じじぃの「カオス・地球_228_イスラム原論・第2章・世界史を変えた一神教」

ancient israel


日本人のためのイスラム原論(新装版)

【目次】
第1章 イスラムがわかれば、宗教がわかる
 第1節……アッラーは「規範」を与えたもうた
 第2節……「日本教」に規範なし

第2章 イスラムの「論理」、キリスト教の「病理」

 第1節……「一神教」の系譜
 第2節……予定説と宿命論
 第3節……「殉教」の世界史
第3章 欧米とイスラム―なぜ、かくも対立するのか
 第1節……「十字軍コンプレックス」を解剖する
 第2節……苦悩する現代イスラム

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『日本人のためのイスラム原論(新装版)』

小室直樹/著 集英社インターナショナル 2023年発行

今もなおイスラムはなぜ欧米を憎み、、欧米はイスラムを叩くのか?
この本を読めばイスラムがわかり、世界がわかる。
稀代の大学者、小室直樹が執筆した、今こそ日本人必読の書。

第2章 イスラムの「論理」、キリスト教の「病理」 より

第2節……予定説と宿命論――イスラムにおける「救済とは何か」

世界史を変えた一神教崇拝
シナイにおける、ヤハウェによる「ホロコースト未遂事件」。
これを読み解くことが、古代イスラエル人の抱いた信仰の特殊性を知るための好個(こうこ)の手がかりとなる。
1つはヤハウェは人格神であるという事実。
これについては、もうお分かりいただけたであろう・
では、もう1つの手がかりとは何か。
そのことに気が付く人は、相当な比較宗教学センスwp持っていると言えるだろう。一所懸命勉強すれば、いっぱしの宗教学者になれるかもしれない。そのくらい重大なことなのである。

正解を記そう。
このエピソードで重要なのは、神の怒りに対して、モーセがどう対応したかという点である。
モーセは神に対して、徹底的に合理的な対応をした。
すなわち、言葉でもって神に語りかけた。
生贄(いけにえ)を捧(ささ)げたり、あるいは呪文(じゅもん)を唱えたりするといった非合理的な対応をしなかった。
この合理性こそが、古代イスラエルの宗教をして特徴づけるものであるとしたのが、かのマックス・ウェーバーであった。

古代イスラエルの信仰は、たしかに奇妙奇天烈(きてれつ)きわまりない。
だが、単に奇妙だといえば、どの宗教だって奇妙である。
仏教などはその典型で、釈迦の教説は宗教というよりも、むしろ哲学の領域にかぎりなく近いと言ってもよい。また、儒教も政治によって天下を救済するというのだから、これもまた宗教学的に見たら、ひじょうに興味深い存在である。

だが、数ある宗教の中で、なぜマックス・ウェーバー古代イスラエルの宗教に注目したかといえば、その圧倒的な影響力である。

改めて言うまでもないが、古代イスラエル人の信仰はやがてユダヤ教として成立し、それがキリスト教を産み出し、イスラム教を産み出した。

この一神教は、西においては強大なキリスト教文明を作り出し、また東においては広大なイスラム文化圏を成立させたのである。

仏教も儒教も、この影響力の大きさの前にはさすがに影が薄くなるというものではないか。

「宗教の合理化」こそが、すべての謎を解くカギ
すでに述べたように、この当時の西アジア世界でイスラエル人の存在といえば、砂漠の砂粒ほどに小さい。ウェーバーはそれを「賤民(せんみん)」という言葉を使って表わした。
もし、タイムマシーンが発明され、この時代に戻ることができたら、エジプト人バビロニア人にイスラエル人のことについて聞いてみるがよい。
イスラエル人? そんな連中いたのかね」
「ああ、あの貧乏たらしい集団か」
といった返事が返ってくるに相違ない。
当時のイスラエル人なんて、その程度の存在にすぎない。
その彼らがヨーロッパと西アジアの歴史から変えるほどの影響力を与えるだなんて、当時の人々に言っても信じてはもらえない。もらえるはずがない。「夢でも見ているに違いない」とか言われて、追い払われるのが関の山であろう。

事実、カナンの地に戻ったイスラエル人は、そこで自分たちの王国を作ることに成功はした。だが、その栄華が続いたのはほんの束の間で、たちまち古代イスラエル王国は周辺からの侵略を受け、崩壊してしまった。そして、その住民たちはバビロニアの捕虜になり、解放されてからは散り散りばらばら、つまり離散(ディアスポラになった。
本来なら、古代のイスラエル人に関する記録など、膨大な史料の中に埋もれてしまってだれも振り返らなかっただろう。せいぜい歴史書の補注に、申し訳程度に書かれて終わりだったに相違ない。
ところが、その西アジアの「賤民」たるイスラエル人が世界史を完全に変えてしまった。
その理由は何か。
他の宗教と、古代イスラエルの宗教の決定的な違いはどこにあるのか。
それを徹底的に追及した結論として、マックス・ウェーバーが提示した答えが「宗教の合理化」なのである。