じじぃの「カオス・地球_202_インドの正体・第3章・軍事大国へ」

India@75: The might of the Indian Army

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https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=tsjsenKboa0

Former NASA astronaut breaks down India's moon landing

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COVID Shrank the Global Economy, but U.S. Military Spending is Still More Than Next 11 Countries Combine

April 28, 2021 the Stockholm International Peace Research Institute (SIPRI)
The world spent almost $2 trillion on militaries in 2020, according to the latest data on global military expenditures compiled by the Stockholm International Peace Research Institute (SIPRI).
That's a military spending increase of 2.6 per cent in real terms since 2019, even as global gross domestic product (GDP) shrank by 4.4 per cent due to the economic impacts of the Covid-19 pandemic.
https://www.nationalpriorities.org/blog/2021/04/28/us-now-spends-more-military-next-11-countries-combined/

中公新書ラクレ インドの正体―「未来の大国」の虚と実

【目次】
まえがき――ほんとうに重要な国なのか?
序章 「ふらつく」インド――ロシアのウクライナ侵攻をめぐって
第1章 自由民主主義の国なのか?――「価値の共有」を問い直す
第2章 中国は脅威なのか?――「利益の共有」を問い直す

第3章 インドと距離を置く選択肢はあるか?――インドの実力を検証する

第4章 インドをどこまで取り込めるか?――考えられる3つのシナリオ
終章 「厄介な国」とどう付き合うか?
あとがき

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『インドの正体 「未来の大国」の虚と実』

伊藤融/著 中公新書ラクレ 2023年発行
「人口世界一」「IT大国」として注目され、西側と価値観を共有する「最大の民主主義国」とも礼賛されるインド。実は、事情通ほど「これほど食えない国はない」と不信感が高い。ロシアと西側との間でふらつき、カーストなど人権を侵害し、自由を弾圧する国を本当に信用していいのか? あまり報じられない陰の部分にメスを入れつつ、キレイ事抜きの実像を検証する。この「厄介な国」とどう付き合うべきか、専門家が前提から問い直す労作。

第3章 インドと距離を置く選択肢はあるか?――インドの実力を検証する より

目標は「世界の工場」
この「人口ボーナス」こそ、インドの経済成長の土台だ。長らく「眠れる巨像」などと揶揄されてきたインド経済だが、1991年に本格的な経済自由化に踏み切って以降、段階的に規制緩和や民営化、外資の導入が進んだ。年率にしてほぼ5~10パーセントの経済成長がつづく。とくに2014年のモディ政権発足以降に絞れば、中国と同等か、あるいは上回る成長率の年がほとんどだ。長期のロックダウンを余儀なくされたコロナ禍の2020年こそ、日本以上の大きなマイナス成長となったものの、そこからの回復は比較的早かった。

順調な経済成長に伴い、国内総生産GDP)は着々と伸びている。
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先進国と比べると大学進学率はまだ低いものの、進学希望者は増加傾向にあり、優秀なエンジニアを輩出してきたインド工科大学(IITs)などの入試競争は激しい。倍率100倍ともいわれる超難関大学を目指して、塾、予備校などに子供を通わせる家庭は多い。そうしたエリート校に入れば、カーストの壁も越えられるのではないか、という期待もある。ITのような新しい高度専門職は、伝統的なカースト(ジャーティ)には存在しなかったものだからだ。

海外への留学も増えている。とくにアメリカへの留学数では、2022年には、インド人は中国人を上回り、国別でトップに立った。米中関係の悪化の影響もあるが、英語にコンプレックスのない、それなりに裕福な家庭出身のインドの若者が増えているのだ。またインド国内でもIITs、デリー大やネルー大など、名の知れた名門国立大学だけでなく、近年、つぎつぎと私立大学が新設され、学生を受け入れている。こうした変化が起きているのをみれば、これからのインド経済の成長を支える土台は整いつつある。

世界第3位の軍事力
経済成長のおかげで、軍事費も増えつづけている。GDPに占める割合でいえば、およそ2.5~3パーセント程度で大きな変化はなく、けっして背伸びしているわけではない。とはいえ、長くGDP比1パーセントの枠に固執し、経済もゼロ成長のつづいてきた日本とは対照的だ。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)のデータベースによると、インドの軍事費は2014年に日本を抜き去り、17年にロシア、19年にはサウジアラビアを上回った。GDP同様、アメリカ、中国の2強とは格段の差があるとはいえ、軍事費では、すでに世界第3の軍事大国となっている(図.画像参照)。
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急速な軍事費の伸びは、もちろんこの多くの兵士の福利厚生向上にも使われているが、世界が注目するのは、活発な兵器の購入だ。とくにこれまでは日陰の存在だった空軍や海軍は、ここぞとばかりに最新鋭の兵器調達に乗り出した。これまで旧ソ連時代の戦闘機ばかりだった空軍は、次世代戦闘機としてフランスのラファールを選定し、2021年、緊張のつづく中国との前線に配備した。海軍は、冷戦期に導入されたイギリス製空母の退役を先送りして、「騙し騙し」使いつづけていたが、2013年にロシアから新たに空母を取得した。さらに2022年には、ついに初の国産空母も就役した。このほか、核弾頭搭載可能な大陸間弾道ミサイル、アグニVの開発も進む。
宇宙分野への進出も積極的だ、アメリカ、ロシア、中国についで、2019年には対衛星破壊兵器(ASAT)実験に成功している。軍事面で、インドがもはや侮れない存在になってきているのは明らかだ。

