じじぃの「カオス・地球_88_第3の大国インドの思考・自由で開かれたインド太平洋」

岸田総理「自由で開かれたインド太平洋」新プランを発表 ODA拡充など「9.8兆円動員」へ|TBS NEWS DIG

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=nZnZL6V2EUA

[図解] 「自由で開かれたインド太平洋」の概念図


日本が提唱する「自由で開かれたインド太平洋」とは? 中国は「一帯一路」主導

2021/1/24 Yahoo!ニュース
日本が提唱する「自由で開かれたインド太平洋」という構想があります。
菅義偉(よしひで)首相は1月18日の施政方針演説で、米国やASEAN東南アジア諸国連合)、豪州、インド、欧州などと協力を深め、これの実現を目指すと訴えました。
もともとは安倍晋三前首相の時代に打ち出された戦略ですが、どういうものなのでしょうか。元外交官で平和外交研究所代表の美根慶樹氏に寄稿してもらいました。
https://news.yahoo.co.jp/articles/a1597ad7926988d18e6e048997f5171c9c5d3106

第3の大国 インドの思考――激突する「一帯一路」と「インド太平洋」

【目次】
まえがき
序章 ウクライナ侵攻でインドが与えた衝撃
第1章 複雑な隣人 インドと中国
第2章 増殖する「一帯一路」――中国のユーラシア戦略

第3章 「自由で開かれたインド太平洋」をめぐる日米印の合従連衡

第4章 南アジアでしのぎを削るインドと中国
第5章 海洋、ワクチン開発、そして半導体――日米豪印の対抗策
第6章 ロシアをめぐる駆け引き――接近するインド、反発する米欧、静かに動く中国

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『第3の大国 インドの思考――激突する「一帯一路」と「インド太平洋」』

笠井亮平/著 文春新書 2023年発行

第3章 「自由で開かれたインド太平洋」をめぐる日米印の合従連衡 より

「インド太平洋」を作り出したのはどの国か?

2020年代の今日でこそ「インド太平洋(the Indo-Pacific)」は国際政治の文脈ですっかり定着した感がある。しかし、10年代初頭まではAPECに代表される「アジア太平洋」のほうが一般的だった。
16年5月に開催されたG7伊勢志摩サミットの首脳宣言でも、環太平洋経済連携協定(TPP)署名の文脈で「アジア太平洋地域」との表現があるが、「インド太平洋」は登場していない。後述するように、安倍総理が「自由で開かれたインド太平洋」戦略を提唱したのは、16年8月に第6回アフリカ開発会議TICAD)で行った演説の中でのことだった。
しかし、その翌月に国連総会で行った一般討論演説では、同戦略のコンセプトに通じる内容が盛り込まれてはいたものの、「インド太平洋」の表現はなかった(総会演説で「インド太平洋」が言及されたのは、18年が最初である)。「インド太平洋」という用語そのものは以前から存在した。海洋生物学では、インド洋と太平洋に共通して分布する生物があることから、2つの大洋を一括りにして捉えるケースが存在していたのである。

しかし、それが外交や安全保障の中で頻繁に言及されるようになったのは、2010年代に入ってからである。政府高官の発言としては、アメリカのヒラリ―・クリントン国務長官が10年10月28日にハワイのホノルルで行った演説での言及が初のようだ。
この演説はアメリカのアジア回帰を鮮明にしたという点で重要だったが、「グローバルな貿易と商業にとってインド太平洋海域がいかに重要かをわれわれは理解しており、そのため太平洋においてインド海軍との協力を拡大している」とも述べられていたのである。ただ、「インド太平洋」が登場したのはこの1回だけで、演説のタイトルも「アジア太平洋におけるアメリカの関与」だったことから、この時点ではこの概念にさほど重点が置かれていなかったと見ていい。

