じじぃの「カオス・地球_282_気候を操作する・はじめに」

#FridaysForFuture 地球のために渋谷を歩いた学生たちからのメッセージ

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=kNwupqjPpyg&list=PLsXP7MSHc9WeqC1P3eKarbp4Odp8sn7r5


気候を操作する―温暖化対策の危険な「最終手段」

【目次】

はじめに

第1章 深刻化する気候変動
第2章 不十分な対策と気候工学の必要性
第3章 気候工学とは何か―分類と歴史
第4章 CO2除去(CDR)
第5章 地域的介入
第6章 放射改変(SRM
第7章 放射改変の研究開発―屋外実験と技術
第8章 ガバナンス
第9章 人々は気候工学についてどう思うか
第10章 日本の役割

                  • -

『気候を操作する―温暖化対策の危険な「最終手段」』

杉山昌広/著 KADOKAWA 2021年発行

はじめに より

変わりつつある天気
天気が変です。そう思っている人は多いかもしれません。
2019年には9月に台風15号、10月に台風19号が日本を襲い広範な被害をもたらしました。
台風15号千葉市で最大瞬間風速57.5メートル毎秒を記録し、約93万戸に停電が起こりました。台風19号は長野から東北まで大変広域にわたって甚大な被害を及ぼし、箱根では総雨量が1000ミリを超えました。2020年7月には各地で豪雨が発生し、九州の球磨川などの氾濫は記憶にも新しいところです。気温についても2018年の夏は猛暑が続き、7月23日に埼玉県熊谷市で日本の歴代最高気温が更新されたのを覚えている方もいるでしょう。2020年8月17日には静岡県浜松市で気温が41.1℃まで上がり、熊谷市の記録に並びました。

人類が気候を操作する?
気候はどうでしょうか。人間は気候工学によって、全世界の生態系と人間社会の基盤をコントロールできるようになるのでしょうか。少なくとも、原理的にはそのような可能性を秘めた技術であることは間違いありません。

少しこの仮説を延長してみましょう、もし仮に、人間が気候をコントロールできるようになった場合、その技術をめぐって争いがおきることはないでしょうか。例えばアメリカが世界平和のために気候工学を実施したとしても、ロシアや中国はそれを当然のこととして受け入れるのでしょうか。仮にある世代で合理的に気候工学を利用できたとしても、将来世代のリスクなどを無視して過度に依存することはないのでしょうか。そもそも、利用できると思っていた気候工学に、ハードウェアの問題やソフトウェアのバグによる暴走の可能性はないのでしょうか。

本書では、このように様々なリスクがあるものの、世界的に関心を呼びつつある、「気候工学」という技術、そして気候そのものの未来について考えてみます。

未来の考え方
本書にはもう1つの狙いがあります。それは、未来に関する一般的な「考え方」について、部分的ではありますが、学術的な見方を提示したいのです。

著者の所属は少しユニークな名前で「東京大学未来ビジョン研究センター」といいます。ここは、人類社会や地球環境のよりよい未来について、様々な学理を組み合わせ、考えていくことを目指す研究センターで、2019年に設立された新たな研究組織です。センターでは、人工知能やバイオテクノロジーナノテクノロジー、新たな安全保障など、様々な課題に取り組んでおり、気候の未来も研究の対象です。

未来ビジョン研究センターの「ビジョン」という言葉だけ着目すると、象牙の塔にこもった研究者が、上から目線で日本の未来像を押し付けるように聞こえるかもしれません。しかし、私たちの目的は逆です。これは私の理解になりますが、センターの目的は「市民や社会のステークホルダーが、未来のビジョンを考える際に有用になる知見を提供していき、ときに一緒に考えていく」というものです。(定量的なモデルを活用した)シナリオ分析やシナリオ・プランニング、また未来の検討の限界などについての研究を進め、社会に還元することを目指しています。

気候変動も気候工学も、未来の話だということは既にお分かりだと思います。未来を考えることは一筋縄ではいきません。当たり前ですが、未来というのは人間が頭で考え、心の中で思いを巡らせるものです。ということは、人間の考え方の癖やバイアスに影響を受けます。特に認知心理学などの進展で、人間は未来像を非常に狭くとらえてしまう傾向があることが分かってきています。また、人間の考えが社会を駆動することからも分かるように、未来を考えることそれ自体が私たちの行動や経済活動を変えてしまい、世の中を変えていってしまうという側面もあります。

気候工学についても同様で、考える際に様々なバイアスに自覚的であるべきであり、気候工学を考えること自体で社会が悪い方向に進んでしまっては元も子もありません。このように、未来の様々な問題を考えるために必要な学問的なアプローチを、本書で取り上げる気候工学を考えることを通して、読者の皆さんに知ってもらいたい――これも本書の目的の1つです。

さて、そもそも、なぜ気候工学のような議論が始まっているのでしょうか。そのためには、気候変動のリスクをより詳しく知る必要性があります。次の章ではまず深刻化する気候変動及びその影響について概観します。