じじぃの「カオス・地球_93_第3の大国インドの思考・インド太平洋・ソロモン諸島」

オーストラリアの“のど元”ソロモンに 中国の南太平洋進出 真の狙いは【日経プラス9】(2022年6月2日)

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=ja1FpkZv59E


中国・ソロモンの安保協定を警戒 豪「正式調印中止を」、米は大使館開設協議

2022年4月19日 中日新聞
中国が南太平洋の島国、ソロモン諸島と基本合意した安全保障協定を巡り、周辺国や米国が中国の軍事進出につながるとして警戒を強めている。
海上交通の要衝に位置するため、将来の軍事拠点化を警戒するオーストラリアはソロモンに閣僚を派遣し、中国との協定を正式調印しないよう求めた。
https://www.chunichi.co.jp/article/455595

第3の大国 インドの思考――激突する「一帯一路」と「インド太平洋」

【目次】
まえがき
序章 ウクライナ侵攻でインドが与えた衝撃
第1章 複雑な隣人 インドと中国
第2章 増殖する「一帯一路」――中国のユーラシア戦略
第3章 「自由で開かれたインド太平洋」をめぐる日米印の合従連衡
第4章 南アジアでしのぎを削るインドと中国

第5章 海洋、ワクチン開発、そして半導体――日米豪印の対抗策

第6章 ロシアをめぐる駆け引き――接近するインド、反発する米欧、静かに動く中国

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『第3の大国 インドの思考――激突する「一帯一路」と「インド太平洋」』

笠井亮平/著 文春新書 2023年発行

第5章 海洋、ワクチン開発、そして半導体――日米豪印の対抗策 より

インド洋をめぐるインド独自のイニシアチブ

南アジアで中国が着々と影響力拡大を図る一方、インドも日本と連携しながらインフラ開発計画を推進しようとしてきた。だが、コロンボ港整備計画は中国に取って代わられ、チャーバハールも港湾としての開発は実現しているものの、より広域のコネクティビティという点では当初の目論見どうりには進んでいない――前章では、対照的にも映る印中の状況を描いてきた。

インドが大規模インフラ整備プロジェクトを進めるにしても、経済力の差を考えれば資金力では中国に太刀打ちできない。かといって、中国の影響力拡大にただ手をこまねいているわけにはいかない。

そこで必要になるのは、中国にはない、インドならではの優位性を発揮して独自のイニシアチブを打ち出しつつ、同志国と連携していくことだ。第3章で見たように、インドが一定の留保を付けながらも「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)にコミットし、日米豪ともにクアッドを形成しているのは、まさにこの点による。

では、インドによる「独自のイニシアチブ」とは何か。

まず、「SAGAR」と呼ばれるドクトリンがある。これは「地域すべての国のために安全保障と成長を」(Security and Growth for All in the Region)の頭文字をつなぎ合わせたものだが、ヒンディー語で「海」や「泉」という意味にもなる。
これは2015年3月にモディ首相が訪問先のモーリシャスの首都ポートルイスで発表したもので、名称に入っている「地域」とはインド洋のことを指している。域内各国との関係強化や海洋強化や海洋状況把握(MDA)の推進、インド海軍と沿岸警備隊による関係国とのパトロールや救援・捜索活動を展開していくといった内容が含まれる。
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SAGARにつづきインドが提起したのが、「インド太平洋海洋イニシアチブ」(IPOI)だ。これは2019年11月の東アジアサミットでモディ首相が「インド太平洋の諸原則を共有する海洋環境を守るための取り組みへと転換するための協力」として提案したものである。
その後、「海洋安全保障」や「海洋資源」、「貿易のコネクティビティと海上輸送」をはじめとする7つの柱が設定され、それぞれに「リード・カントリー」と呼ばれる主導国が決まった。

南太平洋での米中勢力争い

ここまでインド洋をめぐる関係国の動向を見てきたが、近年注目を集めているもうひとつの海域、南太平洋についても触れておきたい。

中国との外交関係と言うと、かつての南太平洋の状況は他の地域とは異なっていた。中華民族、つまり台湾と国交を結んでいた国が多かったのである。2023念1月現在でも、台湾と外交関係を結ぶ国は世界で14あるが、このうち太平洋島嶼国はパラオマーシャル諸島ナウル、ツバルと4ヵ国に上り、大きな役割を占めている。だが、中国が経済援助を梃子に攻勢を強めており、19年にソロモン諸島キリバスが台湾と断交している。

近年、中国がとくに関係強化に力を入れているのがソロモン諸島だ。

この国名だとイメージがわかないかもしれないが、太平洋戦争で激戦が行われたガダルカナル島が含まれる国と言えば場所の見当がつきやすいのではないだろうか。同島を含む約1000の島で構成されており、1978年にイギリスから独立した。

2022年4月中旬、中国がこのソロモン諸島と安全保障協定を結んだことが発表されたことで、関係国に衝撃が走った。前年に合意していた警察への装備提供が行われる一方、中国が軍を駐留させることは当面ないとソロモン諸島側が説明していることを除けば、協定の内容は明らかにされていない。

この展開に、米豪日は疑念を抱かずにはいられなかった。背景にはソロモン諸島の戦略的位置がある。オーストラリアからアメリカのハワイを結ぶライン上に、東西に広がるかたちで存在しているのだ。また中国から見た場合、南太平洋の中でもっとも西側、つまり自国にもっとも近い国でもある。
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なお、インドは南太平洋でのプレゼンスは必ずしも大きくない。だが、フィジーだけは例外だ。インドがイギリスの植民地だった頃に移民してきたインド人が定住し、いまでも約90万人の総人口のうち、フィジー系が57%だが、その次に多いのはインド系(38%)なのである。
1999年には労働党のマヘーンドラ・チョードリー党首が首相に就任したが、名前からわかるとおり、インド系だ。インドの南太平洋全体を対象とした取り組みとしては「インド・太平洋島嶼国協力フォーラム」(FIPIC)があり、2014年11月の設立会合にはモディ首相が駆けつけたほか、14の太平洋島嶼国すべてから首脳が出席した。ただ、15年8月にインドのジャイプルで第2回首脳会議が開かれたのを最後に目立った活動は伝えられておらず、インドがこの枠組みを活性化して南太平洋への関与を増大させていけるかが注目される。