じじぃの「カオス・地球_178_小川和也・人類滅亡2つのシナリオ・第2章・ゲノム編集・優生思想」

Eugenics and Francis Galton: Crash Course History of Science #23

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=JeCKftkNKJ0

Eugenic ideology


Can We Cure Genetic Diseases Without Slipping Into Eugenics?

August 3-10, 2015 The Nation
Eugenics, often referred to as “racial hygiene,” was associated with the Progressive hygiene movement in public health.
In 1912, Harvey Ernest Jordan, who later became dean of the University of Virginia’s medical school, addressed a conference of eugenicists on the importance of their field for medicine. He asserted, with the buoyancy of the era, that the country was emerging from a benighted period of selfish individualism-which Mark Twain had dubbed the “Gilded Age”-into an enlightened phase of concern for one’s fellow man. Eugenics was of vital interest to medicine, he wrote, because it sought to prevent disease and disability before it occurred:
https://www.thenation.com/article/archive/can-we-cure-genetic-diseases-without-slipping-into-eugenics/

朝日新書 人類滅亡2つのシナリオ―AIと遺伝子操作が悪用された未来

【目次】
はじめに
第1章 AIによる滅亡シナリオ

第2章 ゲノム編集による滅亡シナリオ

第3章 科学と影のメカニズム
第4章 “終末”を避けるために何ができるか

                • -

『人類滅亡2つのシナリオ―AIと遺伝子操作が悪用された未来』

小川和也/著 朝日新書 2023年発行

画期的なテクノロジーほど、暗転したときのリスクは大きい。特にAIとゲノム編集技術は強力で、取扱いを誤れば、人類に破滅をもたらす因子となりうる。「制度設計の不備」と「科学への欲望」がもたらす、人類最悪のシナリオとは。

はじめに より

人工的な知能と、生命を操るテクノロジー。いま人類は、知能と生命という、自らを形成する最も重要な2つに関する技術を手にし、熱心に育てている。

人工的な知能である「人工知能(AI:Artificial Intelligence)」は、人間の知能のような動作をするコンピュータシステムを指すことが多いが、能力の著しい拡張により、定義も一定ではない。突発的な出来事にも臨機応変に対応できる能力、さらには人間を超える知能を視野に、研究開発が進む。

もう1つの技術「ゲノムテクノロジー」は、膨大な遺伝子情報「ゲノム」を解析し、意図通りに書き換える、いわば遺伝子を操る技術である。病気の治療から食糧危機まで、地球上の多くの課題の解決策になるため、AI同様に熱視線が注がれている。人間の能力を拡張したり、遺伝子操作された人間を生み出す手段にもなり得るこの技術により、2018年には世界初のゲノム編集ヘビーが誕生し、論議を呼んだ。

第2章 ゲノム編集による滅亡シナリオ――遺伝子改変の進んだポストヒューマンが、ホモ・サピエンスを淘汰する より

ゲノム優生思想と滑り坂

はじめは及び腰だったデザイナーベイビーのブレーキが外され、歯止めが利かなくなる可能性を否定できない理由の1つは、人類の長い歴史の中に、「優生思想」が存在し続けたからである。

イギリスの人類遺伝学者のフランシスコ・ゴルダンは、自然科学者のチャールズ・ダーウィンの『種の起源』の影響を受け、統計学をヒトの量的形質の遺伝に適用した最初の研究を行い、人類の遺伝的改良への強い関心のもと、1883年に「優生学」という学問分野の創設者となった。秀でた特質を持つ人間の遺伝子を保護して、劣った特質を持つ遺伝子を排除し、優秀な子孫を後世に残そうという優生思想は、優生学という科学的なバックグラウンドにより強化されることになる。優生学的理想への言及は、実に旧約聖書にまでさかのぼる。

草創期においては、新しい科学として確立しようとされた優生学だが、19世紀後半から20世紀にかけて展開される優生主義の潮流は、米国やドイツ、日本などへ広がりを見せた。適合者と不適合者の線引きが国や思想によってなされ、人種的偏見も台頭する。

1907年、米国のインディアナ州で世界初の断種法が制定され、優生学者が描く米国の改良計画と共に全米へと拡大した。遺伝的理由で黒人が白人よりも生物学的に劣っているという主張がはびこり、米国での断種は1980年前後まで行われた。

