じじぃの「カオス・地球_96_第3の大国インドの思考・ロシアをめぐる駆け引き」

【中国・インドの思惑は】習近平氏“G20異例の欠席” 佐藤正久×朱建榮×富坂聡 2023/9/11放送<前編>

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=igQaPR4Zc2U

G20で存在感 インドが「途上国の旗手」に


「途上国の旗手」明暗 習氏欠席、インドが存在感 背景に中国国内事情・G20〔深層探訪〕

2023/9/14 Yahoo!ニュース
インドの首都ニューデリーで開かれた20ヵ国・地域首脳会議(G20サミット)は、首脳宣言採択で議長国として成果を誇示したインドに対し、習近平国家主席が欠席した中国は存在感を示せず、「途上国の旗手」を目指す両国が明暗を分ける結果となった。
その背景には、経済減速に悩む中国の国内事情も垣間見える。

サミット閉幕後の10日夜、モディ氏は各国記者の集まるメディアセンターに、予告なく姿を見せた。落ち着いた足取りで会場を回り、「ダンニャワード(ありがとう)」と記者をねぎらう姿からは、2日間の成果に対する自信がうかがえた。
https://news.yahoo.co.jp/articles/cd2b159882bf187f9fbfe6c94e04a4ba69cda977

第3の大国 インドの思考――激突する「一帯一路」と「インド太平洋」

【目次】
まえがき
序章 ウクライナ侵攻でインドが与えた衝撃
第1章 複雑な隣人 インドと中国
第2章 増殖する「一帯一路」――中国のユーラシア戦略
第3章 「自由で開かれたインド太平洋」をめぐる日米印の合従連衡
第4章 南アジアでしのぎを削るインドと中国
第5章 海洋、ワクチン開発、そして半導体――日米豪印の対抗策

第6章 ロシアをめぐる駆け引き――接近するインド、反発する米欧、静かに動く中国

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『第3の大国 インドの思考――激突する「一帯一路」と「インド太平洋」』

笠井亮平/著 文春新書 2023年発行

第6章 ロシアをめぐる駆け引き――接近するインド、反発する米欧、静かに動く中国 より

インドのロシア産原油「爆買い」

ウクライナ侵攻を受けて、米欧は対ロシア経済制裁を発動した。
EUは2022年4月上旬にロシア産石炭の禁輸、6月初旬には同国産原油の禁輸について合意した。天然ガスについては加盟国間で温度差があるようだが、ロシアの主力輸出品目であるエネルギーをEUとして拒否する姿勢を強めることで、経済面からロシアを締め付けようとしている。
なお、アメリカはロシア産エネルギーに依存していないことから、原油、石炭、天然ガスの禁輸を早い段階から表明していた。また、米欧ともに金融面ではSWIFT(銀行間の国際金融取引に関するネットワークシステム)からのロシア締め出しやロシア中央銀行の資産凍結など、厳しい措置をとっている。日本も、ロシアのサハリン2への出資と天然ガスの輸入を継続しながらも、米欧と足並みを揃えて経済制裁に加わっている。

これに対し、インドは米欧と真逆に近い対応を取っている。ウクライナ侵攻後、インドはロシア産原油と石炭の輸入を急増させているのである。ロイター通信の調査によると、2022年5月27日から6月15日にかけてのインドのロシア産石炭の輸入量は約3億3117万ドルで、前年同期比で6倍を記録したほか、原油にいたっては22億2000万ドルで、前年同期比で31倍にもなったという。

インドの石油消費量は世界第3位だが、85%を輸入に頼っている。原油輸入相手国は、2021年度時点ではイラクサウジアラビアアラブ首長国連邦UAE)の中東勢がトップ3で、アメリカが4位でつづいた。ロシアは9位でしかなかった。しかし、22年半ばから最大の輸入相手国となり、輸入量も同年6月に日量94万バレルとなり、12月には日量119万バレルと100万バレルの大台を突破した。

