じじぃの「カオス・地球_203_インドの正体・第4章・アジア版NATOへ?」

中国、クアッドに猛反発~「アジア版NATO」警戒(2022年5月28日)

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=Xzq2dKf2Glk

アジア版NATOへ?


アジア版NATOを将来的に想定しておくべき理由

2023/10/4 Yahoo!ニュース
2023年9月6日付Foreign Policy誌は「アジア版NATOは決して無いと言うなかれ」とのマイケル・グリーンの論説を掲載した。
アジア版NATOは今の目標ではないかもしれないが、将来の選択肢として可能性を閉じるべきではない、それは中国(習近平)次第だと論じている。
https://news.yahoo.co.jp/articles/5d81f6d14fc88447f953400f28921f5b811104be

中公新書ラクレ インドの正体―「未来の大国」の虚と実

【目次】
まえがき――ほんとうに重要な国なのか?
序章 「ふらつく」インド――ロシアのウクライナ侵攻をめぐって
第1章 自由民主主義の国なのか?――「価値の共有」を問い直す
第2章 中国は脅威なのか?――「利益の共有」を問い直す
第3章 インドと距離を置く選択肢はあるか?――インドの実力を検証する

第4章 インドをどこまで取り込めるか?――考えられる3つのシナリオ

終章 「厄介な国」とどう付き合うか?
あとがき

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『インドの正体 「未来の大国」の虚と実』

伊藤融/著 中公新書ラクレ 2023年発行
「人口世界一」「IT大国」として注目され、西側と価値観を共有する「最大の民主主義国」とも礼賛されるインド。実は、事情通ほど「これほど食えない国はない」と不信感が高い。ロシアと西側との間でふらつき、カーストなど人権を侵害し、自由を弾圧する国を本当に信用していいのか? あまり報じられない陰の部分にメスを入れつつ、キレイ事抜きの実像を検証する。この「厄介な国」とどう付き合うべきか、専門家が前提から問い直す労作。

第4章 インドをどこまで取り込めるか?――考えられる3つのシナリオ より

「アジア版NATO?」
これからのインド太平洋秩序はどうなっていくのか? もちろん、われわれ自由民主主義陣営が望むのは、「自由で開かれた」インド太平洋秩序を維持することだろう。これまでの章でみてきたように、インドという国は、われわれと、価値や利益を現実に共有しているかどうか疑わしい面があるのは事実だ。しかし、だとしても、「中国やロシアに比べると」、われわれに近いところが多い。

そのうえ、2030~50年のインド太平洋地域の勢力図では、米中の、また日米豪自由民主主義陣営と中ロの権威主義陣営の力の差が、かぎりなく縮小し、ひょっとすると逆転してしまっているかもしれない。そうなると、そのとき、いまよりも大きな力をもっていると予測されるインドは、なんとしても取り込みたい、ということになる。安倍晋三が2012年末に第2期政権を樹立する際に披瀝した「セキュリティダイヤモンド構想」にはそうした思惑があった。安倍は国際NPOのプロジェクト・シンジケートに発表した英語論文のなかで、オーストラリア、インド、日本、米ハワイ州で四角形をつくり、中国の進出によって危機に晒されている海洋のコモンズ(共有地)を守らなければならない、と主張した。

しかし問題は、インドという国が、アメリカや日本、オーストラリアに、現状よりも接近するということがありうるのか、である。日米、米豪間にみられるような同盟を、自由民主主義陣営と結ぶようなことはあるのだろうか?

現時点で、インドはどの国とも同盟関係にはなく、アメリカとであれ、日本とであれ、オーストラリアとであれ、その他ヨーロッパ諸国とであれ、すべて、同盟国未満の「戦略的パートナーシップ」関係にとどめている。クアッドについても、同盟ではないという立場だ。ジャイシャンカル外相は、クアッドを「数多くあるグループのひとつにすぎない」とし、「(インドは)柔軟性のない同盟は回避する」と主張してきた。この姿勢は、2020年の中国との軍事衝突を受けても変わることはなかった。「民主主義国同盟」を呼びかけるアメリカに対し、同外相は、アメリカは同盟思考を「乗り越える」必要がある、とはねつけた。相当、頑なである。

ということは、現状のままでは、インドがクアッドの同盟化を受け入れるはずはない。少なくともインドを取り巻く環境になにか劇的な変化がないかぎりは、インドが日米豪など西側に、よりいっそう傾斜を強めるというシナリオは起こりえない。

それでは、インドの態度を変えうる環境変化とはなんだろうか? それは、普通に考えれば、現状のままでは、インドの存立が成り立たないとインドが判断した場合ということになる。想定されるのは、なんといっても、中国軍事的攻勢が、2020年のガルワン衝突レベル以上に本格化し、それにインドが耐えられなくなる事態だろう。要するに、このままでは、中国に侵略されてしまう、と本気で恐れるようになった時だ。

前章でみたように、2050年までには、中国も、総合的な国力でインドからの猛迫をうけている可能性が高い。だとすれば、中国としてはそれまでのうちに、インドをたたいてねじ伏せておきたいところだ。中国共産党指導部が、インドとの未解決の国境問題を武力で解決し、中国の秩序をインドに強制しようとしたとしても不思議ではない。

かつてインドが、中国の脅威に対して、自国の軍事力を増強するとともに、ソ連との連携を強化することで対処しようとしたことは、第2章で述べた。将来も、同じ手法は通じないだろうか?

まずは、自前の軍事量増強がどこまで可能かについてだ。前章でみたCBERの予測によると、少なくとも2030年代までは、中国とインドのGDPの差はほとんど縮まらない。そうであれば当然、軍事費の差も、それほど縮小しないだろう。
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インドが、中国の脅威に対処するためにロシアを頼ろうとしたとしても、肝心のロシアが中国に依存するようになってしまっていては、まったく話にならない。

このようにみると、インドが、今後、日米豪の側に、より傾斜するということも、まったくありえないシナリオというわけではない。インド人研究者のなかにも、その可能性を指摘する者も、とくに若手のあいだに出てきている。戦略家として活躍するハルシュ・パントは、インドは民主主義陣営の側につくべきだと明言する。また、中国専門家で、対中警戒論者の筆頭ともいえるジャガンナート・パンダは、2022年の論文で、インドが、「アジア版NATO」を受け入れる可能性もあると期待感をもって論じた。

しかしそうした見解はインドの外交・安全保障サークルの主流にはなっていない。インド国家安全保障顧問を務めた経験をもつM・K・ナラヤナン・シヴィシャンカル・メノンらは、インドが西側につくことは得策ではなく、安易に中国叩きに乗るべきではないと警鐘を鳴らす。「けっして同盟化させないクアッド」というジャイシャンカル外相の路線のほうが、ひろく受け入れられているのだ。詳しくは後述するが、インド外交の特質に鑑みると、インドがアメリカを中心とした西側と同盟を構築するシナリオの蓋然性は、きわめて低いと推定される。
この道を選択することがあるとすれば、インドがほんとうに追い込まれて、他に打つ手がなくなったときにかぎされるように思われる。