Quad Vs China | The End Game | Taiwan in a nutshell
クアッド(日米豪印の連携)
【詳しく解説】日米豪印クアッド(QUAD)ってなに?焦点は?
2022年5月24日 NHK政治マガジン
●クアッドとは
クアッドは、自由や民主主義、法の支配といった基本的価値を共有する日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4ヵ国の枠組みです。
2004年のインドネシア、スマトラ島沖の巨大地震と津波の被害に対する国際社会の支援を4ヵ国が主導したことをきっかけに、2019年に初めての外相会合が開かれました。
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/feature/82879.html
第3の大国 インドの思考――激突する「一帯一路」と「インド太平洋」
【目次】
まえがき
序章 ウクライナ侵攻でインドが与えた衝撃
第1章 複雑な隣人 インドと中国
第2章 増殖する「一帯一路」――中国のユーラシア戦略
第3章 「自由で開かれたインド太平洋」をめぐる日米印の合従連衡
第4章 南アジアでしのぎを削るインドと中国
第5章 海洋、ワクチン開発、そして半導体――日米豪印の対抗策
第6章 ロシアをめぐる駆け引き――接近するインド、反発する米欧、静かに動く中国
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『第3の大国 インドの思考――激突する「一帯一路」と「インド太平洋」』
笠井亮平/著 文春新書 2023年発行
第3章 「自由で開かれたインド太平洋」をめぐる日米印の合従連衡 より
インドから見たインド太平洋
インド自身からも「インド太平洋」に対するアプローチが示された。2018年6月1日にシンガポールで行われたイギリスの国際戦略研究所(IISS)主催の「シャングリラ戦略対話」で、、モディ首相は基調演説を行った。そこで、インド太平洋に対するインドのビジョンとして、「自由で、開かれ、包摂的(inclusive)な地域」を支持するという発言がモディ首相から出た。
ここでカギとなるのは、FOIP(自由の開かれたインド太平洋)に加えて「包摂的」が加わっている点だ。外交は言葉のひとつひとつは重要な意味を持つ。ひとつの形容詞でさまざまなメッセージを伝えようとするのだ。モディ首相はこのあと、「この地域におけるすべての国々、それにこの地域に利益を持つその他の国も含む」と補足している。
また、2017年9月に安倍総理が訪印した際の共同声明のタイトルは、「自由で開かれ、繁栄したインド太平洋に向けて」となっていた。こちらは「繁栄(prosperous)」が加わっている。
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また、2017年1月に安倍総理が訪豪した際の共同プレス発表でも、ターンブル首相はFOIP戦略についての安倍総理の説明に謝意を表したものの、両国として協力していくのは「平和的で安定したインド太平洋地域」とされた。
「クアッド」に向けた胎動――日米豪印の連携
日本のイニシアチブで始まったFOIPが浸透していく過程で、もうひとつの新たな取り組みが始動しようとしていた。日米豪印4ヵ国による枠組み、いわゆる「クアッド」である。
安全保障を中心とする協力が注目されるクアッドだが、その原点が災害協力にあったことはあまり知られていない。2004年12月26日、スマトラ島沖で巨大地震が発生した。マグニチュードは9.0。東日本大震災のマグニチュードも9.0だったことを考えれば、いかに大規模な地震だったかがわかるだろう。さらに、震源が海底だったことから大津波が発生し、インド洋沿岸国に甚大な被害をもたらした。地震と津波による死者数は22万人以上に上り、被害総額は10億ドル近くと言われ、観測史上最悪の自然災害となった。
未曽有の大災害を受けて、国際社会の支援が急務となったが、世界各国や国際機関にその呼びかけを行ったのが日米豪印4ヵ国によるコア・グループだったのだ。だが、その後2007年に事務レベルで4ヵ国の会合が行われたものの、継続的なフォーマットにはならなかった。
