じじぃの「科学夜話・第5講・奇跡的な宇宙・人間原理の成功例!宇宙の雑学」

どうして宇宙は人間に都合よくできているの?【人間原理

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=24wX8U5_R0w

宇宙を旅する生命―フレッド・ホイルと歩んだ40年


フレッド・ホイル

ウィキペディアWikipedia) より
サー・フレッド・ホイル(Sir Fred Hoyle, 1915年 - 2001年)は、イギリスウェスト・ヨークシャー州ブラッドフォード出身の天文学者SF小説作家。ケンブリッジ大学エマニュエル・カレッジ卒業。

元素合成の理論の発展に大きな貢献をした。研究生活の大半をケンブリッジ大学天文学研究所で過ごし、同研究所所長を長年に渡って務めた。地球物理学者の竹内均によれば、カール・ポパーが提唱する批判的合理主義に基く論客であったという。
【天体物理学への貢献】
ホイルの初期の論文では、人間原理が面白い使われ方をしている。
恒星内部での元素合成の経路を明らかにする過程で、ホイルは、ヘリウム原子核3個から炭素を生成するトリプルアルファ反応と呼ばれる核反応に注目した。この反応が働くためには、炭素原子核がある特定の値のエネルギー準位を持っている必要がある。宇宙には多量の炭素が存在しており、この炭素を材料として地球上の生命は存在しているが、このことはトリプルアルファ反応が実際に上手く働いたはずであることを示している。
この考えに基づいて、ホイルは炭素原子核があるエネルギー準位を持つと予言した。これは後に実験によって裏付けられた。この状態はホイル状態と呼ばれる。

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『宇宙とは何か』

松原隆彦/著 SB新書 2024年発行

第5講 微調整問題と人間原理 より

奇跡的な宇宙

我々の宇宙だけでなく、たくさんの宇宙がある、それも無数にあるという「マルチバース論」が出てくるのには、必然性があると言える背景があります。

単純に言うと、この宇宙があまりにも奇跡的な存在だということです。生命や人間が存在する宇宙は、ものすごく大変な条件を重ねなければできません。

それなのに、現実にこの宇宙が存在するのはなぜかと考えたとき、マルチバースは1つの解決策になります。無数に宇宙があれば、その中に1つくらい奇跡の宇宙があってもおかしくありません。ある意味では、この奇跡的な宇宙への疑問を、安易に解決する方法がマルチバースなのです。

ではどのくらい奇跡的なんでしょうか。今回はその話をします。

測定してはじめて決まる「パラメータ」

自然界には、測定によってはじめて決まる定数がいくつもあります。物理の法則には、こうした物理定数が必ず含まれています。

たとえば、電気力は電子の電荷がどのくらいかによって決まります。電荷とは粒子や物体が帯びている電気の量のことです。電気量を測ると、最小単位の整数倍になっており、その最小単位を電気素量と言います。電気素量はどこで測っても同じです。一定の値が見つかるわけですが、なぜその値なのかという理由は見つかりません。理論上は、その値である必然性がなく、どんな値であってもいいはずです。

重力定数もそうです。
ニュートンが見つけた「万有引力の法則」は、万有引力は2つの物体の質量の積に比例し、距離の2乗に反比例するというものです。この関係における比例定数は重力定数と呼ばれます。重力定数は、測定によって決まったものであって、この値でなければならない理由がありません。
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どうも自然界のパラメータは、この宇宙に生命が誕生するように微調整されているふうに感じます。なぜか我々にとって都合のいい値になっているんです。まるで神様がパラメータを自由に変えることのできる機械を持っていて、生命を誕生させようと細かく調整しているかのようです。パラメータの値には必然性が見つからないため、いまの物理学では説明ができないのです。

これを「宇宙の微調整問題」と呼びます。
宇宙には、測定してはじめてわあるパラメータが、現状見つかっているもので40個あります。そのすべてが、この宇宙を成り立たせるのに微妙な値をなっています。
いくつかのパラメータを見ていきましょう。

トリプル・アルファ反応

生命にとって、もっとも重要な元素の1つが炭素です。炭素が無ければ、今の生命は確実に存在していません。

炭素原子核は、星の中でヘリウムヘリウム原子核が3つ集まることで作られます。
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トリプル・アルファ反応によって炭素が作られることを見出したのはイギリスの天文学者フレッド・ホイルなのですが、この反応を起こすためには、炭素がある特定の値のエネルギー準位(具体的には7654.2keV)を持たないと成り立たないことがわかりました。

