じじぃの「カオス・地球_134_2050年の世界・いま生きている世界・アメリカ」

時価総額による世界最大の企業 (2022)

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=XTwP21xCSsU


世界 時価総額ランキング100

2022/12/11 後藤達也
https://note.com/goto_finance/n/nb6d511285441

2050年の世界――見えない未来の考え方

【目次】
序章 2020年からの旅

第1章 わたしたちがいま生きている世界

第2章 人口動態――老いる世界と若い世界
第3章 資源と環境――世界経済の脱炭素化
第4章 貿易と金融――グローバル化は方向転換する
第5章 テクノロジーは進歩しつづける
第6章 政府、そして統治はどう変わっていくのか
第7章 アメリカ大陸
第8章 ヨーロッパ
第9章 アジア
第10章 アフリカ・中東
第11章 オーストラリア、ニュージーランド、太平洋
第12章 この先の世界を形づくる大きなテーマ――不安、希望、判断

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『2050年の世界――見えない未来の考え方』

ヘイミシュ・マクレイ/著、遠藤真美/訳 日経BP 2023年発行

第1章 わたしたちがいま生きている世界 より

アメリカ合衆国とカナダ

アメリカ合衆国は別格である。
いまも世界で唯一の超大国であり、それはだれもが認めるところだ。しかし、多くの人には問題を抱えているように映る。巨人であるのはたしかだが、衰退する巨人だというのだ。それはまちがっている。アメリカ人は自分たちの国が悪く言われるのに慣れているので、そう聞いて驚く人がたくさんいるのではないか。さまざまな指標が示しているように、世界の中でアメリカの存在感はむしろ高まっている。経済における重要性が増しているだけでなく、ほぼ世界中の人たちの日常生活に与える影響も大きくなっている。

まずは経済の話からはじめよう。GDPの世界シェアを見るなら、アメリカはいかにも後退している。だがそれは、新興諸国、とりわけ中国が急成長しているからだ。先進世界のなかでは、アメリカの経済成長率はほかのほとんどすべての先進経済国を上回っている。1990年には、アメリカの経済規模はEUよりも小さかった(まもなくEUに加盟することになる東欧諸国を加えてもそうである)。ところがそれ以降、アメリカはEUよりもかなり高いペースで成長しており、2020年にはEUの規模を大きく上回るようになった。そして、ヨーロッパと比べたアメリカの相対的な富と重要性が上がっているとすれば、ロシアに対する相対的な地位は跳ね上がっている。1990年の時点では、アメリカ経済の規模はソ連経済の3倍ほどだった。それが2020年には、ロシアとほかの旧ソ連諸国の10倍以上になり、ロシアだけで見ればおよそ15倍になった。

このように、アメリカ経済は非常に大きなサクセスストーリーを生み出している。その理由はなにか。多くのアメリカ人がそれに気づいていないようだが、それはどうしてなのか。

答えは「人」にある。アメリカにとって最も豊かな資源は、人間の才能だ。アメリカはそれを有効に活用しているが、ときに浪費もしている。アメリカの人口構造はヨーロッパに比べて若い。日本と比べればとくにそうなる。

過去30年間の大半を通じて、出生率はヨーロッパや日本を上回っており、1人の母親は平均すると2人以上子どもを産んでいた(ただし2015年からそれにやや陰りが見えていることを示すエビデンスはある)。また、野心をもった若者が世界中から集まってくるだけでなく、外国から移住してくる人も多く、それが人口をさらに押し上げる。移民の数はいまも増えつづけている。

エネルギー生産国としても復活している。フラッキング(水圧破砕法)革命が起きたことで、アメリカは2010年代なかば以降、世界最大の原油生産国になっており、1970年代はじめまで維持していた位置を取り戻している。石油、そしてとりわけ安価なガスは、労働効率の上昇とともに、製造業の復活を後押ししている。

しかし、アメリカの覇権の背景にある最も強大な力は、人的資本の優位性である。高等教育を例にあげよう。ランキングによって差はあるものの、2017/18年のどの評価でも、アメリカは世界のトップ20大学の半数以上を占めており、上海交通大学によるランキングでは16校がアメリカの大学だった。

アメリカに対抗できる唯一の国がイギリスで、オックスフォード大学とケンブリッジ大学がトップ10にランクインしている。知識は成長のフロンティアを切り拓く原動力であり、アメリカの大学には世界トップクラスの才能ある学生たちが集まる。そのため、世界大学ランキングでのアメリカの強さはこの先何年も揺るがないだろう。ゆくゆくはほかの国、とくに中国がアメリカに挑むことになるだろうが、そうなるには1世代はかかりそうだ。

