じじぃの「カオス・地球_138_2050年の世界・いま生きている世界・中国」

Top 10 Economies by GDP PPP (1AD-2050)

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=CxUDjQ0uUhI


2050年の世界――見えない未来の考え方

【目次】
序章 2020年からの旅

第1章 わたしたちがいま生きている世界

第2章 人口動態――老いる世界と若い世界
第3章 資源と環境――世界経済の脱炭素化
第4章 貿易と金融――グローバル化は方向転換する
第5章 テクノロジーは進歩しつづける
第6章 政府、そして統治はどう変わっていくのか
第7章 アメリカ大陸
第8章 ヨーロッパ
第9章 アジア
第10章 アフリカ・中東
第11章 オーストラリア、ニュージーランド、太平洋
第12章 この先の世界を形づくる大きなテーマ――不安、希望、判断

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『2050年の世界――見えない未来の考え方』

ヘイミシュ・マクレイ/著、遠藤真美/訳 日経BP 2023年発行

第1章 わたしたちがいま生きている世界 より

アジアの新興大国――中国とインド

中国、香港、台湾、そしてシンガポール

中国の経済成長に関する統計には驚くしかない。1例をあげると、中国を走る高速列車の数は中国以外のすべての国・地域を合わせた数よりも多いし、中国の自動車生産台数はアメリカ、日本、ドイツなどを合計した台数よりも多い。だが、人間の観点から見れば、世界で最も人口が多い国で、これだけ多くの人が貧困を脱したというのは、なによりも重要で、なによりもすばらしいサクセスストーリーである。中国はどうやってそれをなしとげたのだろう。

答えは2つあり、どちらも中国モデルの持続可能性に疑問を投げかけている。

1つは、中国が1978年以降に政策を転換していること、とくに1948年に共産党による一党支配がはじまってからつづいていた計画経済を慎重にゆるめていったことだ。経済の統制は段階的に廃止され、市場のシグナルが官僚の掲げる目標にゆっくりとってかわっていった。西側の混合経済体制をコピーしたが、徐々に移行していったおかげで、旧ソ連が陥ったようなすさまじい混乱は避けられた。それから40年たったいまも、国有企業が経済において重要な地位にあり、通貨を自由に交換できないうえ、外国から巨額の投資を集めてはいるものの厳しく規制されている。全体として、指令経済から市場経済への移行は成功している。もちろん失敗もあり、投資も、生産も、消費も、ものすごい勢いで増えているため、経済にひずみが生じている。たとえば、新築の住宅の多くは基準を満たしておらず、だれかがそこに住むことはおそらくない。投資計画がずさんで、債務の負担が重くのしかかる。環境に与えたダメージは、たとえ修復できたとしても何十年もかかり、最悪の場合、元には戻らない。

そしてもう1つは、中国が西側をコピーして成長してきたこととである。中国はあるときは体内投資を通じて、またあるときは直接盗んで、既存の技術をとりこんできた。中国に行ったら、西側の自動車にそっくりだが、どこかちがうクローンが当たり前のように通りを走っている。ロールス・ロイス・ファントムやポルシェ・ケイマンから、インドの小型車マルチまで、なんでもありだ。しかし、中国がコピーしているのは物理的なものばかりではない。サービスもコピーしている。そのため、ソーシャルメディア検索エンジンの巨大企業がアメリカの企業ではない、世界でただ1つの国だ。アメリカのソーシャルメディア会社は中国から締め出されており、ほとんどが撤退しているが、その一方で中国のクローンは繁栄している。

この先もずっと、キャッチアップが中国の経済成長の原動力になるだろうが、一定の水準に達すると、そこで行き詰まるおそれがある。いわゆる「中所得国の罠」だ。

それを避けるには、西側の技術をとりこむだけでは足りない。だとしたらどうすればいいのだろう。その手がかりは、2つの都市国家の経済状況にある。どちらもちがった形で経済が大きく成功しており、どちらも中国系人口の才覚が経済の発展を牽引してきた。1つは、いまは中国の一部である香港、もう1つは独立国のシンガポールである。

