じじぃの「カオス・地球_129_なぜ世界はEVを選ぶのか?終章・トヨタの課題と底力」

EV出遅れで世界シェア低下 日本車はテスラ BYDに勝てるか?【日経プラス9】(2023年10月25日)

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=TsWvX4OjxjM

トヨタ自動車は10月25日、2026年発売予定の次世代電気自動車(EV)の試作車を世界初公開した


トヨタ、航続1000キロのレクサス次世代EV公開…ジャパンモビリティショー26日開幕

2023/10/25 読売新聞
東京モーターショーから名称を改めた「ジャパンモビリティショー」(26日開幕)が25日、東京都江東区東京ビッグサイトで報道関係者向けに公開された。トヨタ自動車は、2026年に発売予定の次世代電気自動車(EV)の試作車を世界初公開した。

高級ブランドの「レクサス」から投入する「LF-ZC」は、一般的なEVの約2倍にあたる1000キロ程度の航続距離を目指す。リチウムイオン電池のエネルギー密度を高めたほか、独自のソフトウェア「アリーン」を搭載するなど多くの先端技術を盛り込む。
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20231025-OYT1T50095/

なぜ世界はEVを選ぶのか――最強トヨタへの警鐘

【目次】
はじめに
第1章 攻めるテスラ、BYD どうするトヨタVW
第2章 フォルクスワーゲン “地獄”からのEVシフト
第3章 これはトヨタの未来か VWが直面する5つの課題
第4章 「欧州の陰謀」論から世界の潮流へ
第5章 EVユーザーの実像 もはや「ニッチ」ではない
第6章 高級車勢は「EV専業」 ボルボメルセデスの深謀遠慮
第7章 フェラーリとポルシェ 半端では生きられぬエンジン
第8章 テスラとBYDの野望 電池と充電が生む新ビジネス
第9章 EVリストラの震源地 部品メーカーの下克上
第10章 EV化で仕事がなくなる?労働者たちの苦悩

第11章 「出遅れ」トヨタの課題と底力

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『なぜ世界はEVを選ぶのか――最強トヨタへの警鐘』

大西孝弘/著 日経BP 2023年発行

第11章 「出遅れ」トヨタの課題と底力 より

2023年4月1日、トヨタ自動車豊田章男社長が会長に、佐藤恒治執行役員が社長に就任した。その直後に聞かれた日経ビジネスなど複数メディアによる佐藤社長へのグループインタビューで、印象的なやり取りがあった。電気自動車(EV)関連の質問を続けるメディアに対して、佐藤社長はこう質問した。

「逆に教えてほしい。皆さんがどうしてそんなにEVのことを知りたいのか」――

なぜ、知りたいのか。それは、トヨタ自動車産業で圧倒的に強い位置を占めながらも、急拡大するEV市場ではラインアップが少なく、販売台数が少ないことに対する懸念が高まっているからだ。

売上高、利益、時価総額……。いずれも国内で圧倒的なトップのトヨタ。グループ従業員は37万人を超え、日本の産業の屋台骨を支える存在だ。そのトヨタがEV市場で後塵を拝している様子は、将来の競争力の低下を暗示しているのではないか。そんな言いようのない不安に駆られるからこそ、多くの人がトヨタのEV戦略を知りたくなっている。

ここまで10章にわたって世界のEVシフトの動向をまとめてきたように、自動車市場の半分近くがEVになる未来が現実的になってきた。1997年に世界初の量産ハイブリッド車(HV)を発売したトヨタが市場で技術開発で先行し、ユーザーを囲い込んできたように、EVでも先を走る企業が市場の多くを押さえてしまうかもしれない。

米テスラや中国・比亜迪(BYD)が累計数百万台のEVを世界の道路で走らせて得ている知見は無視できない。実際、両社はEVを発売するたびに洗練させてきた。もっと言えば、販売済みのEVも、無線通信でソフトウェアを更新して性能を改善させている。

しかもEVでは、新しいサプライチェーン(供給網)をつくり、電力供給のインフラも整える必要がある。ソフトウェアの重要性が高まり、開発や生産のあり方が根本から変わるなど、HV以上に大きな変化を伴う。その市場で、本当に後から追い付けるのか。