ナチス政権下のドイツ優生立法は、とりわけ激しいものとなった。ヒトラー反ユダヤ主義を強める中で、ナチスの人種主義と優生政策が一体化し、1935年のニュルンベルク法制定によりユダヤ人から公民権を奪い取るだけではなく、ユダヤ人を特定層とし殺害の対象とした。
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その当時に今のゲノム編集技術があったならば、これらの優生学の実践、民族のバージョンに積極的に活用されていたのではないだろうか。

優生学の実践は、20世紀前半にピークを迎え、ナチス・ドイツの優生政策が悲劇をもたらしたことへの反省から衰退していったと言われる。しかし、米国などでは戦後も途絶えることはなく、日本においては戦後になって優生断種が行われた。優生思想を過去の遺物だと言い切れないほど、あまりにも長く、そしてつい最近まで、社会に大きな影響を与えてきた。

思想、国家、置かれた環境などにより、優生主義は1つではなく多様な顔を持ち、変化する。世界のどこかで、デザイナーベイビーに優生主義の出口を求めるアクセルが踏まれると、”ゲノム優生思想”が台頭し始めることになるかもしれない。ゲノム編集は、人間の生殖や性質を変えることができる技術であるがゆえに、新たな優生思想に直結し、醸成するだけのエネルギーを持つことを忘れてはならない。

デザイナーベイビーを100%生み出さない世界は実現できるのか

2030年代以降、ゲノムテクノロジーは、人類や動物の生命を自在に操ることを可能にし、技術的成長は加速度的にその先を目指す。デザイナーベイビーも、全人類が完全に足並みをそろえて止めない限り、どこかで誰かが、様々な目的で生み出すことになる。人類の欲望が技術を暴走させれば、デザイナーベイビーは人類の優劣を際立たせ、分断と紛争の火種になる。
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本書においては、一部でも拡張目的の遺伝子改変をしたホモ・サピエンスはポストヒューマンの要素を持ち始め、種として優位にあるポストヒューマンを主体としてDNAを残し続けることで、世代を跨いでポストヒューマンへと置き換わる可能性を提示したい。拡張目的の遺伝子の改変によるポストヒューマンは、これまでの人類の系譜とは性質が違うという視点に立つ。

その点において、部分的な改変であっても「ポストヒューマン以降」と見なし、世代を経て改変を重ねる度に、境界線は自然とポストヒューマン寄りになり、やがて現生人類と呼べる要素が失われていくと考える。

AIが知能において人間を凌駕し始めると、存在意義が路頭に迷わぬよう、人間にできること、優位性を確保するために、ゲノム編集で脳や身体の能力を拡張することが選択肢として浮上する。AIの超知能化もポストヒューマンへ置き換える圧力となり、ホモ・サピエンスがポストヒューマン化する潮流を作る。

両親の理想通りのデザイナーベビーとして誕生したポストヒューマン。生まれながらにして、好みの顔、肌や髪の色、体系を持つ。瞬発力やパワーなどの筋力と運動神経を兼ね備え、知能も人工超知能に負けないようにデザインされている。病気にならない身体で長寿。デザイナーベビーとして生れてくることはあくまでもスタートラインであり、より美しく、より強く、より知的になるよう、ゲノム編集技術による定期的な強化、メンテナンスは欠かせない。
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ネアンデルタール人が絶滅した理由については諸説あるが、生存力において、ホモ・サピエンスネアンデルタール人を凌駕したことだけは間違いない。

ゲノム編集技術を使って生み出されたポストヒューマンによるホモ・サピエンスの淘汰も、かつてホモ・サピエンスネアンデルタール人から置き換わったプロセスと似たような過程をたどる可能性がある。

たとえば、ホモ・サピエンスとポストヒューマンの間に生まれた子どもがポストヒューマンの集団の中で育ち、さらに子どもを生んだ場合、ホモ・サピエンスのDNAは4分の1になる。世代を重ねるごとにホモ・サピエンスのDNAは半減していき、結果的に、ポストヒューマンに置き換わっていく。しかも、そのプロセスの中でホモ・サピエンス遺伝子に改変の手が加われば、置き換わる速度も、置き換えの性質も違う。

この点において、デザイナーベビーを生み出す技術は、人類の未来を大きく左右するターニングポイントとなる。人類の運命を問う踏み絵だ。

ポストヒューマンによる、ホモ・サピエンスの淘汰。これが本書で主張したい滅亡シナリオのうちの1つだ。だがほかにも、ゲノムをめぐる滅亡の因子はある。本章の最後となるここで、考えられる滅亡のリスクをいくつか紹介していく。