【EV価格破壊の衝撃】フォルクスワーゲンが260万円で買えるID.LIFEを発表 EVが安くなる唯一の理由も徹底解説
フォルクスワーゲンが260万円で買えるID.LIFEを発表
VWが未来の「ビートル」になると期待される低価格EV「ID.ライフ」のプロトタイプ
エコカーブログ
◆低価格の肝はリン酸鉄リチウム電池の採用
おそらくID・ライフの量産版には57kWhから様々な容量のバッテリーが用意され、すべて床下に配置、EVの利点であるフラットなフロアが用意される予定。
リチウム電池のセルは現在VWが使用しているニッケル・マンガン・コバルト(NMC)に代わって、低コストのリン酸鉄リチウム(LFP)が採用される。
https://ameblo.jp/bank-jp/entry-12710977270.html
第2章 フォルクスワーゲン “地獄”からのEVシフト
第3章 これはトヨタの未来か VWが直面する5つの課題
第4章 「欧州の陰謀」論から世界の潮流へ
第5章 EVユーザーの実像 もはや「ニッチ」ではない
第6章 高級車勢は「EV専業」 ボルボ・メルセデスの深謀遠慮
第7章 フェラーリとポルシェ 半端では生きられぬエンジン
第8章 テスラとBYDの野望 電池と充電が生む新ビジネス
第9章 EVリストラの震源地 部品メーカーの下克上
第10章 EV化で仕事がなくなる?労働者たちの苦悩
第11章 「出遅れ」トヨタの課題と底力
-
-
-
-
-
-
-
-
- -
-
-
-
-
-
-
-
第2章 フォルクスワーゲン “地獄”からのEVシフト より
「我々は元国営の保守的な会社」
18年にCEOに就任したディース氏は、従業員から目の敵にされていた。一般にEVはエンジン車に比べて部品数が少ないため、生産台数当たりの必要人数が減るとされる。実際にディース氏は、将来の投資に備えた雇用削減の可能性について何度も言及し、従業員の反発を招いてきた。
それでも、VWの大株主であるポルシェ家とピエヒ家はディース氏を支持してきた。退任発表の1年前には、監査役会がディース氏の任期を2年延長し、25年10月までにすると発表していた。そこから一転、監査役会はディース氏に見切りをつけ、有無を言わさず解任した。
理由の1つは、ソフトウェア開発の遅れだ。ディース氏はEVシフトと並行してソフトウェア開発の強化を進めてきた。20年1月にはグループのソフト開発部門を結集し、新会社「カリアド」を設立。それまで大手サプライヤーに委ねることが多かった自動車のOS(基本ソフト)の自社開発をもくろんだ。
だが、開発は思うように進んでいないもようだ。ポルシェのSUV「マカン」のEVモデルは、ソフト開発の遅れに起因して発売時期が大幅に遅れている。また、自動運転機能を搭載する次世代車の開発にも影響が出ているという。
「ドル箱」だった中国での苦戦も理由の1つだろう。10年以上にわたり中国事業がVWの成長を支えてきたが、中国での利益が減少傾向にあった。肝煎りのEVも、中国では販売が伸び悩んでいた。
とはいえ、根底にあるのはやはり従業員との深刻な対立だ。21年7月に任期の延長が決まった直後も、リストラ計画を巡り従業員と対立していた。度重なる衝突に、創業家もディース氏を守り切れなくなった。
型にはまらない言葉を語り、従業員だけでなく、幹部にもあえて過激な言葉を使ってきたディース氏。カジュアルな服装をまとい、SNSを積極的に活用するなど発言もオープンだった。VWの組織風土について破壊的な改革を志向していたのは間違いない。その中でも象徴的だったのが、テスラに対する発言だ。
通常、企業の経営幹部は公の場での他者の評価を避ける。オフレコの場で批評することはあっても、公の場ではほとんど言及しない。しかし、ディース氏は米テスラを礼賛するような発言を繰り返してきた。何度も「テスラは我々のベンチマークだ」と明言している。
21年10月には200人の幹部が集まる会議に「サプライズゲスト」としてマスク氏を招待。ディース氏はSNSで、「彼らはソフトウェアを自社開発しているので、半導体不足に非常にうまく対応している」とテスラをたたえた。
