じじぃの「カオス・地球_87_第3の大国インドの思考・一帯一路・イタリア」

イタリア首相、巨大経済圏構想「一帯一路」離脱の方針を中国首相に非公式に伝達と米メディアが報道|TBS NEWS DIG

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=JCexSPxjy5A

イタリア「一帯一路」の離脱検討


イタリア「一帯一路」の離脱検討 貿易赤字拡大で欧米回帰

2023/08/17 共同通信
イタリアが中国の巨大経済圏構想「一帯一路」からの離脱を検討している。
先進7ヵ国(G7)唯一の参画国だが、期待に反して貿易赤字が拡大し、中国の専制主義への警戒感も高まる。離脱手続きを取らない限り両国の合意は来年3月に更新される。
メローニ首相は年内に離脱の是非を決める考えだ。イタリアの専門家は同国が欧米との関係重視に回帰したと指摘する。
https://nordot.app/1064814970553893513?c=516798125649773665

第3の大国 インドの思考――激突する「一帯一路」と「インド太平洋」

【目次】
まえがき
序章 ウクライナ侵攻でインドが与えた衝撃
第1章 複雑な隣人 インドと中国

第2章 増殖する「一帯一路」――中国のユーラシア戦略

第3章 「自由で開かれたインド太平洋」をめぐる日米印の合従連衡
第4章 南アジアでしのぎを削るインドと中国
第5章 海洋、ワクチン開発、そして半導体――日米豪印の対抗策
第6章 ロシアをめぐる駆け引き――接近するインド、反発する米欧、静かに動く中国

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『第3の大国 インドの思考――激突する「一帯一路」と「インド太平洋」』

笠井亮平/著 文春新書 2023年発行

第2章 増殖する「一帯一路」――中国のユーラシア戦略 より

それは習近平アルマトイ演説からはじまった

21世紀に入り、中国は国力を急速に高めていった。高度経済成長により都市部を中心に国民生活は豊かになり、2008年には北京五輪を、10年には上海万博を開催した。国防費も右肩上がりで、アメリカへのキャッチアップを図ろうとしている。

中国はこうした「力」を用いて、近隣諸国、さらにはユーラシアやアフリカ、そして海洋でも影響力を発揮するようになった。それは「シルクロード」という古(いにしえ)の通商路の名を冠し、往時の、いやそれ以上の繁栄のネットワークを自国中心というかたちで作り上げようとするものである。

2023年9月7日、カザフスタン最大の都市のアルマトイ。同国訪問中の中国国家主席習近平は、ナザルバエフ大学で行った演説で「シルクロード経済ベルト」という新たな構想を提唱した。「ユーラシア各国の経済的連携をさらに緊密にし、相互協力をさらに深め、発展の空間をさらに広げていくために、われわれは新たな協力モデルを用いて『シルクロード経済ベルト』を共同で建設していくことができる」と述べたのである。

反発を強めるアメリ

「一帯一路」やAIIB(アジアインフラ投資銀行)に対して世界はどう反応したのか。米欧と日本、そしてインドはどのような姿勢で臨んできたのかを順に見ていく。

アメリカは当初、賛成とは言わないまでも、一定の理解を示していた。オバマ大統領はAIIBへの参加は見送ったものの、地域の成長に資するものであるとして「ポジティブなものになる可能性がある」との見方を示していた。また、2015年9月下旬の習近平主席訪米時に発表された米中経済関係に関するファクトシートには、「中国がアジアおよびその他の地域で開発とインフラ整備への資金供給における貢献を拡大させていることについて、アメリカは歓迎する」との記載もあった。

こうした対応について、アメリカ国防大学中国軍事問題研究センター上級研究員ジョエル・ウスノフは、当時の政権の関心事は気候変動やイラン核開発といった米中間の重要課題で、習近平自ら旗を振るプロジェクトで対立することに利点を見出していなかったと指摘している(Wuthnow 2018)。

