じじぃの「カオス・地球_90_第3の大国インドの思考・インド太平洋・中国の拒絶」

中国“新地図”が波紋 南シナ海の全域を自国領とする意外な理屈は600年前に遡る?【サンデーモーニング】|TBS NEWS DIG

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=0X3D1BzDghY

中国 南シナ海の全域を自国領とする意外な理屈


中国“新地図”が波紋 南シナ海の全域を自国領とする意外な理屈は600年前に遡る?【サンデーモーニング

2023.9.10 Yahoo!ニュース
ASEAN開催を前に中国が発表した“新しい地図”が周辺国との間で摩擦を引き起こしています。
特に南シナ海については、国際法に基づく「領海」の範囲を大幅に超えてほとんど全域の“領有権”を主張。そのエリアを囲む「九段線」が意味するものとは?そもそも、なぜここまで大胆な主張をするのでしょうか?
歴史を遡ること600年以上、「明(みん)」の永楽帝鄭和の時代を背景にした意外な理屈がありました。手作り解説でお伝えします。
https://news.yahoo.co.jp/articles/e25ab08e78303b4879bf3e2e858a0c312faebc77

第3の大国 インドの思考――激突する「一帯一路」と「インド太平洋」

【目次】
まえがき
序章 ウクライナ侵攻でインドが与えた衝撃
第1章 複雑な隣人 インドと中国
第2章 増殖する「一帯一路」――中国のユーラシア戦略

第3章 「自由で開かれたインド太平洋」をめぐる日米印の合従連衡

第4章 南アジアでしのぎを削るインドと中国
第5章 海洋、ワクチン開発、そして半導体――日米豪印の対抗策
第6章 ロシアをめぐる駆け引き――接近するインド、反発する米欧、静かに動く中国

                    • -

『第3の大国 インドの思考――激突する「一帯一路」と「インド太平洋」』

笠井亮平/著 文春新書 2023年発行

第3章 「自由で開かれたインド太平洋」をめぐる日米印の合従連衡 より

バイデンが進める「インド太平洋経済枠組み」

自由の開かれたインド太平洋(FOIP)の構想を主に外交・安全保障面で実現を図るのがクアッド(日米豪印4ヵ国)だとすれば、経済面での実現に取り組みも必然的に求められてくる。その回答としてアメリカが示したのがバイデン大統領の肝煎りで立ち上げられた経済圏構想「インド太平洋経済枠組み」(IPEF)だ。

IPEFは、2022年5月、東京でのクアッド首脳会合の前日にハイブリッド形式で首脳会合が行われた。参加したのは、対面ではバイデン大統領、岸田総理、モディ首相が、オンラインではオーストラリア(外務貿易省準次官が出席、アルバニージー首相は就任直後のためクアッド首脳会合から対面で参加)、ニュージーランド、韓国、シンガポール、タイ、マレーシア、インドネシアベトナム、フィリピン、ブルネイ。このときは間に合わなかったが、5月下旬にフィジーも加わり、計14ヵ国となった。
    ・
いずれにしても関税が交渉項目に入らなかったことで、今後の交渉のハードルが低くなることはたしかだった。
だが、1ヵ国だけ貿易分野の交渉参加を見送った国がある――インドだ。国内産業保護を重視する観点から、インドは貿易をめぐる国際交渉には是々非々の立場で臨んできた。RCEP(地域的な包括的経済連携)交渉が大詰めに入っていた2019年11月に、それまで参加していたインドが離脱したことはその表れだった。IPEFには中国が入っていないのでRCEPの時とは状況が異なるとはいえ、日米豪を含む大規模な貿易圏につながり得るだけに、インドはメリットとデメリットを慎重に見きわめようとしているように見える。

この問題をめぐっては、各国は4つの柱ごとに交渉に参加するか否かを選べるという、IPEFならではのフォーマットが奏功したことも記しておくべきだろう。実際には他の13ヵ国は4つすべての交渉に参加しており、インドだけは貿易を除く3分野の参加に留まった。もしこれが4分野一括で交渉への参加を判断しなくてはならないとしたら、はたしてインドは参加を決めていただろうか。仮に「ノー」だとすれば、協議が始まったばかりのIPEFが途端に求心力を失うことになりかねない。ここでもインド参加が重要なファクターだったことが見て取れる。

「インド太平洋」は禁句――中国の拒絶

一方、中国はインド太平洋における日米豪印の連携強化に反発を強めている。

2022年5月22日、王毅国務委員兼外交部長は、パキスタンのビラーワル・ブットー外相との共同記者会見で、アメリカのインド太平洋戦略を一蹴した。同戦略に対し世界、とりわけアジア太平洋諸国からの警戒と懸念が日増しに強まっている、これは「アジア太平洋」の名を抹消しようとするだけでなく、数十年来にわたり域内各国がともに努力して作り出してきあ平和的発展の成果とその流れを抹消しようとするものである、というのだ。
王毅国務委員は、さらに次のような三国時代の魏帝・曹髦の有名な言葉を付け加えた。
司馬昭之心、路人皆知(司馬昭の心は通りすがりの人でも知っている)」――野心を抱く者の企みは誰の眼にも明らかである、という意味だ。

この王毅発言に限らず、中国政府はそもそも「インド太平洋」(中国語では「印太」)という言葉自体を受け入れていない。いまでも「アジア(亜州)」もしくは「アジア太平洋(亜太)」なのである。

それは、本章前半で見てきたように「インド太平洋」が主に日米豪の戦略的思考の中で形成された地理的概念であり、中国と対抗するための足場になっていると受け止めたからにほかならなかった。「印太」を採用すれば、相手の土俵に乗ってしまうことになる。使って良いのは批判的な文脈だけだった。

ところが、2022年末になって「例外」が出てきた。韓国の「インド太平洋戦略」に対する論評である。同年12月28日に韓国の「自由・平和・繁栄のインド太平洋戦略」と題した最終報告書が発表されると、中国メディアは前向きな捉え方で報じた。あれほど「印太」を忌避してきた中国に何が起きたのか。

それは、韓国のアプローチが中国にも配慮したものだったからだ。『中国網』評論員の楽水は、「アメリカや日本、カナダ等による『インド太平洋戦略』とは異なり、韓国の『インド太平洋戦略』は『中国脅威論』を声高に叫ぶことも中国を仮想敵国と見なすこともせず、中国との協力維持をとくに強調し、中国をインド太平洋地域で繁栄と平和を実現する主要協力国と認識している」として、「韓国のこうした表明は図らずも中国の立場と一致している」と肯定的に評価している。

上海対外経済貿易大学教授で同大朝鮮半島研究センター主任のセン徳斌も、「韓国の『インド太平洋戦略』の中国に関する記述には積極的な部分があるのは間違いない」と捉えている。

また、韓国は「『開放的な自由貿易』を支持し、『過度に経済問題を安全保障問題化すること』に反対し、『包容力のある』地域および国際秩序の構築を支持している」とした上で、これらは「この地域におけるメンバー国の共通の声であり、韓国が今後の実践過程で堅持していきことを期待する」との見方も示している。

韓国の「インド太平洋戦略」に中国への配慮があるのはたしかだ。だが、中国が言うほど「中国寄り」でもない。日米と同様に、「力による現状変更への反対」や「南シナ海の平和と安定」、「航行および上空飛行の自由」といった要素にもしっかりと言及するなど、名指しはせずとも中国を念頭に置いた文言が並んでいる。中国側もその点は見過ごしていないだろう。それでもなお識者の肯定的な論評が掲載されるのは、中国が韓国を切り崩しの対象と位置づけ、日米との間にくさびを打とうとしているものと見られる。