当初、日米豪印よりも先行していたのは「日米印」や「日米豪」や「日豪印」といった3ヵ国の枠組みだった。とくに日米印は2015年9月にニューヨークで第1回外相会合を開き、インド太平洋地域で3ヵ国の関心と利益が一致しつつあることに加え、「南シナ海を含め、国際法及び紛争の平和解決、航空及び上空飛行の自由、並びに阻害されることのない法に従った通商活動の重要性」(強調印字は筆者)を強調した。
名指しは避けているが、南シナ海に言及していることで中国を念頭に置いていることは明らかだった。また、後のFOIP戦略でも示されている内容がすでに議論されていうという点でも、この会合は重要だった。
コロナ禍で実現したクアッド首脳会合と4ヵ国海軍演習
「日米豪印」の枠組みで連携が深まっていくのは、2017年11月以降のことである。まず外務省局長級で協議が再開され、19年9月と20年10月に外相会合を開催するまでになった。
こうした流れが、21年3月12日に初の首脳会合として結実した。新型コロナウイルスのパンデミック下だったためオンライン形式ではあったが、バイデン大統領の呼びかけに菅義偉総理、モディ首相、オーストラリアのモリソン首相が応じた。会議後に発表された共同声明「日米豪印の精神」では、4ヵ国が「自由で開かれ、包摂的で健全であり、民主的価値に支えられ、威圧によって制約されることのない」インド太平洋地域に向けて尽力するとし、「安全と繁栄を促進し、脅威に対処するために、国際法に根差した、自由で開かれ、ルールに基づく秩序を推進することに共にコミットする」とした。ここでも、「法の支配、航行及び上空飛行の自由、紛争の平和的解決、民主的解決、領土の一体性」といった中国を念頭に置いた原則への支持が表明された。詳しくは第5章で扱うが、新型コロナウイルスのワクチン生産と供給に関して4ヵ国が協力していく「ワクチンパートナーシップ」も発表された。
バイデンが進める「インド太平洋経済枠組み」
FOIPの構想を主に外交・安全保障面で実現を図るのがクアッドだとすれば、経済面での実現に取り組みも必然的に求められてくる。その回答としてアメリカが示したのがバイデン大統領の肝煎りで立ち上げられた経済圏構想「インド太平洋経済枠組み」(IPEF)だ。
IPEFは、2022年5月、東京でのクアッド首脳会合の前日にハイブリッド形式で首脳会合が行われた。参加したのは、対面ではバイデン大統領、岸田総理、モディ首相が、オンラインではオーストラリア(外務貿易省準次官が出席、アルバニージー首相は就任直後のためクアッド首脳会合から対面で参加)、ニュージーランド、韓国、シンガポール、タイ、マレーシア、インドネシア、ベトナム、フィリピン、ブルネイ。このときは間に合わなかったが、5月下旬にフィジーも加わり、計14ヵ国となった。
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いずれにしても関税が交渉項目に入らなかったことで、今後の交渉のハードルが低くなることはたしかだった。
だが、1ヵ国だけ貿易分野の交渉参加を見送った国がある――インドだ。国内産業保護を重視する観点から、インドは貿易をめぐる国際交渉には是々非々の立場で臨んできた。RCEP(地域的な包括的経済連携)交渉が大詰めに入っていた2019年11月に、それまで参加していたインドが離脱したことはその表れだった。IPEFには中国が入っていないのでRCEPの時とは状況が異なるとはいえ、日米豪を含む大規模な貿易圏につながり得るだけに、インドはメリットとデメリットを慎重に見きわめようとしているように見える。
この問題をめぐっては、各国は4つの柱ごとに交渉に参加するか否かを選べるという、IPEFならではのフォーマットが奏功したことも記しておくべきだろう。実際には他の13ヵ国は4つすべての交渉に参加しており、インドだけは貿易を除く3分野の参加に留まった。もしこれが4分野一括で交渉への参加を判断しなくてはならないとしたら、はたしてインドは参加を決めていただろうか。仮に「ノー」だとすれば、協議が始まったばかりのIPEFが途端に求心力を失うことになりかねない。ここでもインド参加が重要なファクターだったことが見て取れる。