“寄生虫”扱い…「アンコウ」のオス、切ない生き方 『the SOCIAL』傑作選(2018年5月9日放送より)
メスのアンコウに寄生するオスのアンコウ
アンコウ
ウィキペディア(Wikipedia) より
アンコウ類はタラ類の近縁にあたる。アンコウ目は16科300種ほどであるが漁業資源となるのはアンコウ科に属するものだけである。アンコウ科には25種ほどが含まれ、すべてが海水魚で、そのほとんどが深海魚でる。
【生態】
アンコウは主に小魚やプランクトンを捕食するが、種によっては小さなサメ、スルメイカ、カレイ、蟹、ウニ、貝などを捕食するものもある。さらに、たまに水面に出て海鳥を襲うこともあり、食べるために解体したら胃の中にカモメやウミガラス、ペンギンなどが入っていたという報告もある。
体長は大きなもので2m近く、重さも60kg近い種(ニシアンコウ)もある。
アンコウ目の魚類には雌雄差がある。アンコウのメスはオスよりも早く成長し体が大きく寿命も長い。チョウチンアンコウ科に属するチョウチンアンコウではメスの体長が60cm程度なのに対してオスの体長は4cmに満たない。ただ、アンコウ科に属するアンコウは雌雄ともに大きくなる(東シナ海のキアンコウのオスは8歳にもなると全長55cm・体重2kgにも達する)。
また、アンコウ目のうちヒレナガチョウチンアンコウ科、ミツクリエナガチョウチンアンコウ科、オニアンコウ科など一部ではオスがメスに寄生する習性を持つ。なおキアンコウなどアンコウ科に属する種はそのような習性は見られない(ちなみにチョウチンアンコウ科に属するチョウチンアンコウもメスに寄生しない)。また産卵時期などにオスのキアンコウがメスに捕食されるケースがある。
名古屋港水族館でキアンコウの産卵シーン撮影が成功している。
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『匂いが命を決める ヒト・昆虫・動植物を誘う嗅覚』
ビル・S・ハンソン/著、大沢章子/訳 亜紀書房 2023年発行
・なぜわたしたちの鼻は顔の中央、先端についているのか?
・なぜ動植物は、ここぞというとき「匂い」に頼るのか?
・「Eノーズ」は将来、匂いの正確な転写・伝達を可能にするか?
ヒト、昆虫、動物、魚、草木、花など多様な生物の「生命維持」と「種族繁栄」に大きな役割を果たしている嗅覚。
そこに秘められた謎と、解き明かされた驚異の事実とは──。
第5章 魚と嗅覚 より
魚はフェロマンでどんなふうにコミュニケーションをとるのか
魚の嗅覚についての最近の研究から、魚の嗅上皮と脳を結ぶ、並行した、別個の3つの神経経路があることが確認できた。各神経経路は匂いに反応して、生存に必要な行動を誘発する特殊な情報を(脳に)伝達する。
1つ目の神経回路は社会的行動を誘発する信号(捕食者の接近について警告を含む)を運び、2つ目は性ホルモン、3つ目は食物の匂いを伝える。
もっとも頻繁に研究されている魚類の1つであるキンギョは、同種の仲間にある種の行動をうながすホルモンや代謝物質を放出する。そしてこれまでに、何らかの機能をもっていると思われる5つのホルモン産物が確認されている。100種類をゆうに上回る数の魚の嗅上皮についての電気生理学的記録から、そのほとんどがホルモン産物を検知していることが明らかになったが、検知したその匂いを魚がどのように利用しているかは、まだ完全に解明されていない。匂いはたしかに繁殖行動を調節しているように見える。その証拠に、排卵後のメスのキンギョのフェロモンの匂いを嗅いだオスのキンギョは、自動的に魚精の量(精子の放出量)を増やす。おもしろいことに、彼らは付近にいるオスのライバルたちが発するある種の化学信号を検知したときも同様の反応を示す。どうやらキンギョの場合、適者生存は精子の量についての熾烈な争いによって決まるようだ。ではもっと深い場所では何が起きているのか?
