【SPring-8】 講演:地球の中心には何がある?
大型放射光施設 SPring-8
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高輝度放射光施設 SPRING-8
廣瀬研究室 / 高圧地球科学
SPring-8は、兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出すことができる大型放射光施設である。
大きな円形の建物中には、電子が高速で回転している「蓄積リング」があり、それを取り囲んで放射光を取り出し実験を行う「ビームライン」と呼ばれる設備が60本ある。それぞれのビームラインは実験目的に合わせて最適化されており、各実験に必要な種類の放射光を取り出す装置群や、実験を行う装置群が多数設置されている。
廣瀬研では主に、高温高圧下その場XRD観察とイメージング(BL10U)、弾性波速度散乱(BL35XU、BL43LXU)を使用している。
●加熱用レーザーシステム
試料を加熱し、「超高圧・高温その場」でのX線回折の実験を行うことが出来る。
http://www-solid.eps.s.u-tokyo.ac.jp/~hirose/?page_id=570
『地球を掘りすすむと何があるか』
廣瀬敬/著 KAWADE夢新書 2022年発行
第2章 地下30~2890km 鉱物の色彩豊かな「マントル」の世界 より
なぜ地球の内部は固体とわかるのか?
こうした地震波の観測によって、まず、どの深さにそのような境界面があるのかということがわかってきます。境界面はひとつではありません。いちばん有名なのが、大陸の地下30キロ付近にある境界面で、何か物質が変化しているために、そこで地震波が反射してくるのがわかります。大陸の下では、深さ30キロという数字は世界中どこにいっても同じです。前述したように、これが地殻とマントルの境界です。1909年のクロアチアの地球物理学者A・モホロビッチが発見したことから、モホロビッチ不連続面(通称モホ面)といいます。
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地震波の観測で、不連続面があること、そしてその深さがわかりました。こうした地震学がもたらしてくれる情報はとても有用です。有用ではあるけれども、P波とS波の速度でしかありません。それだけの情報から、「実際にどういう岩石があるのか」を導き出すことはできません。秒速〇秒で地震波が伝わる物質といっても、いくらでも候補があるからです。
実際にその不連続面で何が起こっているのか。どんな物質からどんな物質に変化しているのか。それを明らかにする方法が、高圧高温実験です。
高圧をかけた物質をどう調べるのか?
超高圧・超高温を発生するだけでは研究になりません。資料にどういう変化が生じたか、それを調べる必要があります。
Aという結晶から、Bという結晶に変化する。そうすると、Bという新しい結晶は、Aと何が、どのくらい違うのか、それを調べることが大事です。高圧実験でできた結晶Bを実際に調べていくしかありません。そうやって初めて、地球深部の新しい結晶のことが明らかになって新しい扉が開く、というのが私たちのおこなっている研究です。
結晶構造を調べるには、X線回折分析をおこないます。この分析は鉱物学にはなくてはならないもので、鉱物を同定する際などに伝統的によく使われます。X線の波長が、原子が並んでいる間隔とほぼ等しいので、原子の配列を調べるにはX線を当てるのがベストな方法なのです。
ところが、私たちの高圧実験の資料は小さいので、強いX線を照射しなければデータが得られません。そこで、放射光X線という強力なX線を使います。幸い日本には、世界最高性能の放射光X線を生み出すことができる「SPring-8(スプリングエイト)」という大型放射光施設があります。
その仕組みを簡単に説明しましょう。兵庫県の山中にあるSPring-8では、直径約500メートルの巨大なリング中を電子が光速に近いスピードで回っています。この電子の流れを磁石によって少しずつ角度を変える際に、接線方向に強い光を出します。これを放射光といいます。この放射光の中からX線だけを切り出すと、強力なX線を得ることができます。この放射光X線であれば、ダイヤモンド・アンビル・セル(科学実験で高圧力を付加する装置)中で高圧下にある小さな試料でも、相転移を確認できます。
SPring-8が一般に開放されたのが、ちょうど私がアメリカから帰国した前の年の1997年、私にとっては、ちょうどよいタイミングでした。
ところで、このポストペロフスカイト(マントルの中でも最下部層の物質で、ちょうどコアとマントルの境界領域にあたる)を高圧発生装置から回収することはできません。120万気圧以上という超高圧環境下でできたこの結晶は、減圧すると結晶構造が崩れてしまうので、高圧装置から取り出したときにはすでにポストペロフスカイトではないのです。ですから、どういう色をしているのかもまだよくわかっていません。