インド-人口ピラミッドの変化と人口統計(1950-2100)
Median age in India 2000-2050
Population of India from 2000 to 2050
https://www.researchgate.net/figure/Median-age-in-India-2000-2050_fig7_280712496
2050年の世界――見えない未来の考え方
【目次】
序章 2020年からの旅
第1章 わたしたちがいま生きている世界
第2章 人口動態――老いる世界と若い世界
第3章 資源と環境――世界経済の脱炭素化
第4章 貿易と金融――グローバル化は方向転換する
第5章 テクノロジーは進歩しつづける
第6章 政府、そして統治はどう変わっていくのか
第7章 アメリカ大陸
第8章 ヨーロッパ
第9章 アジア
第10章 アフリカ・中東
第11章 オーストラリア、ニュージーランド、太平洋
第12章 この先の世界を形づくる大きなテーマ――不安、希望、判断
-
-
-
-
-
-
-
-
- -
-
-
-
-
-
-
-
『2050年の世界――見えない未来の考え方』
ヘイミシュ・マクレイ/著、遠藤真美/訳 日経BP 2023年発行
第2章 人口動態――老いる世界と若い世界 より
中国は縮み、インドは膨らむ
先進世界の人口動態は変化するが、それでも新興世界への重心のシフトに比べれば小さい。
この先見込まれる人口増加のほとんどすべてが新興世界で生まれることになるだろう。インド、それ以外の南アジア、アフリカがその大半を占める見通しだ。
世界人口の60%が暮らすアジアでは、最大のシフトは中国とインドのあいだで起きる。2020年代はじめのどこかで、インドの人口が中国を追い越すだろう。これは1700年代初頭以降ではじめてのことである。
ローマ帝国の時代から18世紀がはじまるまでずっと、インドの人口は中国よりも多かった。1700年の推定人口は、インドが1億6500万人、中国が1億3500万人だった。その後、中国が逆転し、1900年には中国が4億人、インドが2億8500万人となった。1982年、中国が一人っ子政策を開始してから3年後に、人口は10億人の大台を突破した。そのときのインドの人口は7億人だった。バングラデシュの9300万人、パキスタンの9100万人を足しても、インド亜大陸の人口は中国を下回った。中国はすでに一人っ子政策はもちろん、二人っ子政策政策もやめているが、中国の人口がインドを上回るという、この2つの大国のあいだの力学は3世紀にわたってつづいてきた。ところがそれが反転ようとしている。
この先、インドのリードが大きくなるのはまずまちがいない。人口の力学が国民心理にどう影響するかについてははっきりとしたことは言えないが、老いる社会と若い社会ではちがってくるだろうということはわかる。中国は指令経済から市場経済に移行し、国民の暮らしは人がなんとか食べていけるぎりぎりの生存水準から消費主義へと大きく転換しており、その勢いはまだ残っている。しかし、高齢化で先行する日本がそうだったように、国が老いると、活力は失われていく。これに対しインドは若く、この先何年も、活気と勢いに満ちた、自信あふれる国でありつづけるだろう。
インドは相対的に若いが、それにインドにとって課題でもある。同じことはパキスタンとバングラデシュにももちろん言える。いまある仕事だけでなく、まだ、生まれていない仕事でも、より高い教育と訓練を受けた人材が求められるようになっており、若者たちがそうした世界に十分に対応できるようにするためにはどうすればいいのか。若い人がどんどん労働市場に入ってくるため、仕事の数もどんどん増えなければいけない。世界各地で若者の失業が問題になっているが、インドは次元がちがう。毎年およそ1000万~1200万人が労働力になだれ込み、都市部では15~28歳の5人に1人ほどが失業している。若者の雇用を生み出すことは、インド亜大陸の最重要課題だと言っていい。
なぜ人口動態がこれほど重要なのか
人口の減少がまさに反転している最たる例がアイルランド共和国だ。アイルランドはかつては若者がつぎつぎに国外に流出していた。1921年に北アイルランドと分かれた時点の人口は320万人だったが、1960年代には280万人にまで減った(飢饉が起きる前の1840年代には650万人だった)。1950年代以降、事業を行いやすい環境を整える改革を進め、経済状況は徐々に改善していった。その結果、国外への人口流出が減り、出生率が相対的に高くなって、人口は増加に転じ、2019年に490万人に達した。
アイルランドの回復は、ブルガリアやイタリアのモデルになりうるのか。アイルランドは言語が英語でコモンローの国であるなど、もともと強みがある。だが、教育に重点的に投資しているほか、国外から企業を誘致するための税制度と規制体系を整えており、とくにアメリカの企業が多く進出している。アイルランド共和国の政策には、ほかの先進国にとって教訓になる要素がある。国際投資家がビジネスをしやすい環境にすることが出発点になっているのだ。
先進世界には人口が減少している例がいくつかあるが、新興国にはほとんどない。したがって、人口の減少が予測されている中国がパイオニアになる。中国の人口は2070年までに減りはじめる見通しで、場合によってはもっと早く減少に転じるかもしれない。そのときには中国は新興経済国ではなくなっているのはたしかだ。中国は中所得国になっている。
しかし現実には、中所得国で人口が減少した例はほとんど見当たらない。
中国については、比較的速い成長をつづけて経済を発展されるかどうか、そして2050年にはいわゆる「下位先進国」の生活水準に達しているかどうかが問題になる。中国は十分に発展した国になるだろうが、ヨーロッパ諸国やアメリカほど豊かにはならない。それで国民の望みは十分に満たされるのか。中国はこのまま外向きの姿勢をとりつづけていくのだろうか。