習主席もこのときホワイトハウスのローズガーデンで行われたオバマ大統領との共同記者会見で、懸念を払拭しようとした。記者からの質問に答えるかたちで、「一帯一路」とAIIBについて「他国との互恵協力を拡大し、共通の発展を実現しようとしている」、「こうしたイニシアチブはオープンで、透明で、包摂的なものだ」、「アメリカの利益や他国の利益とも合致している」と説明したのである。
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だが、「一帯一路」に対するトランプ政権の姿勢は「よりネガティブで、敵対的とすら言えるメッセージ」に取って代わられていく(Wuthnow 2018)。レックス・ティラーソン国務長官は、2017年10月中旬に戦略国際問題研究所CSIS)で講演を行った際、中国の活動や行動を注視しているとした上で、資金供給メカニズムが多くの国に「とてつもないレベルの債務」をもたらしていると語った。
また、現地での雇用を創出するものでもなく、代わりに国外から労働者を連れてきてインフラ整備プロジェクトに従事させているとも指摘し、「一帯一路」の名前こそ挙げなかったものの、「将来の成長をサポートするような構造ではない」と批判したのだ。

2017年12月に公表されたトランプ政権の「国家安全保障戦略」(NSS)では、アメリカの開発協力について述べたくだりの最後で、「アメリカ主導の投資は開発にとってもっとも持続的かつ信頼できるアプローチであることを示しており、権威主義国家による腐敗し、不透明で、搾取的で、クオリティの低い契約とは明確な対照をなしている」(強調印字は筆者)と記されていた。
どこの国のことを指しているのかは言うまでもなかった。

2019年4月には第2回「一帯一路」国際協力サミットフォーラムが開かれたが、そこにアメリカ代表団の姿はなかった。

ヨーロッパでは「港湾」と「中東欧」に進出

一方、ヨーロッパでは国によって対応が分かれた。

第1回「一帯一路」国際協力サミットフォーラムでは、イタリア、スペイン、ギリシャポーランドハンガリーセルビアは首相が、チェコとスイスは大統領が出席した。ドイツは経済エネルギー相を、イギリスは財務省をそれぞれ派遣した。ラファラン元首相が出席したフランスのように、現職閣僚を送らなかった国もあった。

ジェトロの調べによると、2019年4月末時点で中国との「一帯一路」に関する協力文書に署名したヨーロッパの国は、EU加盟国が17、非EU加盟国が9に上った(ジェトロ2019)。

とくに積極的だったのはイタリアだ。2019年3月下旬に習近平主席がローマを訪問した際、G7としては初めて中国と「一帯一路」に関する覚書の署名が行われた。
この覚書により、有極企業がジェノヴァトリエステなどの港湾関連事業に関与することになった。この覚書以前にも、16年11月に中国インフラ大手・中国交通建設(CCCC)とイタリアの企業連合がヴェネツィアの湾岸整備事業を落札するなど、中国企業による投資が目立っていた。イタリアの対応は、慎重な立場をとっていた英仏独とは対照的だった。

日本はどう向き合ってきたか

日本は2006年10月に安倍晋三総理が訪中した際、胡錦濤国家主席との間で両国関係を発展させることで一致し、これを「戦略的互恵関係」と呼んだ。

安倍総理は12年12月に再登板した直後こそ、中国の拡張的姿勢に警戒感を示していた。

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このように、「一帯一路」をめぐり日本政府は積極姿勢と慎重姿勢が入り交じっていた。だが、日本は中国の巨大経済圏構想に受け身で臨むだけではなかった。これと並行して、独自のイニシアチブが形成されようとしていた。

それが「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)だ。日本は自国だけでなく、アメリカやオーストラリア、そしてインドにも強力な働きかけを行い、この構想を進めていこうとした。そこでもカギを握っていたのはインドだった。

次章では、FOIPの中身と背景を見ていくとともに、関係各国、とりわけインドがいかなる思惑で関与していったのかについても論じていく。