じじぃの「カオス・地球_199_インドの正体・第2章・中国との国境戦争」

安倍総理 インド訪問―平成29年9月13・14日

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=JlyA-B52EFg


How India's dependence on China as a trading partner has grown over years

India Today
●Rising trade deficit
Trade deficit is excess of imports over exports. In the last 10 years, India's trade deficit with China increased by 153 per cent from $19.2 billion in FY10 to $48.6 billion in FY20. The number reached its height in FY18 at $63 billion. The major reason for this is faster growth in India's imports from China than exports.
https://www.indiatoday.in/diu/story/how-india-s-dependence-on-china-as-a-trading-partner-has-grown-over-years-1690731-2020-06-19

中公新書ラクレ インドの正体―「未来の大国」の虚と実

【目次】
まえがき――ほんとうに重要な国なのか?
序章 「ふらつく」インド――ロシアのウクライナ侵攻をめぐって
第1章 自由民主主義の国なのか?――「価値の共有」を問い直す

第2章 中国は脅威なのか?――「利益の共有」を問い直す

第3章 インドと距離を置く選択肢はあるか?――インドの実力を検証する
第4章 インドをどこまで取り込めるか?――考えられる3つのシナリオ
終章 「厄介な国」とどう付き合うか?
あとがき

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『インドの正体 「未来の大国」の虚と実』

伊藤融/著 中公新書ラクレ 2023年発行
「人口世界一」「IT大国」として注目され、西側と価値観を共有する「最大の民主主義国」とも礼賛されるインド。実は、事情通ほど「これほど食えない国はない」と不信感が高い。ロシアと西側との間でふらつき、カーストなど人権を侵害し、自由を弾圧する国を本当に信用していいのか? あまり報じられない陰の部分にメスを入れつつ、キレイ事抜きの実像を検証する。この「厄介な国」とどう付き合うべきか、専門家が前提から問い直す労作。

第2章 中国は脅威なのか?――「利益の共有」を問い直す より

国境戦争敗北のトラウマ
インドの対中脅威認識の起源は、日米のそれよりはるか以前にさかのぼるものだ。
印中関係は、これまで大きなアップダウンを繰り返してきた。インドは初代首相ネルーのもと、1949年に設立した中華人民共和国をいち早く承認し、周恩来とのあいだで「平和五原則」を宣言した。その後も、アジア、アフリカの新興独立国、いわゆる第三世界のリーダーとして、インドは中国と共闘しようとする姿勢を示した。広瀬祟子が指摘するように、ネルーには、巨大な隣国と友好関係を構築することで、中国がインドに敵対することを防ごうとする計算があった。

ところが実際には、中国側はその裏で、インドが領有権を主張するカシミール地方の北東部、アクサイチンに一方的な道路建設を着々と進めていた。ここは、無人の荒地であったこともあり、無警戒だったインドはまったく気づかないまま、道路の完成を許してしまう。こうして中国によるアクサイチンの実効支配化が進んだ。その後、チベット反乱、ダライ・ラマのインド亡命に中国が反発して、両国関係は悪化へ向かう。他の国境係争地でも小規模な衝突が相次ぐなか、ついに1962年、中国人民解放軍がインドへの軍事作戦を開始したのだ。世界の耳目が、キューバ危機に集まるさなかの襲撃であった。まさか中国の侵攻はないと楽観していたインド側は、なすすべもなく敗走を重ねた。インド軍・安全保障関係者のあいだには、60年を経た今日でも、この国境戦争での敗北の記憶が大きなトラウマとして根強く残る。

国境戦争での敗北は、中国に対抗しうる軍事的構築の必要性をインドに痛感させることになった。核兵器開発はその最たるものだ。兵器としてのインドの核兵器は、パキスタンではなく、自身よりも強い、中国を睨んではじめられた。その結果、1974年、中国に遅れること10年、インドは最初の地下核実験に成功する。このほか、中国と対立関係に転じたソ連との軍事的関係を深めた。
序章でも論じたように、インドはソ連からありとあらゆる兵器を調達し、通常戦力でも充実を図った。1971年の第3次インド・パキスタン(印パ)戦争に際して、中国の介入を防ぐために、時のインディラ・ガンディー首相は、ソ連とのあいだで平和友好協力条約を締結した。それまでの「非同盟」を事実上、放棄したものと受け止められても仕方のないような条約の締結に踏み切ったことをみれば、インドがどれほど中国を脅威として認識していたかがうかがえよう。

