Kyoto U Interdisciplinary Conference “La nature pense-t-elle ?” Juichi Yamagiwa Chapter 1 June, 2019
動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=tvOutW7mMMM
NHKブックス 自然・人類・文明
ハイエク,F.A./今西 錦司【著】
【内容説明】
知的刺激に満ちた対論、待望の復刊!画期的な景気循環論を展開した、ノーベル賞受賞の経済学者にして社会哲学者ハイエク。
競争原理を軸とする西洋的生物観に異を唱え、独自の進化理論を提唱した今西錦司。東西を代表する二人の「知の巨人」が、一九七八年に京都で行った対論を完全収録。生物の進化から言語発生のプロセス、文明化における市場の役割までを討議し、人間的価値の根源に迫る。
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河出新書 共感革命――社交する人類の進化と未来
【目次】
序章 「共感革命」とはなにか――「言葉」のまえに「音楽」があった
第1章 「社交」する人類――踊る身体、歌うコミュニケーション
第2章 「神殿」から始まった定住――死者を悼む心
第3章 人類は森の生活を忘れない――狩猟採集民という本能
第4章 弱い種族は集団を選択した――生存戦略としての家族システム
第5章 「戦争」はなぜ生まれたか――人類進化における変異現象
第6章 「棲み分け」と多様性――今西錦司と西田幾多郎、平和への哲学
第7章 「共同体」の虚構をつくり直す――自然とつながる身体の回復
終章 人類の未来、新しい物語の始まり――「第二の遊動」時代
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『共感革命』
山極壽一/著 河出新書 2023年発行
人類は約700万年前にチンパンジーとの共通祖先から分かれ、独自の進化を遂げた。やがて言葉を獲得したことによって「認知革命」が起きたとされている。しかし、実はその前に、もっと大きな革命があった。それが「共感革命」だ。
第5章 「戦争」はなぜ生まれたか――人類進化における変異現象 より
人類の歴史は「戦争のない時代」
ユヴァル・ノア・ハラリは『サピエンス全史』の次に刊行した『ホモ・デウス』の中で、20世紀までに人類はこれまでの大きな課題、戦争と飢餓と病気を解決する手段を手に入れた、と書き、21世紀、人間は神の手、不死の体、そして幸福を求めに行くだろう、と予測している。さらにその方策については次作の『21 Lessons』に詳述している。
しかし、ハラリの予言は当たらなかった。
21世紀になり、世界は様々な紛争に直面している。アラブの春もアフガニスタンの紛争も解決していない。ミャンマー、シリア、スーダンと紛争の火種はくすぶる一方である。
新たにロシアによるウクライナへの軍事侵攻も始まり、まったく収束する気配がない。その原因は何なのか。
戦争は勝者と敗者を生む。勝った者が領土を占有し、負けた者はその負債を払わなければならない。第二次世界大戦でアメリカは日本に原爆を落としたが、罪に問われていない。
日本は東條英機などの指導者が絞首刑となり裁きを受けた。勝つことによって、国家が大きな利益を得る。戦争を起こさないと国家の利益は拡大できない。そして戦争は武力によってしか解決できない、という常識が蔓延し、その暴力性こそが人間の本能であると考える人もいる。
ハラリは、戦争を解決する望みはついたとした。国連が核兵器禁止条約を採択し、大きな戦争を起こさない、起こさせないようにする世界の合意がとれた、という。しかし現在、国連は世界各地で起こる紛争、戦争を防げていない。この現状を見てしまえば、結局国家を守るためには、それぞれの国家が自分たちの力で安全保障を強化させるしかない、という結論に至ってしまうかもしれない。ときには、戦争こそが平和の秩序をもたらすために必要であるとすら考える国や地域も出てくるだろう。
しかし、ここにも大きな疑問がある。
戦争は人類の歴史の中でも、きわめて新しいものだ。
現在、人類が狩猟採集生活をしていた時代に戦争をしていたという証拠は、見つかっていない。
人類最古の戦争は、約1万2000年以上前とされている。スーダンのヌビア砂漠にあるジュベル・サハバで大量の人骨が見つかり、槍などで傷ついている形跡があることから、この頃から戦争があったのではないかといわれている。
この頃の人類は、すでに定住生活を始めていた。戦争は狩猟採集から農耕牧畜に切り替わろうとしていた時代に始まったのだ。人類誕生から現在までが約700万年と考えると、人類の歴史の99%以上は「戦争のない世界」だったことになる。この歴史を見るだけでも、戦争のような行為を人間の本能であると考えるのは間違いであると理解できるだろう。
