じじぃの「カオス・地球_273_すばらしい医学・たばこ・急増した肺がん」

「教えて!日医君!新型たばこも吸っちゃダメ!」

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=d6DnOzjZcPs

年齢調整済みの喫煙率 (WHO,2018年 男性)


喫煙率

ウィキペディアWikipedia) より
国別にみると、全人口および男性の喫煙率は、東南アジア・東アジア諸国、ロシアを含む東欧諸国の一部や近東で高く、欧米諸国の先進国では低い傾向にある。 逆に、女性の喫煙率は東アジア諸国の方が極端に低い傾向があり、欧米諸国の先進国ではやや高い。

OECDの資料(2017年)によると、OECD36ヵ国の平均が18.0%(男:22.5%、女:13.9%)であり、日本の喫煙率は、17.7%(男:29.4%、女:7.2%)と平均並となっている。日本たばこ産業JT)は、喫煙率は既に先進国並みの水準になっていると評価している。

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すばらしい医学―あなたの体の謎に迫る知的冒険

【目次】
はじめに
第1章 あなたの体のひみつ
第2章 画期的な薬、精巧な人体
第3章 驚くべき外科医たち
第4章 すごい手術

第5章 人体を脅かすもの

おわりに

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『すばらしい医学―あなたの体の謎に迫る知的冒険』

山本健人/著 ダイヤモンド社 2023年発行

第5章 人体を脅かすもの

長らく知られなかった肺がんリスク より

急増した肺がん
イギリス統合統計機関は1947年、国内で起こる不穏な現象を捉えた。肺がんによる死亡が、直近20年で15倍に増加していたのである。

原因不明の病気が、凄まじい勢いで国民の健康を脅かしている。早急に対策を講じる必要があった。専門家らが集まって会議を開き、原因として考えられる候補をあげた。
大気汚染、排気ガスアスファルトの素材、インフルエンザ、日照不足、あらゆる原因が検証されたが、決め手はなかった。

肺がんの危険因子を探るため、イギリスの疫学者オースティン・ブラッドフォード・ヒルは、医師のリチャード・ドールとともに研究を開始した。ロンドンにある20の病院で入院患者に聞き取り調査を行い、肺がん患者とそれ以外の患者に何らかの違いが見られるかどうかを調べたのである。

がんはそもそも複合的な因子が絡み合って発生する病気だ。原因の特定は、そう簡単ではないと予想された。だが得られた結果は、疑いようのない1つの事実を示していた。肺がんには、明白な危険因子があったのだ。喫煙である。
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実はこの時期から現在に至る約半世紀は、疫学が大いに進歩した時代だ。疫学とは、大人数の人間集団を対象とし、健康に関するさまざまな事象の頻度や分布、影響を与える因子を明らかにし、社会的な対策に役立てる学問のことである。

例えば、ボストン郊外のフラミンガム町に住む5000人もの健康状態を徹底的に追跡し、高血圧や肥満、糖尿病、高コレステロールなどが心血管病の危険因子になることを歴史上初めて明らかにしたフラミンガム研究は、その最たる例である。

慢性疾患の危険因子を明らかにし、病気との関連性を探り出す方法論は、この時代の疫学者たちによって劇的に磨かれた。たばこの有害性を明らかにする営みは、こうした流れの中で実現したのだ。

たばこはどのように普及したのか
たばこは、ナス科たばこ属の植物を原料とする嗜好品で、もっとも多い種は「ニコチアナ・タバカム」である。この学名「ニコチアナ」や、成分も「ニコチン」は、16世紀にフランスにたばこを広めたフランス人外交官ジャン・ニコの名前に由来する。

たばこの起源は、「新大陸」にある。1492年、アメリカ大陸を「発見」したイタリア人探検家クリストファー・コロンブス率いる探険隊は、先住民たちの間に広がる不思議な習慣を初めて目撃する。彼らは、たばこの葉を燃やして煙を吸う「喫煙」や、たばこの葉を口の中で噛む「噛みたばこ」、粉状にした葉を鼻から吸い込む「嗅ぎたばこ」など、さまざまな方法でたばこを楽しんでいたのだ。

特に「吸うたばこ」である喫煙には、たばこの葉で巻く葉巻、トウモロコシの皮などで巻いた巻きたばこ、パイプを使って吸うパイプたばこなど、煙を吸う方法にさまざまな種類があり、ヨーロッパ人たちの興味を引いた。

のちに、トウモロコシやジャガイモなどの穀物とともに、たばこは新大陸から世界中に広まり、各地で栽培されるようになったのだ。

さらに、19~20世紀には紙巻たばこ(シガレット)の大量生産が可能になったことで、世界中でたばこが爆発的に普及した。その背景には、ニコチンに対する喫煙者の病的な依存があった。血液中のニコチン濃度が一定以下になると強い不快感を覚えるため、喫煙者は喫煙を繰り返す。喫煙すればするほど、体はニコチンに依存的になる。この悪循環がたばこの世界的な売り上げを支えていたのだ。

たばこの売り上げは指数関数的に増え、巨大企業を次々と生み出し、とてつもない勢いで新たな市場を形成していった。20世紀中頃のアメリカでは、たばこの年間売上高は約50億ドル、1人あたりの消費量は年間4000本という、かつてのない規模に膨れ上がっていた。

ヒルとドールの研究だなされたのは、このような時代であった。当然、破竹の勢いで急成長してきたたばこ産業にとって、「喫煙が健康被害を引き起こす」など決してあってはならないことだった。

たばこ産業は莫大な広告費を使い、この流れを止めるべく猛攻撃を仕掛けた。医師をたばこのCMに登場させ、安全性を主張し、消費者に不安や恐怖を与えないよう、あの手この手を使って研究結果を巧みに否定しようとした。

だが、流れは止まらなかった。現在に至るまで、おびただしい数の研究が、あまりに恐ろしいたばこの有害性を明らかにしてきたからだ。

たばこには約70種類の発がん性物質が含まれ、16種類のがんを引き起こす。喫煙者は肺がんに15~30倍かかりやすく、寿命が10年短く、1本たばこを吸うごとに寿命が11分短くなる。

また、喫煙は気管支に炎症を引き起こし、肺胞を破壊する。こうして起こる慢性閉塞性肺疾患COPD)が、ひとたび起こると元通りに戻す手立てはない。ひどい息切れで日常生活もままならなくなってしまう。

喫煙者本人のみならず、周囲の人がたばこの副流煙に晒(さら)される受動喫煙のリスクも明らかになってきた。たばこを吸わない人であっても、副流煙によって、肺がんや脳卒中、冠動脈疾患(心筋梗塞狭心症)のリスクが20~30パーセント増える。

手術を受ける患者にとっても、喫煙は重大なリスクになる。喫煙者は、手術後に肺や心臓の疾患(呼吸器・循環器疾患)を起こしやすく、非喫煙者より手術後の死亡率が高い。喫煙は、傷が感染するリスクも上昇させる。たばこの害は、これほどまでに大きいのだ。