じじぃの「カオス・地球_204_インドの正体・第4章・どう取り込めるか?」

【100万再生突破】“新大国”「インドの論理」と知られざる日本への期待【豊島晋作のテレ東ワールドポリティクス】(2023年9月5日)

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=yvKqRM8DhYw

インド 「非同盟」の複雑な立場


対ロシアで注目、インド「非同盟」の複雑な立場

大国化するインドはこれからどこに向かうのか
2022/04/16  東洋経済オンライン

●2030年にはインドはGDPでも世界第3位に
冷戦時代にアメリカ、ソビエト連邦、いずれの側にもつかない「非同盟勢力の雄」を標榜してきたインドの外交は、今日も特定の勢力に与しない「戦略的自律性」が特徴だ。
ロシアに対する今回の対応もその延長線上にある。しかし、もはや「大国途上国」を卒業する日は間近となっている。インドが大国への道を着実に進もうとしていることは明らかで、ウクライナ戦争に対する対応もその布石だろう。
https://toyokeizai.net/articles/-/582217?display=b

中公新書ラクレ インドの正体―「未来の大国」の虚と実

【目次】
まえがき――ほんとうに重要な国なのか?
序章 「ふらつく」インド――ロシアのウクライナ侵攻をめぐって
第1章 自由民主主義の国なのか?――「価値の共有」を問い直す
第2章 中国は脅威なのか?――「利益の共有」を問い直す
第3章 インドと距離を置く選択肢はあるか?――インドの実力を検証する

第4章 インドをどこまで取り込めるか?――考えられる3つのシナリオ

終章 「厄介な国」とどう付き合うか?
あとがき

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『インドの正体 「未来の大国」の虚と実』

伊藤融/著 中公新書ラクレ 2023年発行
「人口世界一」「IT大国」として注目され、西側と価値観を共有する「最大の民主主義国」とも礼賛されるインド。実は、事情通ほど「これほど食えない国はない」と不信感が高い。ロシアと西側との間でふらつき、カーストなど人権を侵害し、自由を弾圧する国を本当に信用していいのか? あまり報じられない陰の部分にメスを入れつつ、キレイ事抜きの実像を検証する。この「厄介な国」とどう付き合うべきか、専門家が前提から問い直す労作。

第4章 インドをどこまで取り込めるか?――考えられる3つのシナリオ より

「アジア版NATO?」
これからのインド太平洋秩序はどうなっていくのか? もちろん、われわれ自由民主主義陣営が望むのは、「自由で開かれた」インド太平洋秩序を維持することだろう。これまでの章でみてきたように、インドという国は、われわれと、価値や利益を現実に共有しているかどうか疑わしい面があるのは事実だ。しかし、だとしても、「中国やロシアに比べると」、われわれに近いところが多い。
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このようにみると、インドが、今後、日米豪の側に、より傾斜するということも、まったくありえないシナリオというわけではない。インド人研究者のなかにも、その可能性を指摘する者も、とくに若手のあいだに出てきている。戦略家として活躍するハルシュ・パントは、インドは民主主義陣営の側につくべきだと明言する。また、中国専門家で、対中警戒論者の筆頭ともいえるジャガンナート・パンダは、2022年の論文で、インドが、「アジア版NATO」を受け入れる可能性もあると期待感をもって論じた。

クアッドに先んじたRICとは?
それでは、つぎに正反対の、おそらく、われわれにとっては最も望ましくないシナリオについて考えてみよう。インドが中国やロシアの側に傾斜し、印中ロのユーラシア連合、ないし同盟が形成される可能性だ。CBERとPwCの予測にもとづくと、印中ロはGDPでは2037年までに、軍事費ではやや遅れるだろうが、それでも2050年までには日米豪を上回る計算になる。もし印中ロが結束すれば、少なくとも少なくともインド太平洋地域におけるアメリカを中心としたリベラルな秩序が、終焉を迎えるのは避けられないだろう。
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クアッドに対し、ロシア、インド、中国の頭文字をとったRICと呼ばれる3ヵ国の枠組みは、もともと1998年にロシアのプリマコフ首相が訪印した際に提示したものといわれる。多くのロシア専門家は、ロシアには、対米牽制とともに、台頭する中国の影響力を薄めるために、ユーラシアのもうひとつの大国、インドを取り込みたいという思惑があることを指摘する。RICの枠組みは、2002年から非公式の外相会合として動き出し、2005年からは、3ヵ国が順番にホストを務めるかたちの会合が定例化された。定例化されてはいないが、最初の首脳会合も2006年には行われている。