欧米の自動車メーカーは、本気でテスラやBYDを追いかけ始めた。もちろん、市場の全てがEVになるわけではない。しかし、欧州・米国・中国という巨大市場に基盤を持つメーカーが、それぞれの産業競争力を強化するために、自国の市場を後ろ盾にしながら「EVシフト」という現象を活用しようとしている。後ろ盾となる日本市場が相対的に小さく、アジアや新興国を含めた全方位で事業を展開してきたトヨタが、権謀術数の渦巻く領域で勝てるのだろうか。巻き返しにはもはや、一刻の猶予もないかもしれない。

トヨタ、そして日本の自動車メーカーが産業競争力を維持・強化するために何ができるのか。最終章ではそれを考えていきたい。

「EVファースト」になれるか

「どうだ!」、と胸を張るような技術説明会だった。トヨタが2023年6月にEVや電池に関する技術を説明した「トヨタ・テクニカル・ワークショップ」だ。あるトヨタ関係者は「豊田章男社長の時代から開発を続けてきた内容だ。ただ、新経営陣はいろいろなステークホルダーの要求に合わせて、説明を重視するようになっている」と明かす。

多くのメディアのヘッドラインを飾ったのは「全固体電池」の開発だ。現在主流のリチウムイオン電池電解質が液体なのに対し、全固体は電解質が固体で、充電時間の短縮や航続距離の伸長などの可能性がある。トヨタは10分以下の充電で航続距離を1000キロメートル以上に伸ばす見通しを示した。早ければ27年にも全固体電池を搭載するEVを投入する計画だ。ただし、大量に生産するのが難しいため、当面の搭載は高級車向けになりそうだ。

むしろ期待が高まるのが、早ければ26年にEVに搭載するリン酸鉄系(LFP)電池だ。本書でも何度か触れてきたが、高価なニッケルやコバルトなどレアメタル希少金属)を用いる3元系の電池の電池に比べて、LFPはそれらを使わないためコストを抑えられる。トヨタLFPで独自の技術を使うことで、bZ4Xに搭載した電池に比べてコストを4割下げながら、航続距離は700キロメートル超を実現できるという。これは量産を前提としているため、トヨタのEV戦略の核になりそうだ。

生産技術の革新も示した。トヨタは数十点の板金部品で作っていたものを一体成型する技術を開発中と発表。テスラなどが先行する「ギガキャスト」と呼ばれる技術で、生産コストの低減を見込める。EV事業を加速する専任組織として5月に新設した「BEVファクトリー」の加藤武郎プレジデントは「新モジュール生産と自走生産で、工程と工場投資を2分の1にする」と述べた。

トヨタの一連の発表を受け、自動車アナリストの間の評価も分かれた。「トヨタにはHVなどで電動化技術の蓄積がある。EVでの競争力も高い」と見るアナリストもいれば、「競合他社のキャッチアップにすぎない」と話すアナリストもいる。画期的な技術であっても、量産化が計画通りに進まないことは多い。トヨタの技術に対する期待は高いが、量産化できるかどうかが鍵であり、未知数な部分が多い。現時点では評価が分かれるのもそのためだろう。

優先順位の見極めが鍵に

今後の5~10年の自動車業界の競争環境を考えた場合、トヨタの戦略は2つの点で懸念がある。1つは、EV自体の競争力。もう1つは、自動車産業の構造変化を前提とした事業構築力だ。

トヨタの新経営陣が豊田社長の時代から引き継いだのが、「マルチパスウェイ」戦略である。各地域の事業に応じた最適なパワートレーンを導入するという「全方位戦略」だ。佐藤新社長はEVについて発信は増やすものの、「マルチパスウェイという考え方は一切ぶれることなく、変わっていない」と強調する。
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しかし、今は経営における優先順位をつける必要があるのではないだろうか。中西孝樹アナリストは、「多様な技術を開発する必要性は理解できるが、まずはEVで勝たなければならない局面になっている」と指摘する。なぜなら、欧州や中国、米国という巨大市場でEV販売が急増しており、競合他社が全力でEVの開発を進めているからだ。

特に専業メーカーは組織をEVの開発や生産に最適化している。トヨタVWなどの自動車大手は、従来の組織を抜本的に変えなければ専業メーカーのスピードに勝つのは難しい。ドミニの古谷晋氏は、「電力会社でも全ての技術にくまなく投資する企業は苦戦している。EVだけに投資する”ピュアプレー”のテラスに、エンジンなど様々な技術に投資するトヨタが勝てるとは思えない」と指摘する。