じじぃの「カオス・地球_164_共感革命・第4章・ひ弱な人類」

The Humans That Lived Before Us

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=_ANNQKKwWGk


How many early human species existed on Earth?

January 24, 2021 Live Science
"The chimpanzee and us have evolved from a common ancestor," Stewart said. If we decide that humans are everything that arrived after our split from ancient chimpanzees about 6 million to 7 million years ago, then it's likely to be a diverse group.
The Smithsonian National Museum of Natural History has listed at least 21 human species that are recognized by most scientists. Granted, it's not a totally complete list; the Denisovans, for instance, are missing.
https://www.livescience.com/how-many-human-species.html

河出新書 共感革命――社交する人類の進化と未来

【目次】
序章 「共感革命」とはなにか――「言葉」のまえに「音楽」があった
第1章 「社交」する人類――踊る身体、歌うコミュニケーション
第2章 「神殿」から始まった定住――死者を悼む心
第3章 人類は森の生活を忘れない――狩猟採集民という本能

第4章 弱い種族は集団を選択した――生存戦略としての家族システム

第5章 「戦争」はなぜ生まれたか――人類進化における変異現象
第6章 「棲み分け」と多様性――今西錦司西田幾多郎、平和への哲学
第7章 「共同体」の虚構をつくり直す――自然とつながる身体の回復
終章 人類の未来、新しい物語の始まり――「第二の遊動」時代

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『共感革命』

山極壽一/著 河出新書 2023年発行
人類は約700万年前にチンパンジーとの共通祖先から分かれ、独自の進化を遂げた。やがて言葉を獲得したことによって「認知革命」が起きたとされている。しかし、実はその前に、もっと大きな革命があった。それが「共感革命」だ。

第4章 弱い種族は集団を選択した――生存戦略としての家族システム より

胃腸が弱く、ひ弱だった人類

今では地球の覇者のように振るまう人類だが、元々はとても弱い生き物だった。森の弱者として出発した人類は、その弱みを強みに変えながら課題を解決し、他の霊長類が踏み出さなかった新たな環境へと進出していく。

今から2000万年ほど前の地球は温暖で、アフリカの熱帯雨林は今より大きく広がっていた。そこには多種多様な類人猿が生息し、サル類はほんのわずかしかいなかった。しかし、地球が寒冷化し始めると熱帯雨林が縮小し、類人猿は減ったのだが、かわりにサル類が優勢になる。今のアフリカにおいて、類人猿はたった4種、ヒガシゴリラとニシゴリラ、チンパンジーボノボしか生き残っていない。しかしサル類は80種以上も生息している。類人猿はサルとの競合に負けたのだ。

なぜ人類と類人猿の祖先は、サルに負けてしまったのか。

理由の1つとして挙げられるのが、胃腸の弱さと繁殖力の低さだ。

サルと類人猿は、まったく異なる消化器官を持っている。

動物は植物繊維を分解する消化酵素を持っていない。持っているのはバクテリアなどの細菌類だけで、植物を食べる動物たちは、胃や腸にバクテリアを共生させ分解している。
サル類も胃や腸に大量のバクテリアを共生させているので、多少の毒素があっても分解できるし、植物繊維も消化できる。

植物にとって葉は光合成をするための重要な器官だから、なるべく食べられないようにしたい。硬い植物繊維で防御したり、消化を阻害する物質や毒物を仕込んでいたりする。
果実にしても、種子の準備ができないうちに食べられてしまっては困るので熟す前の実には、苦みのあるタンニンや、天然毒素のアルカロイドが含まれていたりする。バクテリアはこうした化学物質を分解してくれるため、サル類は大量の葉や未熟果であっても食べられるのだ。
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現代人も類人猿の胃腸の弱さを継承しており、野生の植物や生でたくさん食べることはない。硬い葉はそのままでは噛めないし、野草独特の渋みやえぐみが苦手な人も多い。そのため、水に浸けたり、火を用いて調理したりすることで、植物の持つ防御壁を取り除く調理技術が発達した。我々が普段食する野菜は柔らかいが、そのような野菜を栽培し始めたので、元々は胃腸の弱さをカバーするためだった。

ゴリラやチンパンジーは、活動時間の半数以上を、食べたり消化したりするために費やしている。これと比べ、人間の食事時間はきわめて短い。これは現代人が消化率の良い食べ物を摂るようになったからだ。

類人猿がサルに負けたもう1つの理由は、繁殖力の弱さだ。

霊長類のメスは、授乳している期間は妊娠できない。お乳の産生を促すプロラクチンというホルモンが出て、排卵を抑制するからだ。しかし赤ちゃんがお乳を吸わなくなると、自然にお乳は出なくなり、排卵が回復する。
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しかし離乳時期は早められても、子どもの成長は早められない。類人猿の子どもは、離乳したときには永久歯が生え、大人と同じ硬いものも食べられる。しかし人間の子どもは6歳くらいにならないと永久歯が生えないため、離乳しても華奢(きゃしゃ)な乳歯で硬いものは食べられない。そのため、この時期の子どもには、熟した果実など柔らかいものを食べさせる必要が生じた。

食べられるものが限られてしまうのは、生存戦略上で不利だ。しかし手で食物を運べて、分配もできる二足歩行によって、この不利を解消しようとした。

ちなみに、人類の脳が200万年前に大きくなり始めたことはすでに書いたが、それまでに直立二足歩行が完成していたため、骨盤の形状が皿状に変形し、産道を広げられなくなくなってしまった。その結果、胎児の状態で大きな脳を育てられなくなり、まず小さな頭の赤ちゃんを産んでから、急速に脳を成長させるようになったと考えられている。

食物の分配から生まれた平等

類人猿の食物の分配は、食物を持っていない体の小さなメスや子どもたちが、食物を持っている体の大きなオスにせがみ、分配してもらう形をとる。

ゴリラの社会は、メスや子どもたちに承認されないとオスが存在できない仕組みになっており、オスはメスに認められてようやく繁殖できる。逆にメスに認めてもらえなかったオスに群れを出て行ってしまう。オスはメスとの交尾機会を増すために食物を分け与えることもある。
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現代に残る狩猟採集民の社会も、徹底的な食物の分配が当たり前となって成立している。ひとりで食物を独占しない。徹底的に分ける。大きな獲物をとってきた狩人は自分の手柄を自慢にするのではなくて、むしろ控え目な態度をとって、みんなの意見を聞く。さらに自分はなにもしてこなかったと謙遜する。そうすることで、権威が生じないようにする。

このような振る舞いは、おそらく人類の祖先が森林を離れ、食物の分配を始めて以来ずっと引き継いで引き継いできたことなのではないか。まさに所有を否定する社会である。

彼らは個人所有の槍や弓は持っている。しかし狩りに出るときはわざわざ自分の狩猟道具を持たずに、人から借りて出かける。自分の狩猟道具で獲物を狩ると、結局手柄が自分のものになってしまう。そうではなく、人から借りた道具で獲った食物であれば、道具を貸してくれた人にも獲物を分配する理由が生まれる。

あらゆるものを共有する。あえてそういう立場をとるのだ。また物を与える場合も、直接自分の手からは渡さず、どこかに置くようにする。自分の権利を放棄したように見せ、誰がとってもよい形にする。また物にも自分の名前を付けない。人から人へというつながりをあえてつくらない場合もあるのだ。それは食物でも同じで、共有の場に必ず出すようにする。現代の狩猟採集民たちはそのようにして平等な社会を守っているのだ。