「多同盟」の真の狙い
それでは、最も蓋然性の高いシナリオとはなにか? それは、インドが1番望ましいと考える道だ。つまり、日米豪など西側か、中ロの側の「どちらか」という選択ではなく、「どちらにも」、そしてその他の国々にも関与しつづけるというシナリオである。そしてそれは、インドがこれまでとってきた路線の継続ということを意味する。

かつて冷戦期のインドは、「非同盟」路線をとり、アメリカとソ連のどちらのブロックにも属さず、「第三世界」のリーダーとして振る舞おうとした。米中接近後の国際情勢の変化のなか、1970年代以降のインドはソ連への傾斜を強めたが、公式には「非同盟」の看板を掲げつづけた。これに対し、2014年以降のモディ政権からは、「非同盟」という言葉はまったく聞こえてこない。モディ首相は、ネルーやインディラ・ガンディーが重視してきた非同盟諸国首脳会議にも出席していない。その代わりに、今日のインドでよく使われるのが、「戦略的自律性」とか、「多同盟」といった概念だ。

「戦略的自律性」というのは、2007年ごろから、マンモーハン・シン国民会議派政権で、自主独立外交の重要性、自国の利益の観点から主体的に行動できることの大事さを表す概念として用いられるようになったものだ。その後、当時の政権関係者も関わるかたちで2012年に発表された『非同盟2.0』という文書は、今日の不確実な世界においては、「戦略的自律性」の確保がなによりも重要だと強調している。ここでとくに注目を集めたのが、中国が脅威だからといって、安易にアメリカと関係を深めすぎることに、否定的な立場を示した点だった。アメリカに近づきすぎれば、支配ー従属関係が構築され、モノがいえなくなってしまうと恐れたのである。

これに対して、モディ・インド人民党(BJP)政権は、「戦略的自律性」の重要性自体は受け継ぎながらも、だからといってアメリカなどと「距離を置く」という従来の「非同盟」的発想からは脱却することを鮮明にした。2014年の総選挙の際のマニフェストでBJPが掲げたのが、「同盟網(web of allies)」の構築だった。端的にいえば、どの国とも積極的に付き合い、どの国とも戦略的パートナーシップ関係を拡大・深化させよう、というものだ。「非同盟」から「多同盟」への転換、などともいわれる。
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モディ首相は、「われわれは世界のグル(指導者)に向かっている」といった発言を国内外で繰り返している。「世界大国になる」という意識のあらわれだ。

その世界大国化を果たすためには、アメリカや日本であれ、中国やロシアであれ、さまざまなパートナーとうまく付き合っていくのが最適だと考えられる。現在のインドの置かれた経済・政治・安全保障上の状況を踏まえると、重要なイシューの大半で価値や利害が一致するパートナーは存在しない。したがって、特定のパートナーだけに頼るのは得策ではないからだ。

慎重に、根気強く、管理する
さて、われわれとしては、どのシナリオの実現を目指すべきなのか? 一見すると、第1の日米豪印「同盟」構築が、最も魅力的なように映るかもしれない。4ヵ国が力を合わせれば、数字上は、2050年の世界においても、経済力でも、軍事力でも中国とロシアを上回り、十分対抗できる可能性が高いからだ。けれども、インド外交のDNAを考えると、よほどのことがないかぎり、インドが西側のそうした戦略に乗ることはないだろう。

他方で、インドを中国やロシアの陣営に追いやる第2のシナリオが最悪であり、絶対に回避すべきなのはいうまでもない。だからこそ、西側は、ロシアのウクライナ侵攻をめぐる立場の違いを事実上棚上げし、インドが制裁に加わらず原油購入を増やしても批判を控えた。けれども、今後もこのシナリオの可能性がなくなったわけではない。もちろん、インド自身もそれを望んでいるわけではないが、われわれがインドのような「グローバル・サウス」を犠牲にして、環境や食糧、エネルギー、貿易、知的財産権などのイシューで、先進国つぃての経済利益を追求しつづけたり、西側の人権観を強制したりするとすれば、この最悪のシナリオも現実味を帯びてくる。

その意味では、インドが、われわれの同盟国にも、中国やロシアの同盟国にもならないという第3の未来図は、現実的に考えれば、次善のシナリオといっていい。このとき、われわれにとって必要なのは、「どちらか」を選択せず、「どちらにも」関与するという、いまのインドの姿を受け入れるということになる。「われわれの側につくか奴らの側につくか」を迫らないということだ。

だからといって、それはなにもしないということではない。協力が期待されるイシューで連携を深める。どうしても折り合えないイシューについては、たとえ厄介だとしても、慎重に、根気強く議論し、相違点が決定的対立にならないように管理していく。そうすることで、われわれを欠かせない存在だとインド側に認識させ、引き寄せつづける努力が求められるだろう。最終章で詳しく考えよう。