じじぃの「カオス・地球_118_なぜ世界はEVを選ぶのか?はじめに」

全固体電池搭載車両

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=syOegAKcL9A


BEV技術革新:出光とトヨタ、全固体電池の共同開発を発表

2023年10月13日 レスポンス
出光興産とトヨタ自動車は、バッテリーEV(BEV)用の有力な次世代電池である全固体電池の量産化に向けて、固体電解質の量産技術開発や生産性向上、サプライチェーン構築に両社で取り組むことについて、10月12日に合意した。

◆全固体電池は高容量・高出力
全固体電池の材料開発等で世界をリードする両社が連携することで、2027~28年の全固体電池実用化(トヨタは2023年6月に公表済み)をより確実なものとし、その後の本格量産をめざす。
https://response.jp/article/2023/10/13/375826.html

なぜ世界はEVを選ぶのか――最強トヨタへの警鐘

【目次】

はじめに

第1章 攻めるテスラ、BYD どうするトヨタVW
第2章 フォルクスワーゲン “地獄”からのEVシフト
第3章 これはトヨタの未来か VWが直面する5つの課題
第4章 「欧州の陰謀」論から世界の潮流へ
第5章 EVユーザーの実像 もはや「ニッチ」ではない
第6章 高級車勢は「EV専業」 ボルボメルセデスの深謀遠慮
第7章 フェラーリとポルシェ 半端では生きられぬエンジン
第8章 テスラとBYDの野望 電池と充電が生む新ビジネス
第9章 EVリストラの震源地 部品メーカーの下克上
第10章 EV化で仕事がなくなる?労働者たちの苦悩
第11章 「出遅れ」トヨタの課題と底力

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『なぜ世界はEVを選ぶのか――最強トヨタへの警鐘』

大西孝弘/著 日経BP 2023年発行

はじめに より

「EVの普及は難しい」。それが自身の経験に基づく結論だった。

源流は1997年の京都会議(国連気候変動枠組条約第3回締約国会議)での鮮烈な体験だ。まだ学生だった当時、トヨタ自動車ハイブリッド車(HV)に試乗する機会があった。減速で無駄にしていたエネルギーを回収し、モーターを使って発進することで燃費を飛躍的に向上させたと聞き、胸が躍った。実際に乗ってみると、エンジンで駆動するクルマとしての魅力を保ちながら、まったく新しい付加価値を生み出したことを実感できた。まさに「夢のクルマ」だった。

その後、経済誌日経ビジネス」や環境専門誌「日経エコロジー」の記者になった筆者にとって、エコカーは取材の中心的なテーマであり続けた。HVを生み出したトヨタの首脳や関係者への取材を繰り返し、HVは普及する過程を間近で見てきた。商品としての魅力を高める緻密な戦略やコストダウンを実現する大胆な戦略。それらが実を結び、HV全盛時代が到来した。

そのときの状況と比べると、EVが近い将来普及するとは到底思えなかった。
三菱移動者が2009年に世界初の量産EV「アイ・ミ-ブ」を、日産自動車がEVの初代「リーフ」を10年に発売。その頃も「EV時代が到来した」と騒がれた。ただ、当時の国内新車販売に占めるEV比率は1%未満にとどまった。

14年にセダン型EV「モデルS」を成長の足掛かりにしようと苦闘していた米テスラを集中的に取材して戦略を分析したこともある。EV普及策を採る米カリフォルニア州の高速道路にかかる陸橋に陣取り、通過するEVの数を数えたりもした。しかし、カリフォルニア以外の米国や中国、欧州の街を歩くと、EVを見かけることはまれだった。取材を繰り返すほど、EVに会社の命運を託すテスラの特殊さが際立った。

電池の容量やコスト、電池に充電するための設備、そして製造時の環境負荷……。EVの課題を挙げればキリがない。EVへのシフトに懐疑的なのは、18年4月に英ロンドンに赴任してからも変わらなかった。まだ街でEVを見かけることはほとんどなかった。
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ところが、日本の自動車メーカーの反応は鈍かった。

自動車市場で世界のトップに君臨するトヨタは、22年のEV販売実績が約2万5000台だった。これに対して、テスラは131万4000台、中国の比亜迪(BYD)は91万1000台だ。EV市場で日本車メーカーが大きく出遅れているのは事実だ。

それにもかかわらず、日本から聞こえてくるのは、欧州の規制や、EVシフトの様子を報じるメディアへの批判だった。「欧州のEVシフトは開発や生産の裏付けがない無謀な企てであり、いずれ頓挫する」「メディアはメーカーのPRに乗っかっているだけだ」。日本国内でそんな批評が広がるうちに、世界ではEV市場がぐんぐんと拡大していく。

化石燃料で発電した電気を使って走るEVは、CO2排出量の削減に寄与しない」。全くの正論だ。「エンジン車の多くを燃費の良いHVに切り替えた方がCO2排出量の削減効果がある」。その通りだ。