人間原理の成功例

ホイルの考え方は典型的な「人間原理」です。

前回も紹介した人間原理です。あらためて、人間原理とは、「この宇宙が人間に適しているのは、そうでない人間が宇宙を観測できないから」という論理を使って宇宙や物理を説明する考え方です。要するに、「人間が存在するんだから、宇宙はこうなっていなさい」ということです。

人間原理には大きく分けて「弱い人間原理」と「強い人間原理」があります。

「弱い人間原理」は、現在の宇宙の年齢や太陽系の位置関係などは、偶然に決まったものではなく、それを観測している人間がいるという前提のもとに定まっているという考え方です。

たとえば宇宙の年齢が138億歳程度であるのは、そうでないと人間が存在できないからです。星の中で炭素などが作られ、超新星爆発によってそれが宇宙にばらまかれ、太陽系ができて惑星が生まれ、そこに生命が誕生して進化し、高度な知性を持った人間が生まれるまでを考えると、100億年は必要です。

逆に、宇宙ができて1000億年くらい経ってしまうと、太陽のような恒星の大部分が燃え尽きてしまっており、たとえ地球のような惑星があったとしても知的生命体が存在する可能性は低くなります。

また、我々は広大な宇宙の中で、太陽の近くという極めて特殊な場所にいます。その場所でないと存在できないからです。

このように、観察する人間の存在の原理に基づいて、現在の宇宙の時間的・空間的な位置が決まるというのが「弱い人間原理」です。

これはまあ、考えてみれば当たり前の話です。観測者が存在できる条件でしか観測できないので、偏りが出ることを「観測選択効果」と言います。観測選択効果により、宇宙の中で人間がいる時間よ場所が限定されるのは当然です。

対して「強い人間原理」は、宇宙の法則や定数は人間が生まれるようなものでなくてはならないという考え方です。人間の存在を理由に「だからこうなっている」と説明するので、順番が逆になっているんです。

ホイルの予言は「強い人間原理」の典型例です。それまで、この論理で予言をした人はいなかったので、みんな半信半疑でした。というより疑っていました。ところが、実験してみたら本当にそうだったので驚いたんです。

俄然「強い人間原理」に期待が持てそうな感じがしますが、そうでもありませんでした。同じ考え方でうまくいった例は他にないのです。ホイルの予言が唯一の成功例です。

「強い人間原理」は、宇宙の微調整問題に1つの説明を与えてはくれます。なぜこのような物理定数になっているのか、という問いに対して、それは人間が存在するからだと説明します。

ただ、それを「論理」と呼べるのかは、微妙なところがあります。この宇宙は不思議だと思って法則や物理定数を調べていたのに、もともとの疑問を放り出して「不思議じゃないんだ。人間が存在するためには、そうでなくてはならないからだ!」と言っている感じで、何も言っていないのと同じです。面白い考え方だし、ホイルのやり方はうまくいったですが、「あまり意味がないよね」と思っている人は多いです。

ただ、「強い人間原理」も、前提がマルチバースであるなら納得できます。いくつもある宇宙の中で、この宇宙はたまたま人間が存在できる宇宙になっている。そうであるなら、この宇宙においては、人間の存在を理由に説明していいという話になります。

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じじぃの日記。

松原隆彦著『宇宙とは何か』という本に、「人間原理の成功例」というのがあった。

「『強い人間原理』は、宇宙の微調整問題に1つの説明を与えてはくれます。なぜこのような物理定数になっているのか、という問いに対して、それは人間が存在するからだと説明します」

地球は奇跡の存在か?

物理定数や物理法則の一部は、泡宇宙ごとに異なっていると考えられている。

私たちが住む泡宇宙の様々な物理定数は、生命の存在にとって非常に都合がよい値に「微調整」されているように見える。

クォークどうしを結びつける強い力がほんの少しでも弱かったら、炭素は誕生せず、地球生命は誕生しなかった。

もし宇宙が無数に存在し、それぞれの宇宙で物理定数が異なっているのなら、物理定数の微調整問題は解決する。

だそうです。