では、なぜ戦争のような愚かな行為が始まったのか。
その理由の1つは、先にも述べた通り、食料生産を始めたことで土地に価値を見出すようになったからだ。土地に肥料や種を蒔き、収穫する。その利益を得るために定住をする。結果、人口が増え、さらに食料が必要となり、領土を拡大しなければならなくなる。所有が始まり、領土を拡張しようとする中で集団間のコンフリクトは高まっていく、というのだ。そうなると、食料生産に従事せず、武力を中心とする専門家が現れて、集団の権利を拡張するようになった。これは狩猟採集時代には見られない人間にとって新しい行為だった。
西洋近代への日本霊長類学者の反論
人間を戦争へと導いた理由としては、共感力も挙げられるだろう。
17世紀、トマス・ホッブズは『リヴァイアサン』の中で、自然状態の人間は闘争状態であるから、その闘争状態に秩序をもたらすためには大きな権力、リヴァイアサンという怪物を必要とし、人びとが自分たちの権利をそこに譲渡し、その権力による支配が平和をもたらすと記した。政治権力を認める考え方である。
ホッブズの少し前、マキャベリは『君主論』を著わす。『君主論』には人の気持ちを斟酌(しんしゃく)したりする必要はなく、権力を把握するためにいかに巧妙に立ち振る舞ったらよいかが書かれている。
その100年後、18世紀にジャン=ジャック・ルソーが登場する。ルソーは人間の自然状態を「他人の動向には関心を示さず、自分のことだけを考えて生きる」状態とした。そしてこれを「自然人」と呼んだ。そんな自然人である各人が身体と財産を保護するためには、それらを契約によって共同体に譲渡することで、単一の人格と意思を持つ国家が生まれ、秩序がつくられると考えた。『社会契約論』である。
ルソーはこの『社会契約論』や『人間不平等起源論』などの著書で歴史に名を残した。
この思想に従って起こったのがフランス革命だが、この革命は互いに殺し合う結果となり、混乱の末に、ナポレオン1世による帝政を登場させた。
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人間以前の、あるいは人間と共通の視線を持つサルや類人猿も、それぞれに社会をつくっている。ホッブズやルソーの時代の人々は、それを「社会」とは呼ばなかった。
日本の霊長類学は、人間以外の動物も社会を持っているという前提から始まっている。
かつて欧米の学者たちは、この説を信じなかった。社会は言葉によってつくられており。社会と文化は言葉によって生じるため、言葉を持たなければ成立しないものと考えていた。
しかし日本の霊長類学の創始者である今西錦司は、言葉を持たない動物でも社会を持っており、それはお互いを認知し合うことから始まっている、と考えた。
魚の世界、昆虫の世界、アメーバの世界も、それぞれに社会を持っている。当然、人間とは違うものだが、サルにはサルの社会や文化があることを1950年代に、弟子の伊谷純一郎や河合雅雄たちとともに証明した。
ルソー以後の1859年に、チャールズ・ダーウィンが進化論を唱えた。ダーウィンの著書『種の起源』の原稿に、人間は含まれていない。生物がどう進化するのか、そのメカニズムに説いたものだ。
しかし1871年には、人間も同じ進化の原則に従っているとして、人間の由来に言及した。動物は食料が育つよりもずっと速く、その数を増やしていった。そこで競争が起こり、競争に勝ったものが子孫を残す。この「競争原理説」は、大きく考えればホッブズ流の考え方であって、自然界は闘争に満ちており、生存競争によって環境に合ったものだけが生き残り、子孫を残す。ダーウィンはそういう思想をつくりだした。
しかし、今西錦司の根本原理は棲み分け論で、競争原理ではない。
世界にこれだけ多様な生物がいるのは、生物が互いに共存し合おうと互いの性質を変え、環境に適応するように暮らし方を変えていったからで、「棲み分けの多様化」こそが進化なのだと主張した。
大変画期的な考えだったが、残念ながら当時、この主張は認められなかった。進化のメカニズムが、競争によるものではなく、共存によるものだという説を証明できなかった。
だが、これは大変重要な考えだ。今西が主張した進化は大進化のことで、ダーウィンの進化は個体の進化、つまり小進化なのだ。生き残ることによって、その個体の子孫の性質は受け継がれる。これは遺伝子レベルで証明が可能だ。しかし、今西の考える進化は、その種全体が変わっていくことであり、個体の進化を説明しているわけではない。なぜオオカミとリカオンの違いが生まれたのか、ゾウとキリンのような形が違う動物ができたのか、有袋類、有胎盤類という系統の全く違う哺乳類でフクロオオカミ、オオカミという形態のよく似た種が生まれたのはなぜか、などということを捉えていった進化論なのだ。