じじぃの「カオス・地球_172_小川和也・人類滅亡2つのシナリオ・はじめに」

人類滅亡のシナリオ】人類という種族はどのように最期を迎えるのか?

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朝日新書 人類滅亡2つのシナリオ―AIと遺伝子操作が悪用された未来

【目次】

はじめに

第1章 AIによる滅亡シナリオ
第2章 ゲノム編集による滅亡シナリオ
第3章 科学と影のメカニズム
第4章 “終末”を避けるために何ができるか

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『人類滅亡2つのシナリオ―AIと遺伝子操作が悪用された未来』

小川和也/著 朝日新書 2023年発行

画期的なテクノロジーほど、暗転したときのリスクは大きい。特にAIとゲノム編集技術は強力で、取扱いを誤れば、人類に破滅をもたらす因子となりうる。「制度設計の不備」と「科学への欲望」がもたらす、人類最悪のシナリオとは。

はじめに より

人工的な知能と、生命を操るテクノロジー。いま人類は、知能と生命という、自らを形成する最も重要な2つに関する技術を手にし、熱心に育てている。

人工的な知能である「人工知能(AI:Artificial Intelligence)」は、人間の知能のような動作をするコンピュータシステムを指すことが多いが、能力の著しい拡張により、定義も一定ではない。突発的な出来事にも臨機応変に対応できる能力、さらには人間を超える知能を視野に、研究開発が進む。

もう1つの技術「ゲノムテクノロジー」は、膨大な遺伝子情報「ゲノム」を解析し、意図通りに書き換える、いわば遺伝子を操る技術である。病気の治療から食糧危機まで、地球上の多くの課題の解決策になるため、AI同様に熱視線が注がれている。人間の能力を拡張したり、遺伝子操作された人間を生み出す手段にもなり得るこの技術により、2018年には世界初のゲノム編集ヘビーが誕生し、論議を呼んだ。
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AIは高度な知的活動を担い、人間や社会に貢献する。ゲノムテクノロジーは、農業や水産業での品種改良、さらには人間の疾病治療への応用など、より良い未来を作るための強力的な手段となることが見込まれる。

それにもかかわらず、なぜ、この2つの技術には闇を作り出すリスクがあると主張するのか。画期的なテクノロジーほど暗転したときのリスクが大きくなるのは、”核”をはじめとした歴史が示した通りである。そして、進化と共に多大な影響力を持つことになる2つのテクノロジーが、もうすぐターニングポイントを迎えることになる。

ゲノム編集の分野では、技術的にはデザインヘビーが既に現実味を帯び、ゲノム情報の解析が超高速化し、コストも限りなくゼロに近づくことで、生命の操作が容易になる。
AIの分野では、人間の知能を人工知能が凌駕する場面が目立ち、シンギュラリティは体感となり始める。2030年代から2040年代にかけて、「生命」と「知能」に関する技術がこのような転換点を迎える可能性は濃厚になりつつある。
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ここで、本書における「人類」と「人類滅亡」の定義を整理しておきたい。

「人類」の定義、範囲については、多くの議論があるが、一般的に、生物学上は哺乳網霊長類ヒト科に属し、人類学上はホモ・サピエンス(現生人類)だとされる。本書でも、それを「人類」の定義とする。

また、「人類滅亡」については、一般的に、人間の存在が絶滅するか、地球上での生活がほぼ不可能になるような状況を指していることが多い。「人類滅亡」の定義は観点によって様々であるが、本書では次のような状況・状態を前提とする。

・地球の環境や生態系が壊滅的な悪影響を受け、人類が持続可能な生活を営むことができなくなる状況。

・人間が制御しきれない技術を生み出し、それにより、社会、地球を崩壊させる科学的事故を起こし、結果として人類存続の持続可能性を維持できなくなる状況。

・人間社会が機能しなくなり、人間による文明や技術が崩壊し、人間の生活が維持できなくなる状況。そこには、人間による主体的な統治の終了を含む。

・現生人類の個体数が大幅に減少し、種としての生存が不可能になる状況。

・遺伝子の変化は種の絶滅に該当しないと考えられることが多いが、一般的なホモ・サピエンスとは異なる人間、たとえば数世代に及ぶ遺伝子改変の結果、現生人類とはかけ離れた性質を持つ「ポストヒューマン」が誕生し、種の進化とは見なせない人間にホモ・サピエンスが置き換えられてしまう状態。

本書における「人類滅亡」は、特に最後の3つに焦点を当てている。

近年、「人間」「人類」の解釈は各分野の専門家の間でも揺れており、「ポストヒューマン」を人間とみなすか否かについての議論も分かれる。それこそが、AIやゲノムテクノロジーが人類の概念にまで影響を与え始めた証でもある。

まだ多くの議論の余地は残されているが、本書では、あえて「現生人類としてのホモ・サピエンスが甚だしく遺伝子改変された状態」を種の延長線上に置かず、「現生人類の終焉」を人類滅亡と解釈することをシナリオの前提とした。それくらいシビアに受け止めるべき分岐点に人類が立たされていると認識し、戒めとするためだ。

こうした定義と前提をもとに、本書では、歴史上の出来事や状況を踏まえ、未来の事象がどう変わっていくかを調査・推論する学問分野である未来学の視点で、最悪な未来=人類滅亡までのプロセスを示していく。その上で、最悪な未来を回避するためのアプローチを提案したい。それが本書執筆の動機となっている。

AIは「人工」であり、ゲノムテクノロジーは「操作」である。結局は、いずれも人間が主語だ。未来に人類の運命を委ねるのではなく、人類がより良い未来を作らなければならない。

本書で提示するシナリオを、未来で実現させてはならない。

たとえ、一部の人間の悪意、悪意なき悪意であっても、それが束になり始めると、制御する難度が上がってしまう。その束を作らず、人類滅亡のシナリオを絵空事で終わらせるためにも、どうか多くの人に読んでいただきたい。