例ですが、中国の経済成長は今後も続くため、アメリカと中国の対立は更に強まるさらに強まる懸念があります。アメリカのジョー・バイデン大統領は気候変動を米中の協力領域として位置付けていますが、気候工学ではどうなるかは未知数です。軍事転用の可能性もあると目される気候工学が、両者の対立軸として浮上する可能性はゼロではありません。こうした中、価値観には東洋の一部でありながら安定的に民主主義を維持している日本は、両者のつなぎ役として重要な役割を果たすことができる可能性もあります。地理的・文化的に東西のはざまにある日本は、勘違いの状況を脱却し、キープレーヤーになるべきなのです。