香港も、シンガポールも、20世紀後半に爆発的な成長をとげた。1950年の1人当たりGDPは、どちらも植民地時代の宗主国であるイギリスの3分の1だったが、1997年に「一国二制度」の合意の下で中国に返還されたときには、香港は格段に豊かになっていた。シンガポールもそうだ。だが2019年には、どちらもまだイギリスより上ではあったが、シンガポールが香港を引き離しはじめていた。実際、シンガポールの1人当たりGDPは世界3位である。
香港はめざましく発展し、中国本土という傘の下でいまも成長を続けている。しかし、シンガポールの経済状況はその比ではない。ビジネスのしやすさ、経済の自由度、競争力、人間開発、グローバル教育といった各種のランキングでトップか上位にいる。完璧な国などどこにもないが、シンガポールが驚異的な経済発展をとげたのは国の指導者が強力なリーダーシップを発揮したからだとされており、中国にとっては道しるべになる。

台湾もそうだ。ここでは中国と台湾の関係について踏み込んだ議論は控えるが、客観的に考えて、現在の緊張が武力紛争に発展することはないだろう。1949年に中国国民政府が台湾に逃れたとき、台湾の1人当たりの富は、本土よりも少し多い程度だった。だが1950年代から、とくに1960年代以降は台湾が本土を大きく引き離した。いまでは高所得国の仲間入りを果たし、香港やシンガポールよりは貧しいが、本土のはるか先を行く。台湾はコンシューマーエレクトロニクスにとくに強く、中国経済との結びつきが深い。輸出の40%以上が本土か香港向けである。

ところが、台湾の成功には疑問符がつく。どういうわけか、シンガポールや香港とちがって、バリューチェーンの上流にシフトできていないし、韓国とちがって、世界的なブランドも生み出せていない。比較的裕福な国で行き詰まり、ポルトガルよりは豊かだが、スペインよりは貧しい水準で終わるのか、それともフロンティア経済として前進しつづけるのか。これは中国ももうすぐ直面するジレンマだ。

もちろん規模はまったくちがう。人口は台湾が2400万人、香港が750万人、シンガポールは600万人に満たないのに対し、中国は14億人である。規模の優位はものすごく大きいが、その反面、キャッチアップには頼れない。

インド亜大陸

インドは2020年代はじめのどこかで中国を抜いて、世界で最も人口が多い国になるだろう。
1947年に分離独立するまでは植民地インドの一部だったパキスタンバングラデシュを加えると、インド亜大陸の人口はすでに中国を追い越しており、経済規模もドイツを抜いて世界4位に迫る勢いだ。2030年にはインドだけでドイツと日本を追い抜き、世界3位になっているだろう。

中国と同じく、インドは20世紀最後の四半世紀に突然、覚醒した。独立直後は経済が停滞し、成長率は人口の伸び率を少し上回る程度だった。生活水準も伸び悩んだが、1977年、中国の離陸がはじまる直前では、1人当たりGDPは中国を少し上回っていた。その後、中国が飛躍的に発展する。インド亜大陸全体で見ると、20世紀はじめは中国よりもわずかに豊かだった。

1990年代、インドはビジネスにやさしい改革に乗り出した。これは中国の経験に誘発されたものと思われる。21世紀に入ると改革は加速し、2017年にはインドの成長率が中国を超えた。世界で最も急速に成長している経済大国になったのである。
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インドには強みがたくさんある。教育水準が高く、自信にあふれ、野心をもったエリートたちがいる。その野心は自分自身と一族だけでなく、自分たちが牽引する国にも向けられている。

毎年、高いスキルをもった若者が高等教育を終えて、自国のハイテク産業に大量に供給される。製造業はもちろん、サービス産業にも非常に強い。その点では中国をしのぐ。中国はサービスよりもモノをつくるほうがうまい。しかし、中国のように成長するかどうかは問題ではない。インドにとってほんとうに問題なのは、急速に拡大する中間層だけでなく、人口全体の利益になるように、その成長をうまく舵取りしていけるかどうかだ。どれくらい速く中国との差を縮めていけるかは、統治の質を高められるか、環境をコントロールできるか、質の高い教育機会を広められるかで決まる。インドがやるべきことはたくさんある。気が遠くなるような課題ばかりだが、機会もものすごく大きい。