Genetic Engineering Will Change Everything Forever - CRISPR
「デザイナーベイビー」は起こり得るのか?
【未来予想図解】「デザイナーベイビー」は起こり得るのか?遺伝子操作の科学が招く人類の危機と希望
2022.03.02 @DIME アットダイム
受精卵の遺伝子を操作することで、親の望む外見や知力、体力を持った子ども「デザイナーベイビー」。
数々のSFで描かれているが、2022年現在、その実在は認められていない。
果たしてデザイナーベイビーの誕生は起こり得るのか? 国立遺伝学研究所の井ノ上逸朗教授に、現状と未来像を聞いた。
https://dime.jp/genre/1329983/
朝日新書 人類滅亡2つのシナリオ―AIと遺伝子操作が悪用された未来
【目次】
はじめに
第1章 AIによる滅亡シナリオ
『人類滅亡2つのシナリオ―AIと遺伝子操作が悪用された未来』
小川和也/著 朝日新書 2023年発行
画期的なテクノロジーほど、暗転したときのリスクは大きい。特にAIとゲノム編集技術は強力で、取扱いを誤れば、人類に破滅をもたらす因子となりうる。「制度設計の不備」と「科学への欲望」がもたらす、人類最悪のシナリオとは。
はじめに より
人工的な知能と、生命を操るテクノロジー。いま人類は、知能と生命という、自らを形成する最も重要な2つに関する技術を手にし、熱心に育てている。
人工的な知能である「人工知能(AI:Artificial Intelligence)」は、人間の知能のような動作をするコンピュータシステムを指すことが多いが、能力の著しい拡張により、定義も一定ではない。突発的な出来事にも臨機応変に対応できる能力、さらには人間を超える知能を視野に、研究開発が進む。
もう1つの技術「ゲノムテクノロジー」は、膨大な遺伝子情報「ゲノム」を解析し、意図通りに書き換える、いわば遺伝子を操る技術である。病気の治療から食糧危機まで、地球上の多くの課題の解決策になるため、AI同様に熱視線が注がれている。人間の能力を拡張したり、遺伝子操作された人間を生み出す手段にもなり得るこの技術により、2018年には世界初のゲノム編集ヘビーが誕生し、論議を呼んだ。
第2章 ゲノム編集による滅亡シナリオ――遺伝子改変の進んだポストヒューマンが、ホモ・サピエンスを淘汰する より
デザイナーベビー――”神の領域”へ侵食し始めた人類
人類がCRISPRという遺伝子編集技術を手にしたことで、遺伝子編集された人間を誕生させることが理論的に可能となった。しかし、技術的、理論上可能であるからといって、現実化して良いか否かはまた別の問題である。実際、ほとんどの国において遺伝子工学で編集した胚の妊娠は非合法扱い、もしくは禁止されている。
ところが、2018年11月、中国の南方科技大学のゲノム編集研究者賀建奎によって、世界初のゲノム編集ヘビーが誕生した。エイズの原因となるウイルスであるHIVが細胞に侵入する際に利用する細胞側のタンパク質の遺伝子を、CRISPR-Cas9系ゲノム編集ツールを利用して無効化し、それらの母体に着床させ、HIVに感染しにくい元気な双子の女児を誕生させた。双子女児のDNAの塩基配列解析からゲノム編集を行い、標的遺伝子のみ変更されたという。
遺伝学技術を使って人をHIVから守る、より安全で効果的な他の方法が存在する中、あえて胚の遺伝子編集を行っている。そして、そもそも子どもがHIVに感染する危険はないため、HIV陽性の父親を持つ家族を対象にしたことへの必然性も見いだせない。こうした理由などから批判が集中した。
このゲノム編集ベビー誕生の試みについては、南方科技大学も認識しておらず、中国の衛生部(現 国家衛生健康委員会)や科学技術部が2003年に公表した法的規制にも抵触する。結果的に賀建奎は不法な医療行為を行ったと判断され、罰金と懲役3年の実刑判決を受けたが、2022年春には出所している。
生殖細胞の遺伝子を改変すれば、編集された細胞とされていない細胞の両方を持つ新生児が誕生し、望ましくない突然変異などのリスクが伴う。さらに、世代を超えて受け継がれ、遺伝子プール全体に影響を与え、予想もしない影響を招く可能性もある。治療目的のみならず、親が望む容姿や能力を持つ「デザイナーベビー」の誕生につながる恐れもある。世界初のゲノム編集誕生は、人類が自らの遺伝子を始めて操作してしまったことを意味する。
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人類史上初めて手にした”人間による人間の遺伝子編集技術”により、恵まれた遺伝子だけを選別して持つことや、思い通りの子どもを作ることが可能になった。
ガイドラインや法制度があろうとも、デザイナーベビーを肯定する思想や目的、そして技術力が存在する以上、その拘束力はどれくらい有効であり続けられるのだろうか。病気を克服したいという医療的視点もあれば、特定の組織や国に大きな利益をもたらそうと色気を持つ者もいる。それらが入り乱れ、様々な思惑がこの技術の使い途(みち)を探る。科学の可能性と一体化する野心は、倫理観、国際的なガイドラインや法制度よりも自利を優先させる原動力となる。この原動力は、国際的な協調や倫理を乱し、それがいきすぎた先に起こる悲劇を、人類は何度となく繰り返してきた。
現代人は過去の悲劇の反省のもと、過ちを繰り返さないよう慎重な議論を重ねている。しかし、技術の進化の流れは著しく速いため、議論を重ねているうちに状況はあっという間に変化し、次のフェイズへと進んでいく。議論は常にそれを追いかけることになり、世界を守り切るための結論を出す猶予は与えられない。誰かしらの私利私欲は、常にその隙を狙っている。
生殖、生命の根源を操作する技術を手にした人類は、”神の領域”を侵食し始めた。最初は恐る恐るでも、次第に大胆になっていくだろう。その先に、人類にはどのような運命が待ち受けているのだろうか。