エマニュエル・トッド氏から本学学生へのメッセージ
エマニュエル・トッド 歴史人口学者
「米国は台湾を見捨てる」知の巨人トッド氏が断言!ウクライナ戦争で露呈した米国の無能さ
2024.1.17 ダイヤモンド・オンライン
膠着するウクライナ戦争、突如として始まったハマスとイスラエルの軍事衝突、緊迫する台湾情勢。特集『総予測2024』の本稿では、ソ連崩壊や米国の金融危機を言い当てた歴史人口学者で、「世界最高の知性」の一人と言われる、エマニュエル・トッド氏に分析と予測を聞いた。
――トッド氏はウクライナ戦争の原因と責任は米国やNATOにあると指摘されています。
これは米シカゴ大学の国際政治学者ジョン・ミアシャイマー教授の見方で、私は彼の意見に賛同してきました。ロシアは以前から、ウクライナがNATO(北大西洋条約機構)の加盟国になることは許さないと公言していました。
https://diamond.jp/articles/-/335645
朝日新書 人類の終着点―戦争、AI、ヒューマニティの未来
【目次】
はじめに
1 戦争、ニヒリズム、耐えがたい不平等を超えて
エマニュエル・トッド 現代世界は「ローマ帝国」の崩壊後に似ている
フランシス・フクヤマ 「歴史の終わり」から35年後 デモクラシーの現在地
2 「テクノロジー」は、世界をいかに変革するか?
スティーブ・ロー 技術という「暴走列車」の終着駅はどこか?
メレディス・ウィテカー×安宅和人×手塚眞 鼎談 進化し続けるAIは、人類の「福音」か「黙示録」か
3 支配者はだれか?私たちはどう生きるか?
マルクス・ガブリエル 戦争とテクノロジーの彼岸 「人間性」の哲学
岩間陽子×中島隆博 対談
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1 戦争、ニヒリズム、耐えがたい不平等を超えて より
エマニュエル・トッド 現代世界は「ローマ帝国」の崩壊後に似ている
【新たな世界秩序の中で、日本はどう立ち回るのか】
――日本も長い間アメリカに依存しています。日本の状況についてどうお考えですか。日本の役割や意義は、国際社会においてどうあるべきでしょうか。
その質問には、お答えできます。そのことを常に考えたうえで、私は日本との特別な関係を持っていますから。だから、私は日本についての意見を求められた際に、同じ答えを返し続けています。
日本が抱えている一番の問題は、中国ではありません。日本の主な問題は人口問題です。むしろ、中国の人口がもたらすマイナスのショックは、日本にとってもマイナスのショックになります。日本の産業システムは、アウトソーシングなどで中国の労働力に非常に依存しているからです。
だから合理的な態度としては、このような関係性があることをまずは認めることです。軍事力などの幻想へと逃避して、問題を忘れようとするのではなく、日中が一緒に人口問題に立ち向かおうとすべきでしょう。
そして、まずは移民を受け入れる必要がありますが、これはすでに始まっています。それに加えて、日本の女性が子どもを持ち、満足のいく職業生活を送ることができるような新しい政策も必要です。
安全保障に関しては、イクラ戦争が勃発していた頃の朝日新聞のインタビューと同じことを繰り返します。
同盟国であるアメリカは、安全でなくなっており、不安定である。だから、軍事的安全保障をアメリカに依存することはリスクである、と。そして、日本が安全だと感じるには、核爆弾を手に入れる以外に方法はないということです。核爆弾を持つことで、世界の紛争に参加しないという選択肢を持つことができるからです。
【人工知能によってもたらされた「知性の劣化」】
――テクノロジーの話題に移りたいと思います。2020年代、世界で最も大きな変化の1つは「人工知能の進歩」でした。2022年のChatGPTに代表されるようなAIの登場は世界中に急速に広がり、インターネット上に蓄積された膨大な英知を活用して、私たちに瞬時にアイデアや解決策を提供してくれるようになりました。あなたはそれを試してみたことがありますか。また、どう感じましたか。
私も試しました。これについて、私は、フランスの新聞『マリアンヌ』にも記事を書きました。そのときの質問に返ってきた答えはとても面白いものでした。
質問は、このように始めました。「エマニュエル・トッドは、本当に親ロシア派なのか?」と。フランスでは、私は「親ロシア派だ」と非難されているからです。
ChatGPTから返ってきたのは、とても良い、至極普通の答えでした。「”そうだ”という人もいます。しかし、彼は独立した知識人であり、彼の意見は個人的なものです。まずはクレムリンにまったく依存していないと証明する必要がある」と。良い答えだと思いました。そして、私の身に覚えがない発言もいくつか付け加えてきました。つまり、真実ではない要素も含まれていました。
それから、私の研究分野である家族システムなどについても質問しました。そしてそのときに、ChatGPTでどのようなものが得られるか、について正確に理解できました。
私は「ChatGPTは非常に一般的で、かなりしっかりした答えが得られる」と最初の印象を抱きました。そして次に気づいたのは、得られた答えが基本的にウィキペディアにあるような平均的なものであるということです。
その答えはウィキペディアにあるバイアスをもすべて再現します。家族制度研究の分野で見られる標準的な間違いも完全に無批判に再現しました。つまり基本的かつ平均的知識は得ることはできますが、その知識は非常に不完全です。これに加えて、イデオロギー的な先行事項――英米の世界でジェンダーや性別などについて見られるような特定の事柄――が加わります。たしかに得られる答えは、技術的な観点から見ると、感動的なものかも知れません。
しかし、研究者の立場から見れば、ChatGPTは数秒で平均的な研究者より少し程度の低い答えを出します。つまり、知識としては、やや後進的な段階なんです。私の推測では、世界中の誰もがChatGPTを大量に使用することで、見かけ上の加速は生まれると思います。しかし、実際には減速です。それは研究を減速させるからです。
人工知能に世界中が熱狂しているのは知っています。人工知能が私たちの生活を変えると言うことですね。そうです、ChatGPTは私たちの生活を変えるでしょう。でも、それは良いことでもなければ、最悪なことでもないのです。しかしもし、ChatGPTが存在しなかったら、私たちはより悪い状況に陥っていたことでしょう。
そして、私がとくに興味を惹かれるのは、人工知能の話がこのタイミングで出てきたことです。今の時点で西洋世界には、生まれつきの知能の低下が見られます。欧米諸国、とくにプロテスタント諸国では、IQが低下しており、高等教育の水準もどんどん下がっています。私が今話しているのは西洋のことです。インドのような国のことはありません。
生まれつきの知能の低下と人工知能の出現が組み合わさって、生来の知能は劣化版となりつつあります。むしろ「悪化版」と言った方がいいかもしれません。しかし、これは非常に個人的な見解です。これは私の研究のメインテーマではないからです。