ただ、欧州を中心とする一連の取材ではっきりと見えたことがある。「世界的なEVシフトの“一番”の目的は、環境保護ではない。目的は産業育成と雇用の創出にある」ということだ。環境保護を前面に押し出しているのは、「競争をするなら社会正義がありそうな土俵で戦う」という意味合いが強い。

欧米中の政府や自動車メーカーは様々な矛盾を抱えながらも、産業競争に勝ち、雇用を確保するためになりふり構わず動いている。「何が正しいのか」を議論することは大事だが、議論のために立ち止まったままでは、拡大するEV市場で置いてきぼりになりかねない。

国際エネルギー機関(IEA)の予測では、22年に730万台だった世界のEV販売台数が30年には最低でも3100万台に達する。ボストン・コンサルティング・グループは、30年にEVが世界自動車販売の39%を占めると予想している。それだけの市場が生まれる裏側で、エンジン車の市場が縮小していく

本書はEVを礼賛する本ではない。広くて多様な世界で、EVが将来のパワートレーンの”唯一の選択肢”になることはないだろう。ただ、10年もしないうちに今ある市場の4割がなくなるという恐ろしい未来を想像してほしい。代わりに生まれるEVの市場で勝てなければ、今と同じような大きな売り上げや利益を確保するのは至難の業だ。

「世界の自動車市場で最大の販売台数を誇り、日本経済の屋台骨となっているトヨタは、EV市場が拡大してしまった後も、”最強の自動車メーカー”でいられるのだろうか」。本場の執筆に取り組んだ理由は、この疑問に尽きる。

トヨタ社内からは「EVの要素技術はそろっている。本気になれば勝てる」という声も聞こえてくる。本当にそうだろうか。

22年の時点で、EVの販売台数では首位テスラと50倍もの差がついてしまった。そして、トヨタがEVに特化した本格的な技術を投入していくのは26年以降になる。進化のスピードが速いEV市場の中で競争力を発揮できるかは不透明だ。

そして、充電や電池リユースなどの新しいサービスで主導権を握るチャンスを得られるのは、その時点で多数のEVを走らせているメーカーに絞られるだろう。後から魅力的な商品を投入できたとしても、劣勢をひっくり返すのは簡単ではない。もはや、一刻の猶予もゆるされないのではないか。そんな危機感から、本書のサブタイトルを「最強トヨタへの警鐘」とした。

最後に本書の構成を簡単に紹介したい。1章では、EV市場の覇権を争う可能性が高いテスラとBYD、トヨタVWの4社に焦点を当て、その比較を展開する。2章と3章では苦しみながらEVシフトを進めるVWの戦略を探る。VWの試行錯誤は、日本車メーカーがいずれ経験する道であり、良くも悪くも参考になるところが多いはずだ。

4章はEVシフトを推進する欧州や中国、米国の最新事情を取り上げる。欧州の政策決定者の考え方は、日本車メーカーの意思決定に影響を与えるだろう。5章では欧州各地で聞いたEVユーザーたちの生の声を取り上げる。様々なタイプのユーザーから聞いて見て分かったEVの利点や欠点がたくさんあった。

6章では「EV専業」を宣言したボルボ・カーやメルセデス・ベンツの深謀遠慮、7章ではEVの中核部品である電池や充電サービスの動向を取り上げた。EVや電池のトップランナーの思惑は、新たなビジネスモデルを探る上で参考になるはずだ。そして8章ではEVシフトの中でエンジンがどのような役割を果たすのかをまとめた。9章はエンジン生産減の影響を受ける部品メーカーの状況を記し、10章では人員削減やリスキリングの実態を深堀りしていく。

11章ではここまでの問題意識と照らし合わせながら、現在の自動車産業の覇権を握るトヨタの戦略を検証する。現在地を確認し、日本国外からの視点で指摘したい。

自動車産業に関わりがある方はもちろん、あらゆるビジネスパーソンに読んでいただきたいと思いながら本書をまとめた。EVシフトは、日本の競争力を見極める「リトマス試験紙」のような出来事だからだ。

人工知能(AI)の進化など、この先も産業王増を大きく変えるような技術革新が何度も押し寄せるだろう。そのたびに、世界の官民が絡み合う産業転換のうねりが生まれていく。その中で、日本が競争力を高めるためにどのように振る舞うべきか。それを考える上で、今のEVシフトを取り巻く状況は大いに参考になるはずだ。

カーボンニュートラル」の実現を目指す2050年まであと25年余り。日本の、そして世界の自動車産業はどのように変わっていくのだろうか。これまで多くの雇用を生み出してきた。日本の大黒柱である自動車産業がさらに競争力を発揮するためにはどうすればいいのおか。本書が、それを考える一助になることを願っている。