じじぃの「カオス・地球_150_2050年の世界・ヨーロッパの将来」

What we know about the AUKUS submarine deal

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=Ex52pg-_Gj4

AUKUS(オーカス)


AUKUS(オーカス)のリスクと有益性の分析

2021年09月27日 戸田記念国際平和研究所
9月16日、オーストラリア・英・米の3カ国首脳らは、オンラインサミットの閉会にあたって、AUKUS(オーカス)というややぎこちない名前の安全保障の取り決めに合意したことを発表した。
この取り決めは、英国(UK)と米国(US)がオーストラリア(AU)に対して原子力潜水艦8隻の取得を支援するため技術・物資支援を行うという、前例のないものである。
https://toda.org/jp/policy-briefs-and-resources/policy-briefs/in-aukus-we-trust-australias-security-settings-return-to-the-future.html

2050年の世界――見えない未来の考え方

【目次】
序章 2020年からの旅
第1章 わたしたちがいま生きている世界
第2章 人口動態――老いる世界と若い世界
第3章 資源と環境――世界経済の脱炭素化
第4章 貿易と金融――グローバル化は方向転換する
第5章 テクノロジーは進歩しつづける
第6章 政府、そして統治はどう変わっていくのか
第7章 アメリカ大陸

第8章 ヨーロッパ

第9章 アジア
第10章 アフリカ・中東
第11章 オーストラリア、ニュージーランド、太平洋
第12章 この先の世界を形づくる大きなテーマ――不安、希望、判断

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『2050年の世界――見えない未来の考え方』

ヘイミシュ・マクレイ/著、遠藤真美/訳 日経BP 2023年発行

第8章 ヨーロッパ より

ヨーロッパの夢は遠のく

ヨーロッパの重要性は下がっていくだろう。客観的に見て、少なくとも地球上の大多数の人にとっては、最も暮らしやすい場所の1つであることは変らない。

総体的に豊かで、穏やかで、安全である。高スキルの労働者から中・低スキルの労働者まで、あらゆるレベルの移民にとって魅力的なところでありつづけるし、いまのEUよりも居心地のよい国民国家の連合へと手探りで進んでいくだろう。だが、ヨーロッパがどうなるかは、残りの世界にとっていまほど重要ではなくなる。
ヨーロッパは人口の絶対数が減り、世界経済に占める割合も小さくなる。大きな野心をもち、この大陸はもっとうまくいくはずだと感じているヨーロッパ人にとって、この後退は受け入れがたいし、ヨーロッパの一部の国の知識産業は最先端を走りつづける。しかし大陸全体としては、過去の功績の博物館に近くなり、未来のアイデアの実験室ではなくなっていく。

イギリスとアイルランド――いばらの道の先にある揺るぎない未来

ブリテン諸島は10年間、場合によってはそれよりも長く、厳しい状況がつづく。しかし、その先にはいまよりも落ち浮いた未来が待っている。2050年には、言語と歴史で結びついた国の集団であるアングロ圏の一員として、より自信を深め、外向きになり、繁栄が広がっているだろう。

アングロ圏は正式な集まりではなく、文化と言語が物理的な近さ以上に人びとを1つにまとめる重要な接着剤となることを表すものにすぎない。

文化と言語をお互いに共有する国々の集まりができるなんて、絵空事でしかないと思われるかもしれない。イギリスは大英帝国時代の残影を追っている。ブレグジット後のEUにかわる選択肢にしようとしていると感じる人もいるだろう。現時点では、アングロ圏諸国は主に機密情報を共有する枠組みの「ファイブアイズ」で協力している。アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドで構成されるこの協定の起源は、1941年8月に発表された大西洋憲章に遡る。
アメリカが第二次世界大戦に参戦する前のことだ。ファイブアイズは協力関係を拡大する土台としては位置づけられておらず、そのためにつくられたものでもない(ただし2019年にファイブアイズの役割の拡大が議論されている)。その意味では、1952年に発足し、EUのぼたいとなった欧州石炭鉄鋼共同体とはまったくちがう。ファイブアイズが存続しているのは、それが役に立つからであり、トップダウンの構想ではなく、ボトムアップ型の取り決めであるからだ。

アングロ圏は、インド、スカンジナビアシンガポール、アフリカの大部分を含む、非公式な国の集まりへと拡大・進化していくと思われる。この点については最後の章で論じる。

ドイツとベネルクス3国――小欧州の中核

2050年までドイツは堅調だろう。つぎの30年は厳しい時期になるのは避けられないが、経済と政治社会がしっかりしており、難局を乗り切る見通しである。
イギリスとほぼ同じ経済規模をもつ大陸ヨーロッパ最大の経済大国として、支配的な地位を維持し、豊かな国でありつづける。しかし、3つの大きな課題に直面している。ドイツ社会にとっては、新しい移民をうまく統合することが大きな課題になる。経済の大きな課題は、人口が減少して失われていく製造活動にとってかわる新しい活動をどう育てるかだ。そして外交の大きな課題は、協力し合う国民国家のゆるやかな集団へとEUを導き、「深化しつづける連合」というブリュッセルのビジョンから離れることである。こうした3つの点について、すこし考えてみたい。

この先、人口が自然減少し、労働力の縮小が加速すると予想されるため、それを移民によってどううまく相殺するかが、ドイツ社会の歯台になるだろう。2050年には、2014年から19年にかけて主に中東から到達した大量の難民が中年以上になっており、そうした難民の子どもが経済成長を支えている。移住はある程度の水準でつづき、新しい移民の出生率は、伝統的なドイツ家族よりいくらか高いまま推移すると想定すると、2050年には移民の背景をもつ人が労働力の4分の1から3分の1ほどを占めるようになりそうだ。

フランス――憂鬱な美の国

フランスはずっとフランスでありつづける。2050年には、文化の力も、影響力を拡大しようという野心も強いままだが、ヨーロッパにおける役割も、世界における役割も、輝きを失っている。
経済面ではグローバルリーダーの地位を維持し、高級品で世界をリードしているだろう。政治の面では、EUを土台にヨーロッパで影響力を行使し、フランス語圏の国々(フランコフォニー)を土台に世界に影響力を行使しようとしつづける。強大な軍事力を維持しつづける。パリは世界屈指の大都市でありつづける。そしてなんと言っても、世界中が憧れるライフスタイルを提供しつづける。

ちょっと話がうますぎるように感じるとしたら、それはそのとおりだからだ。いまあげた強みはどれも正しいが、いくつかの問題も抱えており、乗り越えるのは簡単ではないだろう。
まず、21世紀になって製造業の競争力がいちじるしく低下していて、この先、それがもっと経済の足を引っ張るようになる。財政状況も厳しい。フランスの公的部門は巨大で、対GDP比は世界の主要国のなかで最も高い。公共サービスは充実しているが、フランスの人口は高齢化しており、国の負担は重くなる。総人口は増えつづけるのに、働く人の数は頭打ちになって、歳入が伸び悩むからだ。EUが一種の「ゆるやかな連邦」へと移行すれば、ドイツとともにヨーロッパ大陸を牽引するリーダーだという自負は揺らぐ。EUが禍根を残す形で崩壊すれば、フランスはとくに大きな打撃を受けるが、ドイツの財政力が防波堤になる。イギリスは2050年には世界における立ち位置を考え直して、イギリスの未来はアングロ圏にあるという選択をしているだろう。フランスにとってフランス語圏はそのような選択肢にはならない。文化の面では力になっても、経済の面では規模が小さすぎる。