ロシア軍“士気低下”も・・・注目はプーチン氏に意見できる『3人組』専門家解説(2022年3月28日)
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https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=A6IsJ4lNUYw
【ウクライナ侵攻】プーチン大統領を取り巻く面々と後継者の「本命」=名越健郎
2022年3月22日 週刊エコノミスト Online
●プーチン政権 側近4人とサークル形成 「盟友」はパトルシェフ氏
ロシアのプーチン大統領が命じたウクライナ侵攻は、無謀な国際法違反の戦争であり、プーチン氏は「侵略者」の汚名を歴史に刻むことになった。
ロシアは国際社会から指弾され、欧米諸国から最大級の経済制裁を浴びており、プーチン氏の権力基盤が弱体化する可能性もある。ここでは、ウクライナ侵攻がクレムリンで誰によって決定されたのか、ロシアの権力機構を探り、プーチン氏の後継候補を含めて分析した。
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20220329/se1/00m/020/056000c
プーチンは何をしたかったのか?
【目次】
はじめに
第1章 プーチンは、何をしたかったのか?――なぜクリミア併合、ウクライナ侵攻へ至ったか
第2章 プーチンとは、いったい何者なのか?――スパイを夢見た少年時代、若き日の挫折、そして一大転機で権力者へ
第3章 どうやってロシア大統領になったのか?――最高権力者まで上り詰めた疾風怒涛の4年間
第4章 権力者となったプーチンをとりまく人々――政治を動かすオリガルヒ、愛すべき家族や親族
第5章 プーチンが築きあげた“盗人支配”と“監視”のシステムとは?――クレプトクラットが盗み、シロヴィキが見張る
第6章 プーチンの支配はいつまで続き、どう倒れるのか?――プーチンの哀れな末路と、ロシア再生への道
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第5章 プーチンが築きあげた“盗人支配”と“監視”のシステムとは?――クレプトクラットが盗み、シロヴィキが見張る より
ロシアの問題点は、KGBの同期・同窓で権力を固めていること?
――シロヴィキ(ロシアの政治・経済を支配する派閥)の面々は、どんなことをやってきて、どのようにプーチンに気に入れられているのですか? 何人か例をあげて、具体的に教えてください。
以下、強調印字は筆者による。
安保会議書記も務めるパトルシェフは、プーチンを全面的に支援する”刎頸(ふんけい)の友”で、「シロヴィキ中のシロヴィキ」です。51年生まれとプーチンの1つ年上で、KGBレニングラード支部に同期で入り、一緒に働きました。94年からはモスクワで保安省やFSB(ロシア連邦保安庁)の要職を歴任。1年ちょっとFSB長官だったプーチンをエリツィンが首相代行(のち首相)に任命した99年、後任の長官に選ばれています。08年から書記です。
パトルシェフはプーチンと2人だけになると、寡黙なプーチンに戦略や思想を大胆かつ流暢にしゃべるといいます。安全保障に関してはプーチンとほぼ対等の存在で、その言動をプーチンも高く評価しています。プーチンが不測の事態に見舞われれば、パトルシェフが後を受け継ぐだろう、と分析する人もいます。
リトヴィネンコ殺害事件をご記憶の読者もいるでしょう。FSB職員だったリトヴィネンコは98年に「1年前にベレゾフスキー殺害を上司に命じられたが拒否した」と同僚とともに暴露。「幹部の一部が政治脅迫や殺人にFSBを使っている」と告発しました。
逮捕・収監を繰り返した後の00年11月にイギリスに亡命して英市民権を得ると、プーチンやロシアを猛烈に批判。00年にロシアで起こり300人近い犠牲者が出た高層アパート連続爆破事件は「FSBがチェチィン民族の犯行と見せかけた偽装テロ。事件で国民の支持をとりつけ、チェチィン民族を徹底弾圧した」と、本で証言しています。
しかし、06年10月にロンドンのホテルで毒入り茶を飲まされ11月23日に死亡し、盛られたのは放射性物質ポロニウム210とわかりました。彼の殺害はプーチンとパトルシェフが最終的に承認したとされています。英最高裁判所のオーエン検事は「プーチン大統領とパトルシェフFSB長官に聞けば、事実を認めるだろう」とまでいったのです。
パトルシェフらシロヴィキの間では、邪魔な者は人と思わず平然と抹殺するという暗殺の伝統が培(つちか)われてきたようです。
現FSB長官のボルトニコフもKGB出身です。プーチンの1歳上、パトルシェフと同い歳で、モスクワのKGB高級学校を卒業し、75年KGBレニングラード支部に入局。これまたプーチンの同期生なのです。04年にFSB副長官。パトルシェフの後任として08年からFSB長官となり、今日も今日も依然として同じ地位にあります。
反プーチン活動を続けるナワリヌイという弁護士がいます。20年8月、飲み物に神経剤ノビチョクを盛られ、飛行機の中で体調を崩して緊急着陸をしてもらい病院行き。その後ドイツで緊急入院しました。裁判所で11年半の禁固刑を言い渡され、いま服役中です。
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対外情報庁SVRの長官ナルイシキンは54年生まれで、やはりKGB出身です。80年にレニングラードKGBでプーチンと知り合い、90年代はサンクトペテルブルク市役所でプーチンと一緒でした。04年からモスクワに移り、ロシア英府の官房長官、大統領府長官をへて、16年からソ連中央情報局の流れをくむSVRを率いています。
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セルゲイ・イワノフのいまの肩書は「大統領特別代表」(自然保護・環境・交通運輸担当)です。53年生まれでレニングラード大学やミンスクのKGB高等課程を終えて、75年にKGBレニングラード支部に入局。大学もKGBもプーチンの同窓です。プーチン長官の下のFSB副長官、国防省、大統領府長官、第1副首相、安保会議書記などを歴任。
タカ派の退役大将で、リトヴィネンコの本を「意味はない。死の床で奴が何といおうが、何を書こうが、気にしなくていい」といっています。
たいへんな資産家ですが、莫大な資産は妻の名義で、彼はオリガルヒとは見なされません。息子セルゲイも国策ダイヤモンド会社のアルロサの社長です。このダイヤモンド鉱山の売上高は21年に42億ドルもあって、世界市場の3割近くを占めています。
ここまで、レニングラードKGBの同期や同窓ばかりであることにお気づきでしょう。とくにプーチン、パトルシェフ、ボルトニコフは、この順にFSB長官でした。
彼らシロヴィキが、プーチンをトップとする安保会議のコアとなり、ロシアという国の行く末を決める――これはロシアにも、世界にとっても、不孝きわまりがないことです。
米ホワイトハウスでも大統領の身内や友人が要職に就くことはありますが、米大統領が選挙が交代すれば彼らも入れ替わります。ロシアは選挙を何度やっても交代しません。
この仕組みをつくっているのが秘密警察・諜報機関・軍トップらのシロヴィキだ、といえます。先進国で最高指導者の下にある秘密警察・諜報機関・軍組織が、最高指導者と完全に一本化してしまっています。このことが決定的な大問題なのです。