国境戦争でほぼ断絶状態に陥った印中関係は、冷戦後にしだいに正常化に向かうが、インドの対中脅威認識が消えることはなかった。1998年のインドの2度目の核実験と核保有宣言の際には、当時のヴァジペーイ首相が、クリントン米大統領に宛てた書簡のなかで、中国の存在を核保有の理由だと弁明していたことが明らかになっている。フェルナンデス国防相に至っては、中国がインドの「第1の敵国」だと公言してはばからなかった。

インドはもうひとつの敵国、パキスタンと何度も戦火を交えてきたが、パキスタンには一度たりとも負けたとは思っていない。とくに最後の第3次印パ戦争では、東パキスタンの解放、バングラデシュ独立という戦略目標を達成して、明確な勝利を収めている。
最近ではパキスタンから仕掛けられてくるテロなどのような「代替戦争」に苦しめられているといえ、まともに戦えば勝つと考えている。これに対し、中国にはインドはかつて明確に敗北しており、正規戦では最大にして、唯一の脅威だと認識しているのだ。

インドの「世界大国化」を中国が阻止?
安全保障だけでなく、政治外交、経済面でも、インドには中国への不信感がある。
21世紀のインドは国際社会における、みずからの地位向上に注力してきた。最大の目標は、国連の安保理常任理事国入りである。インドは二本、ドイツ、ブラジルとの「G4」の枠組みで共闘するとともに、世界各国との2国間首脳会談等でも、安保理改革の実現を訴えてきた。これまでに、米ロを含むほぼすべての主要国・新興国が、インドの常任理事国入りに一定の支持を与えている。これに対し、中国は「インドの熱望」を理解するという曖昧な表現にとどまっている。インドは、安保理常任理事国のうち、中国だけが、インドの常任理事国入りに否定的だとみている。
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このように、中国は、インドをあくまでも「南アジアの大国」にとどめ、その「世界大国化」を阻止しようとしているのだ、という見方がインドでは支配的である。

中国に飲み込まれることへの警戒感
経済面では、国境戦争以降、長くゼロに等しい状況がつづいてきた中国との貿易関係が飛躍的に拡大している。
2008年には中国がアメリカを抜き、インドの最大の貿易相手国となった。もっとも、インド側の圧倒的な入超であり、安価な家電製品や玩具等がインドに流入してきている(図表.画像参照)。一時は、ヒンドゥーのお祭りの際に庶民が使う花火から、なんと川や海にながすガネーシャ像に至るまで中国製品が席捲するほどになった。それは貧しいひとびとの生活向上に寄与する一方、インドの製品が駆逐されるということも意味している。
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しかし、上海の復星国際グループによる、2016年のインドの製薬大手、グランド・ファーマ買収計画が物議を醸したように、インド社会のなかに、中国の進出に対する強い抵抗感があることも事実だ。
2019年11月に、モディ首相が地域的な包括的経済連携協定(RCEP)に、交渉の最終段階で不参加を表明したのも、中国にインド経済が飲み込まれることへの国内の強い警戒感が背景にあった。

その後、2020年からの国境衝突・対峙と新型コロナの感染拡大は、経済の脱中国化への必要性をモディ政権に決意させることとなった。経済を中国に依存したままでは、中国と長期にわたって対峙する、ましてや戦うことなど不可能だ。それになによりも、国内世論が脱中国化を強く求めている。そこでモディ政権は、中国系アプリの使用を禁止したほか、中国からの投資の締め出しを強めた。

ところが、脱中国化はそう簡単な話ではなかった。2021年4月、インドを新型ころなの感染「第2波」が襲ったとき、医療崩壊に陥ったインドは、香港経由で中国製の人工呼吸器や酸素濃縮器に依存せざるをえなかった。電化製品のインド国内での製造にも、中国の半導体集積回路リチウム電池等が欠かせないという実態が露呈する。結局、皮肉なことに、同年の対中貿易(輸入)額は、過去最高を記録した。厳しい現実のなか、モディ政権は「自立したインド」というスローガンを掲げ、クアッドとも連携しつつ、中国に依存しないサプライチェーンの再構築に乗り出した。

このように、インドの中国に対する警戒感は、長期にわたるものであるのにくわえて、その度合いについても、日本やアメリカ以上の強さだ。さらに、それはあらゆる面でいっそう強まる傾向にある。そうであれば、インドほど、われわれにとって「都合の良い」パートナーはないだろう。