じじぃの「カオス・地球_92_第3の大国インドの思考・一帯一路を拒否するインド」

G20インドサミット】習近平氏欠席 揺らぐG20の意義 ゲスト:藤原帰一千葉大学特任教授/東大名誉教授)、豊田祐基子(ロイター通信日本支局長)9月11日(月)BS11 報道ライブイン

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=MEJpbIjGjtM

中国の習近平国家主席とインドのモディ首相


中国に狙われるインド 日印で「一帯一路」を止める / 現地ルポ 第3弾

2019.08.29 PIB/AFP/アフロ
インドが中国に取り込まれるか、日米を始めとする民主主義陣営に与するか─。
これによって、国際社会の未来は大きく左右される。
https://the-liberty.com/article/16164/

第3の大国 インドの思考――激突する「一帯一路」と「インド太平洋」

【目次】
まえがき
序章 ウクライナ侵攻でインドが与えた衝撃
第1章 複雑な隣人 インドと中国
第2章 増殖する「一帯一路」――中国のユーラシア戦略
第3章 「自由で開かれたインド太平洋」をめぐる日米印の合従連衡

第4章 南アジアでしのぎを削るインドと中国

第5章 海洋、ワクチン開発、そして半導体――日米豪印の対抗策
第6章 ロシアをめぐる駆け引き――接近するインド、反発する米欧、静かに動く中国

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『第3の大国 インドの思考――激突する「一帯一路」と「インド太平洋」』

笠井亮平/著 文春新書 2023年発行

第4章 南アジアでしのぎを削るインドと中国 より

インドが「一帯一路」から距離を置く最大の理由

パキスタンは別にしても、スリランカやネパール、ブータンといった南アジアの周辺国で中国の影響力が急に強まっていることに、インドは心中穏やかではないだろう。では、インドはこうした動きにどう対応してきたのだろうか。

「一帯一路」の下で、「バングラデシュ・中国・ミャンマー経済回廊」という構想がある。4ヵ国の頭文字を「BCIM」と呼ばれる。中国の雲南省昆明からミャンマー北部、インド北東部、バングラデシュを横断し、インドのコルカタまで至るルートでインフラを整備し、産業開発を行う構想だ。昆明コルカタの頭文字から「K2K」との呼称もある。1999年に「昆明イニシアチブ」の名で知られる4ヵ国の有識者による「トラック2」会合が昆明で開かれ、これが「BCIMフォーラム」に発展した。2013年12月には昆明で政府当局による会合が開かれ、「BCIM経済回廊」を推進していくことで一致した。

当初はインドもBCIMに前向きな姿勢を見せていた。関係会合には政府当局者が出席していたし、2013年5月の李克強首相訪印時には、マンモーハン・シン首相との間でBCIMについても協議が行われた。このときの共同声明では、BCIMのコネクティビティ強化や経済回廊建設に関する合同調査グループの設置を印中がバングラデシュミャンマーに働きかけていくことで一致したと発表されていた。モディ政権下の15年時点でも、BCIMに関する会合でインド外務省の出席者から、BCIMはインドの「アクト・イースト政策」と一致するとの発言もあった。

しかし、BCIMが「一帯一路」の中に組み込まれていくと、インドは慎重姿勢を強めていった。それを見てか、中国側のBCIMに対する位置づけも変わっていった。2019年4月の第2回「一帯一路」国際協力サミットフォーラムで発表された共同コミュニケには35件のインフラ整備プロジェクトが列挙されていたが、BCIMは「選外」だった「6大経済回廊」のひとうだったにもかかわらずだ。

インドとしては、バングラデシュミャンマーとの接続については進めたくても、中国までとなると一気にハードルが高くなる。中国製品の輸入増大による国内産業への影響もさることながら、安全保障上の懸念を無視するわけにはいかなかった。BCIMで想定されたるーとのうちインド北東部は、印中国境問題の焦点のひとつ、アルナーチャル・プラデーシュ州にも近い。前述したように2017年6月にはインド・中国・ブータンが境界を接するドクラム印中両軍の対峙事案が起きており、西部国境のラダック地方だけでなく東部でも中国による越境事変に警戒が高まっていた。

「一帯一路」と相容れないインドの「核心的利益」

だが、インドがより強く警戒し、反発するのは「一帯一路」の中でも特別な位置を占めるこの中国・パキスタン経済回廊(CPEC)だ。単に対立するパキスタンがかかわる開発構想だからというわけではない。カシミール問題との関係で、インドの立場と完全に相容れないものだからだ。中国式に言えば、「核心的利益」にかかわるもの、ということになる。

カシミールは事実上、印パの分割統治下にある。両国の間には「管理ライン」(LoC)という実効支配線があり、東側がインドのジャンムー・カシミール州(2019年10月からはジャンムー・カシミールとラダックという2つの連邦直轄領に分割された)として、西側がパキスタンのアーザード・ジャンムー・カシミール(AJK)とギルギッド・バルティスタン(GB)として、それぞれ統治されている。
だが、インドは1947年に当時のジャンムー・カシミール藩主がインドへの帰属を申し出たことにもとずき、カシミール全土を自国領と見なしている。したがって、AJKもGBも自国領であり、パキスタンが不当に占領しているということになる。

インドからすると、CPECは自国領であるはずのGBを経由しており、パキスタンが勝手に開発を進めている、というわけだ。CPECを認めてしまえば、カシミールに関する主張と齟齬(そご)を来してしまう。現実問題としてはCPECを通じて中パが戦略的関係をさらに強化することへの警戒があるが、カシミールという自国の正統性にかかわる点は対話や交渉で何とかなる問題ではないだけに、インドの強硬姿勢が変わるとは考えにくい。