世界的な資源価格の高騰がつづくなか、巨大な人口を抱えるインドにとって安価なエネルギーの確保はきわめて重要なミッションだ。したがって、関係の深いロシアから原油や石炭を安価で購入できるのであれば、活用しない手はないというのがインドの考えのように見える。実際、ロシアはインドに対し割引価格で原油を輸出しているとされ、タンカーによる郵送費や保険料を含めても、中東産と比べて安価なようだ。

「いまは戦争の時代ではない」――モディが苦言を呈した背景は

ロシアよりの姿勢が目立っていたインドだが、ウクライナ侵攻開始から半年あまりを経た頃から変化が見えつつある。

その発端となったのが、2022年9月16日の印露首脳会談だった。このときウズベキスタンサマルカンド上海協力機構(SCO)首脳会議が開かれており、ともに加盟国であるインドとロシアをそれぞれ代表して、モディ首相とポーチン大統領も出席していたことから、この機会を捉えて二国間会議が実現した。

「いまは戦争の時代ではない」、「このことは電話会議でも伝えてきたではありませんか」――会議でもモディ首相はプーチン大統領に向かい、ヒンディー語でそう告げた。

この会談では冒頭にテレビカメラが入っており、自分の発言が世界に流れることをモディ首相はよくわかっていたはずだ。

これに対し、プーチン大統領は「ウクライナでの紛争について、あなたがとっている姿勢は承知しているし、あなたの懸念も理解している。この事態をできるかぎり早期に終わらせたいと思っている」と応えたという。

その翌月には、インドのラージナート・シン国防相がロシアのショイグ国防相との電話会談で、「核兵器あるいは放射性物質兵器の使用を示唆していることは、人類の基本理念に反している」として、「いかなる側も核と言う選択肢に訴えるべきではない」との見方を示した。
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こうしたインドの対応は、バラバラに行われたのではなく、対露姿勢のあり方を慎重に判断し、かつ国際社会がどう反応するかを念頭に置いた上でとられたものだろう。インド自身は理由を説明していないが、2つの仮説が考えられる。

まず、インドが紛争解決に主要な役割を担うべく、本腰を入れ始めたという見方だ。これまで仲介役としては、トルコの役割が目立っていた。侵攻開始の翌月にはロシアとウクライナの対話を仲介し、トルコ南部のアンタルヤで外相会談を実現させた。ウクライナの小麦を黒海経由で安全に輸出するプロジェクトについても、トルコのチャブシオール外相がロシア・ウクライナ双方と協議し、実現に導いた。一方、インドは紛争勃発当初から「対話と外交が唯一の解決の道」と主張はしていたものの、具体的な成果を出すまでには至っていなかった。

しかし紛争が長期化し、ロシア・ウクライナともに譲らない状況がつづき、米欧もウクライナへの軍事支援を強化しているものの、出口を見出せないでいる。こうした状況の下、プーチン大統領はじめロシア側と直接対話ができる自分たちがいまこそ前に出るときだと考えたのかもしれない。
グローバル大国として台頭していくなかで、南アジアやインド洋だけにとどまらず、世界全体の課題に関わっていこうという姿勢姿勢の現れとして捉えることもできる。

他方で、インドの対露姿勢が変わったと言ってもそれは米欧の批判をかわすためにすぎず、言葉以上のものではないという可能性も考えられる。インドがロシアとの実利的関係を追求する側面がクローズアップされるあまり、批判的な見方が集まっていることへの対策というわけだ。エネルギーの輸入や兵器の購入について対応に変化がなければ、インドのロシア依存はつづくということであり、そうした状態でウクライナ侵攻をめぐりさらに強い姿勢で臨むことができるのかという疑問もわく。

もうひとつ重要なことがあるとすれば、こうしたインドの「直言」がはたしてロシアの行動を変えているのかという点だ。2022年9月のモディ・プーチン会議から5日後、プーチン大統領はテレビ演説を行い、部分的動員令を発令した。9月末には、ロシアは占領下にあるウクライナの東・南部4州について、「住民投票」の結果にもとづき自国への編入を決めた。こうしたロシア側の対応を見るかぎり、戦争を終結させる方向に進んでいるとは到底思えなかった。

いずれにしても、インドにかかる期待は大きい。とくに2023年はインドがG20の議長国であるため、ウクライナ紛争の出口戦略をリードしうる立場にある。