ヨガとカレーとガンディーの国
このように、経済力や軍事力のようなハードパワーの向上が著しいのはたしかだが、インドは世界のひとびとを惹きつける魅力、いわゆるソフトパワーの源にも恵まれている。
あの白亜のタージ・マハルをはじめとして、インドは長い歴史と文明を通じ、複数の宗教と文化が織りなすなかで培われた多くの世界遺産を誇る。インド政府が観光キャンペーンとして掲げる「インクレディブル・インディア(信じがたいほどのインド)」というのは、けっして誇張ではない。インドを旅していると毎日、想像できないことをいくつも目にするし、自分自身が体験する。世界中の多くの若いバックパッカー(低予算で個人旅行する旅行者)、年配のツアー客らを魅了してやまない国だ。

インドは、かつてあのビートルズも修行した、ヨガ発祥の国でもある。モディ政権は、ヨガを5000年インドの伝統が生んだ貴重な贈り物だとして、国連に働きかけ、6月21日を「国際ヨガの日」と定めた。以来、世界各国のインド大使館が中心となって、ヨガの普及に努めている。

世界一の映画大国であることもよく知られている。映画産業の中心地、ムンバイは「ハリウッド」にちなんで「ボリウッド」と称される。歌って踊るインド映画が人気なのは、いまや南アジアやインド系住民の多い国にかぎらない。「きっと、うまくいく」(2009年)、「ダンガル きっと、つよくなる」(2016年)、そして「RRR」(2022年)など、欧米や日本でも記録的な興業収入となる映画は多い。

スパイスの効いたインド料理も、世界各地で人気を博している。筆者はスイスのアルプスの観光地でインド料理店を見つけて、行天したことを覚えている。ナンで食べるお馴染みの北インド・カレーだけではない。日本でも、南インドの米で食べるサラッとしたカレーや、魚介の出汁(だし)が特徴のベンガル・カレーなどを提供する店があちらこちらにある。それに舌鼓を打つのはインド人、インド系住民だけではないのは、日本語のレストラン・ガイドブックがいくつも出ているのをみればわかるだろう。

これらにくわえて、インドには誇るべき思想や理念のシンボルがある。インドの政治指導者たちが、事あるごとに世界に向けて強調するのが、「ガンディーの国」というアピールだ。非暴力を実践した平和主義者であり、宗教間の融和を説いたマハトマ・ガンディーは、インドのモラル、良心を体現する偶像として位置づけられている。1998年の核実験、中国やパキスタンに対する軍事力増強と対決姿勢、モディ政権下のヒンドゥーナショナリズムとマイノリティー弾圧といった動きは、これとまったく矛盾するように思えるかもしれない。

日本のGDPがインドの4分の1になる日

このようにみると、インドの国力は総合的にみて、現時点でも相当高く、今後はさらなる伸びも予測される。2022年、独立して75年になるのに合わせて、モディ首相は演説を行い、現在の若い世代が社会の中軸を担う25年後、つまり独立100周年までにインドを先進国入りさせるとの決意を表明した。

近い将来には、「米中印3Gの時代」が到来するといった見方さえある。インドが経済力や軍事力で、米中に並ぶというのはいいすぎだとしても、3番手につける可能性はきわめて高い。

まさにこの点にこそ、インドの重要性がある。中国の台頭に伴い、アメリカの覇権的地位は揺らいでいる。米中二極の世界の可能性も語られるいま、インドの動向が世界秩序のカギを握ると考えられるからだ。
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さらに先の未来図になると、この流れがいっそう明確になる。同じくイギリスを本拠とするグローバルなコンサルタント企業、プライスウォーターハウスクーパースPwC)は、2017年2月に、『2050年の世界』を発表した。同報告書によれば、中国の成長率が2030年代以降、先進国並みに低下するのとは対照的に、人口ボーナスのつづくインドは、2040年代まで高成長を維持する。
その結果、2050年には、インドのGDPアメリカの82パーセント、中国の56パーセントにまで接近するという。想像したくない話かもしれないが、このときには日本のGDPは、インドの4分の1にも満たない。

もっと先の約半世紀後の予測もある。2022年12月、米投資銀行ゴールドマン・サックスは、2075年までにインドのGDPアメリカをも上回り、中国に次ぐ世界第2位の経済大国になると発表した。