状業員との対立が解任の決め手となったディース氏だが、その経営手法に賛同する社員ももちろんいた。マーケティング部門のある社員は、「我々は元国営の保守的な会社。ディースさんのように過激にはっきりと会社の方向性を示さないと組織風土は変らないだろう」と話していた。
ディース氏は、事あるごとに「25年までにEVで世界のリーダーになる」と語るなど、VWのEVシフトについて強気の発言を貫いた。官僚的な組織の危機意識を高めるという意味で、3年間CEOを務めた”外様”の功績は大きかった。
自社製電池で「レゴブロック」戦略
VWにとって、EV生産の象徴がドイツ東部のツウィッカウ工場なら、EV電池生産の象徴はドイツ北部のザルツギッター工場だ。
2022年7月7日、VWはザルツギッターで電池工場の定礎式を開催した。これまではアジアの電池企業からEV用電池セルを調達してきたが、この工場で25年から初めて自社開発の電池セルを大量生産する。年間の生産量は容量ベースで40ギガワット時を予定しており、これはEVで50万台分に相当する。
VWは30年までに200億ユーロ(約3兆円)以上を投じ、欧州に6つの巨大電池工場を建設する。それらの工場で年間200億ユーロを売り上げ、最大2万人を雇用することを見込む。ザルツギッター工場は、それらのモデル工場になる存在だ。
意気込みはショルツ独首相を招いた定礎式にも表れていた。工場内に巨大なスペースを設け、多くの取引関係者や従業員たちが集結。プロの司会者が進行し、イベント用のビデオも非常に手の込んだものだった。
規格化した電池セルを使い回す
では、VWはどのようにEV用電池でアジア勢に追い付き、追い越そうとしているのか。ザルツギッター工場で見えてきたのは5つの特徴だ。
1つ目は標準化だ。製品だけでなく、工場に導入する装置や製造プロセス、IT・物流のシステムも標準化し、それを多面展開することでコストを下げる。工場を取り囲むように、研究開発やパイロットライン、テストセンター、部品供給などの施設を置く方針だ。
VWは電池セルを規格化して、同じセルを大量に生産する。これについてVWの技術者は「アジアの電池メーカーは顧客ごとに多種多様なセルをセルを生産しているが、我々は規格化された同じセルを量産することでコストを下げられる」と説明する。実際、イベントや研究開発施設では、あらゆるところで同じサイズの電池セルが展示されていた。
VWはEVやエンジン車のプラットフォームを規格化し、これを様々な車種に展開することでコスト削減を実現している。電池についても、「レゴブロック」のように規格化したセルの数を増減させて搭載容量を変化させ、多様なEVに対応する。規格化した電池セルを、VWグループ全体の最大8割のEVで利用していく計画だ。
2つ目はリチウムイオン電池の中で「リン酸鉄系(LFP)」と呼ばれるタイプを選べるようにしたこと。大衆車に強いVWとしては、大衆車の価格帯に適用できるコスト競争力の強い電池を調達できるかが大きなポイントになってくる。
車載用の電池として現在普及している「3元系(NMC)」は、ニッケルやコバルトなどの高価なレアメタルを使うことがコスト削減のネックとなっている。電池のコストを吸収しやすい高級車では活用が進むが、手ごろな価格が求められる大衆車への搭載は難しい。
ニッケルやコバルトを使わないLFPは、エネルギー密度こそ3元系に劣るものの、原材料の調達コストが安いのが大きなメリットだ。実際、テスラや中国の自動車メーカーなどが、LFPの電池を搭載するEVを増やしている。特にウクライナ戦争以降にレアメタルの価格が上がったことで、LFPへの注目度が高まっている。
ザルツギッター工場で見えた特徴の3つ目はCO2排出量の削減だ。電池セルの生産では大量のCO2を排出するが、ザルツギッター工場の電力は全て再生可能エネルギーで賄うという。欧州連合(EU)は将来的に、生産時のCO2排出量が多い電池の域外からの輸入に事実上の関税をかける方針を示している。そうなれば域内で生産している電池のコスト競争力が高まっていく。