じじぃの「カオス・地球_269_すばらしい医学・発酵と腐敗の違い」

【ゆっくり解説】腐敗と発酵の違いとは?腐った納豆は食べられるのか?

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=05M8XfO4Cfg

「腐敗」と「発酵」の現象は同じ


もっと知りたい「発酵食」 基礎知識Q&A

2016.02.18 日経xwoman
Q. 発酵と腐敗はどう違う?
A. 人間にとって“良い”か“悪い”かの違いです。
https://woman.nikkei.com/atcl/doors/wol/column/15/012200052/012500002/?P=2

すばらしい医学―あなたの体の謎に迫る知的冒険

【目次】
はじめに
第1章 あなたの体のひみつ
第2章 画期的な薬、精巧な人体

第3章 驚くべき外科医たち

第4章 すごい手術
第5章 人体を脅かすもの
おわりに

                  • -

『すばらしい医学―あなたの体の謎に迫る知的冒険』

山本健人/著 ダイヤモンド社 2023年発行

第3章 驚くべき外科医たち

男爵になった外科医 より

「発酵」と「腐敗」の違い
パンやワイン、味噌など、穀物や果物を発酵させてつくる食品は多くある。この「発酵」というプロセスは、細菌や真菌などの微生物の作用であることを私たちは知っている。

一方で、食品を放置しておくと、そのうちに腐って味が落ち、悪臭を放って食べられなくなってしまう。この「腐敗」というプロセスも、やはり微生物の働きによるものだ。

これらは単に、微生物が生きていくために周囲の有機物を分解し、エネルギーを得る営みにすぎない。その分解産物が人間に役立つなら「発酵」と呼び、そうでないなら「腐敗」と呼んでいる。いずれも、私たちの肉眼では見ることのできない微小な生物たちの、生命活動である。

発酵や腐敗という現象は昔から知られていたが、これが微生物の働きによるものだという事実を人類は長らく知らなかった。19世紀半ばにこれをあきらかにしたのが、「細菌学の父」であるフランスの化学者ルイ・パストゥールである。

パストゥールは細菌に関する研究結果をフランスの科学雑誌に論文として発表し、多くの科学者に衝撃を与えた。だが、この論文は海を越え、意外な場所で生かされることになった。外科治療の現場である。

後を絶たない傷の感染
手足の切断や乳がん手術など、当時の外科医はまだほとんどが体表面の病気を扱っていた。だが、多くのケースで手術後の傷は感染し、なす術(すべ)なく患者の命が奪われていた。

傷の感染は、皮膚の表面に存在するブドウ球菌やレンサ球菌などの細菌が傷の中に入り、そこで増殖して生じる。これが全身に広がると、患者は生命の危機に瀕(ひん)する。だが、当時こうした知識は一切なく、傷が膿んで重い感染症が起こっても、それは原因不明の自然現象にすぎなかぅた。

1867年の報告によれば、ハーバード大学の関連病院、マサチューセッツ総合病院での、四肢切断手術後の死亡率は26パーセントで、その原因の大半は傷の感染であった。

イギリス、グラスゴー大学の外科医ジョゼフ・リスターは、手術後に起こる傷の感染を何とか防ぎたいと考えていた。そしてパストゥールの論文を繰り返し読み、1つの仮説にたどり着いた。

患者の傷に起こっているのは、発酵や腐敗と同じ現象なのではないか。微小な生物が傷口に付着し、これが広がって記事の感染を引き起こしているなら、この微生物を殺すことで感染を防げるのではないか――。

では、何を使えば微生物を殺すことができるだろうか。リスターが注目したのは、近隣の町でゴミや下水の防臭剤として使われていた石炭酸である。石炭酸によって腐敗臭が消えるのは、その殺菌作用によるものではないかと考えたからだ。

1865年8月、馬車に轢(ひ)かれて脚の解放骨折を起した11歳の少年が、グラスゴー王立病院に搬送された。リスターは自らの仮説を検証するため、石炭酸を染み込ませた布で患部を覆った。骨が外界に触れる解放骨折は、適切な治療がなされない限り、高い確率で重篤感染症に発展する。当時の常識では、脚の切断が必要だった。だが驚くべきことに、リスターの処置から6週間の時を経て、少年の傷は感染することなく治癒したのである。

リスターの理念は徹底したものだった。その後、傷そのものだけでなく、傷に触れる手術器具や外科医の手など、患者を取り巻くすべての環境を徹底的に消毒した。手術後に浮遊する微生物をも殺すため、噴霧器をつくり、手術室を石炭酸の霧で立ち込めさせたほどだ(この手法は人体にかえって有害であることがわかり、のちに中止された)。

1870年、医学雑誌『ランセット』に発表したリスターの成果は、凄まじいものだった。消毒を行う前後で、手術後の死亡率は45.7パーセントから15.0パーセントと3分の1に低下したのである。

現代の医療現場では、消毒なしの手術はありえない。手術で切開を加える皮膚表面には、事前に消毒液をたっぷり塗るのが常識だ。これによって皮膚に常在する細菌を殺し、感染を防ぐのである。

1897年、手術用の消毒薬として開発された「リステリン」は、リスターの名前にちなんで名づけられたものだ。今は口腔洗浄液として、世界50ヵ国以上で使用されている。

また、食中毒の原因となる細菌の一種「リステリア菌」も細菌と戦う手段を後世に残したリスターを記念して名づけられたものだ。

世界で初めて消毒という概念を築き上げたリスターは、1897年、外科医として初めて男爵の称号を与えられ、歴史にその名を残している。