その力はアメリカ経済の強さを支える最も重要な側面と結びついており、アメリカを追い落とすのはむずかしいと断言できる理由へとつながる。それが巨大ハイテク企業の存在だ。アメリカの西海岸ではものすごいことが起きている。世界を変えた企業がこの地から生れており、だれでも知っている会社がたくさんある。5大ハイテク巨人――アップル、アルファベット(グーグルの親会社)、アマゾン、マイクロソフト、メタ(フェイスブック)がそうだし、そのうしろを何百という企業が迫っている。これほどの強さを築き上げている国は、世界のどこにもない。イギリスやヨーロッパはこれほどの規模はないし、日本は見る影もない。インドにはまださしたる力はないが、近くそうなるかもしれない。同じような規模のハイテク企業があるのは中国だけで、テンセント、アリババなど、数社が存在する。ただし、そうした中国のベンチャー企業は、少なくとも初期段階はアメリカのベンチャー企業のクローンだった。それが成長できたのは、中国当局がさまざまな理由をつけてアメリカ企業を締め出せたからだ。
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アメリカは才能の開発に惜しみなく投資している(偏りは大きいが)。そしてそれが、アメリカが強い理由の1つである。もう1つの理由は、移民の磁石でもあることだ。世界中から優秀で熱意のある人材がアメリカに大量に引き寄せられるだけでなく、その結果として人的資本も開発される。

時価総額上位のハイテク企業の半数以上は、移民の第1世代か第2世代が興している。ほかの国もアメリカを摸倣しようとしているが、どこもうまくいっていない。少なくともあれだけの規模で成功しているところは1つもない。

教育、文化、人口流入は、つぎの世代のアメリカを特徴づける非常に大きな強みであり、21世紀前半にこの巨人が後退することはないだろう。しかし、光あるところは影がある。ここでサクセスストーリーの影の部分と向き合う必要がある。

アメリカのような活気ある競争社会では、緊張が生まれるのは避けられない。そうした緊張は長くくすぶっていたふが、2016年にドナルド・トランプが大統領に選出されると、一気に表面化した。いま直面している課題は、この混乱の原因となった経済と社会の力を抑え込み、それをよい方向へと動かせるかどうかだ。また、格差と教育にかかわる課題もある。アメリカの財産である人間の才能は、うまく活用されなかったり、機会が与えられなかったりして、浪費されていることがあまりにも多い。アメリカのトップ大学はすばらしいが、OECDの国際学習到達調査(PISA)によると、アメリカの学校の成績は世界のなかでは中位層にとどまる。

こうしたことをすべて考え合わせ、広い視野でとらえなければいけないのだが、それがむずかしいところだ。アメリカは国民の健康状態が相対的に悪い。先進世界のほかの国と比べて悪いだけではなく、健康管理にかけられる費用との比較で見てもそうなのだ。
その一方でカナダ、イギリス、スペインとちがって、激しい分離独立運動は起きていない。アメリカ国民は国が分割されることを望んでいない。人種にもとづく偏見は強い。だが、ヨーロッパの多くでもそうである。アメリカはそれをなくそうとする取り組みに力を入れるようになっているが、ヨーロッパにはきちんと向き合おうとしていない国もある。それに、アメリカは自分たちの社会には正すべきところがあると認めてきた長い歴史がある。負の側面があるのはたしかだが、それはどの時代にもあったものだし、そうした闇に光を当てようとするエネルギーと意志が消えることはなかった。

アメリカにとっては、こうした緊張にどう対処するか、その無限のエネルギーをよい方向へと動かし、すべての人に恩恵が届くようにする方法を見つけられるかどうかが、つぎの30年を左右する重要な問題の1つになる。アメリカがこれまでに向き合ってきた課題の大きさを考えれば、きっと対処できるはずだ。
ドナルド・トランプ大統領時代の混乱、支持者による国会議事堂襲撃事件を目の当たりにしているだけに、アメリカに分断は深まっていると強調したくなる。しかしそれは、国ができたときからあった。いまは南北戦争以降の大部分の譜代よりもあらわになっているだけである。アメリカは分断していると認めることは、分断に立ち向かう方法を見つけるのに必要なステップだ。

アメリカはそれに立ち向かうだろう。これまでもそうしており、これから先そうしないと考える理由はほとんどない。中国が世界最大の経済圏になると、覇権をめぐって激しい争いが起きるはずである。だれが世界を制するのか。この点についてはこの後でくわしく論じていく。それでも、アメリカの強みを1つひとつ積み上げていったら、それこそ高い山ができる。

その強みの1つは、いわゆる「アングロ圏(アングロスフィア)」のリーダーの座にあることだ。この点についてはまた後で述べる。