「自由で開かれたインド太平洋」とインドの思惑

こうしたなか、日本でも外交・安全保障研究会のあいだで「インド太平洋」をめぐる議論が活発になっていった。たとえば、日本国際問題研究所は、2014年7月に「『インド太平洋』時代の日本外交」と題した報告書を発表して以降、「インド太平洋」をテーマにした提言や報告書が目立っている。安倍総理も、再登板後間もない13年2月にアメリカのシンクタンク戦略国際問題研究所CSIS)で行った講演「日本は戻ってきました」で、「インド・太平洋地域」と並列というかたちではあったが「インド・太平洋地域」に言及していた。

安倍総理の「自由の開かれたインド太平洋(FOIP)戦略」は、2016年8月27日のケニアのナイロビで開かれたTICAD Ⅵで発表された。開会式の基調演説で、「世界に安定、繁栄を与えるのは、自由で開かれた2つの大洋、2つの結合が生む、偉大な躍動に他なりません」、「日本は、太平洋とインド洋、アジアとアフリカの交わりを、力や威圧とは無縁で、自由と法の支配、市場経済を重んじる場として育て、豊かにする責任を担います」とした上で、「両大陸をつなぐ海を、平和な、ルールの支配する海とする」ことを願っていると述べたのだ。

TICADという場での演説だったこともあり、このときは「アジアとアフリカの接続」にも注目が集まった。安倍総理が「アジアからアフリカに及ぶ一帯を、成長と繁栄大動脈にしようではありませんか」と語ったくだりだ。

これに素早く反応したのはインドだった。
この年の11月にモディ首相が訪日した際、日印共同声明には「アジアとアフリカの産業回廊と産業ネットワークの開発を促進」していくことが盛り込まれた。翌17年5月には、インド・グジャラート州で開いたアフリカ開発銀行(AfDB)の年次総会での演説で、モディ首相が「アジア・アフリカ成長回廊」(AAGC)として提唱した。インドの発展途上国研究情報システム(RIS)、日本のジェトロ・アジア経済研究所、東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)による「ビジョン・ドキュメント」も発表された。

筆者はこの頃、インドで外交・安全保障研究者と意見交換をした際、「自由で開かれたインド太平洋」以上にAAGCが話題に上り、高い期待が示されていたことを覚えている。この時点ではまだ「自由で開かれたインド太平洋」の詳細が明らかになっていなかった。
一方、AAGCはアフリカとの経済的関与拡大の起爆剤になる可能性を秘めており、インドはより具体的な魅力を感じたのではないだろうか。

だが、その後AAGCが取り上げられる頻度は減っていった。2017年9月の日印共同声明と18年10月の日印ビジョンステートメントでは「アジア及びアフリカの産業回廊及び産業ネットワークの発展」への言及はあったものの、具体的なプロジェクトが実施に移された形跡はない。

インドから見たインド太平洋

インド自身からも「インド太平洋」に対するアプローチが示された。2018年6月1日にシンガポールで行われたイギリスの国際戦略研究所(IISS)主催の「シャングリラ戦略対話」で、、モディ首相は基調演説を行った。そこで、インド太平洋に対するインドのビジョンとして、「自由で、開かれ、包摂的(inclusive)な地域」を支持するという発言がモディ首相から出た。
ここでカギとなるのは、FOIPに加えて「包摂的」が加わっている点だ。外交は言葉のひとつひとつは重要な意味を持つ。ひとつの形容詞でさまざまなメッセージを伝えようとするのだ。モディ首相はこのあと、「この地域におけるすべての国々、それにこの地域に利益を持つその他の国も含む」と補足している。

また、2017年9月に安倍総理が訪印した際の共同声明のタイトルは、「自由で開かれ、繁栄したインド太平洋に向けて」となっていた。こちらは「繁栄(prosperous)」が加わっている。
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また、2017年1月に安倍総理が訪豪した際の共同プレス発表でも、ターンブル首相はFOIP戦略についての安倍総理の説明に謝意を表したものの、両国として協力していくのは「平和的で安定したインド太平洋地域」とされた。