自分を犠牲にする寄生魚
深い海に潜ると、最初は地球のデッドゾーンに来たように思えるかもしれないが、じつはまったくそうではない。
海面下1000メートル付近までのトワイライト・ゾーンという名でも知られる中深層やミッドナイト・ゾーンとも呼ばれる漸深層には、何百種類もの驚くほど多様な深海生物が棲んでいて、アンコウもその一種である。
チョウチンアンコウは、深海の薄気味悪い泳ぎ手だ。猟奇的とさえ言える外見をしたこの魚は、海底に巣食う悪漢のようだ。なかでもメスは最高に恐ろしげだ。たいていの場合、メスはオスよりずっと大きく、多くの個体は頭の上に暗闇でも光る「提灯(ちょうちん)」のようなものをくっつけている。
この生物発光器は、太陽光が届かない深海で、まるで光る生き餌のような動きをして、この見た目どおりの名をもつ海の針状に並ぶ歯の内側に、獲物を誘い込んでいる。
自分よりはるかに大きい獲物さえ捕らえられるほど大きな口の中に獲物を誘い入れたら最後、メスの歯は死刑囚監房の鉄柵と化す。そしてメスのよく伸びる胃は、入ってくるとどんな獲物も受け入れられるように大きく広がる。深海では美味しいごちそうがいつ通りかかるか予想がつかない。だから通りかかったときには、それがどんなに大きくてもそのごちそうの気を引き、誘い、しっかりと捕まえる必要があるのだ。
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いくつかの研究から、メスはフェロモンを放出しながら潮の流れに乗って漂っていると考えられている。できることなら、メスは深い海でできるだけじっとしてしているのが望ましい。そのほうが見つけてもらえる可能性が高まるからだ。一方のオスは流れに乗らず、メスのフェロモンが漂う一画を見つけるまで、垂直移動と水平移動を無作為に繰り返して泳ぎつづける。メスの匂いを嗅ぎつけたら、匂いの痕跡を追って今度は水平方向に進んでいく。匂いが薄れかけているのに気づいたら、フェロモンの広がりを再び見つけるまで、無作為にジグザグ移動を行う。まるで捜索救助活動のようだが、これは捜索繁殖活動だ。これほどの深海では、遠く離れた場所から検知できる化学信号を頼りにメスにたどり着いたオスは、そばに来てようやく、その目でメスを見ることができるのだ。
深く暗い深海でパートナーを見つけるのは容易なことではない。だからこそ、小さな身体のアンコウのオスは、匂いでメスを嗅ぎ当てると、その身体に強く噛みついてけっして離すまいとする。少なくとも産卵がはじまるまでは離さない。そしてこの関係は、一生続く寄生的結合となることがある。
深海に棲むアンコウのオスがメスの身体に噛みつくと、2つの身体は徐々に溶け合い──やがて皮膚や血管がつながって1つの循環系となる。メスの産卵までの期間が長くなればなるほど、1つの身体はより分かちがたく溶け合っていく。その間にオスは両目を失い、精巣以外の嗅覚を含む体内のすべての器官が退化していく。オスが果たすべき唯一の機能は、宿主のために精子を製造することだから、精巣だけはまだ必要なのだ。オスはいわば、持ち運べる精子バンクだ。彼は強固な意思をもつ1匹の性的寄生者だが、同じ立場のオスがほかにもいることがよくある。気が多いアンコウのメスでは、最高で一度に6匹のオスを身体をつけているものが観察されている。
しかしオスを気の毒に思う必要はない。パートナーを見つけられなかったオスは、いずれにせよおそらく死んでしまうのだから。すでに述べたように、これほどの深海になると餌になる獲物はそれほど多くない。また、オスはすぐれた嗅覚をもっ一方で、消化器官については不十分な点が多い。あまりにも未発達な消化器官しかもたないオスは、メスのパートナーに寄生する形でしか生き延びられないのだ。なんてカップルだ。なんてパラサイト(寄生生物)だ。
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じじぃの日記。
ビル・S・ハンソン著『匂いが命を決める ヒト・昆虫・動植物を誘う嗅覚』という本に「自分を犠牲にする寄生魚」というのがあった。
自分を犠牲にする寄生魚とは、アンコウのオスのことだ。
アンコウのように、メスよりも極端に小さいオスのことを「矮雄(わいゆう)」という。
漫談家きみまろの漫談に、こんなのがあった。
「どんなに心底愛したとしても、女房の身体には12センチしか入れないんだから。たったの12センチです」
アンコウの一部には、オスがメスに寄生する習性を持つのがいる。
ミツクリエナカチョウチンアンコウのオスはメスに比べて極端に小さくて、深海でひたすらメスを探して泳ぐ。
メスを見つけると皮膚や血管を癒着させて、メスから栄養分の供給を受ける。寄生したオスは目や腸などが次第に退化して、メスの体に同化する。
それからはオスはメスの産卵をひたすら待ち、そのときに精子を吹っかける。
「しかしオスを気の毒に思う必要はない。パートナーを見つけられなかったオスは、いずれにせよおそらく死んでしまうのだから」
何か、せつない話です。