じじぃの「歴史・思想_706_NATOを知るために・アメリカのウクライナへの対応」

NATO即応部隊は準備ができています

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=eNiNN-0flVM

ウクライナにF16供与


ポーランドでF16訓練開始

2023/5/23 埼玉新聞
EUの外相に当たるボレル外交安全保障上級代表は23日、ウクライナへのF16戦闘機供与に関連し、ポーランドなど複数の国で既にウクライナパイロットの訓練が始まったと述べた。ブリュッセルで記者団に語った。
米空軍のケンドール長官は22日、F16の供与が「劇的なゲームチェンジャーにはならない」との見解を示した。ロシアもウクライナも制空権を握ることができておらず、航空戦力は戦況に決定的な影響を及ぼしていないと指摘した。
https://www.saitama-np.co.jp/articles/28170/postDetail

エリア・スタディーNATO北大西洋条約機構)を知るための71章

【目次】
はじめに
第1部 NATOとはどのような組織か
第2部 冷戦期の展開
第3部 冷戦の終焉
第4部 冷戦後の危機管理
第5部 冷戦後の拡大をめぐって

第6部 ウクライナ危機とNATO主要国の対応

第7部 集団防衛への回帰――今後のNATO
第8部 日本とNATO

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NATO北大西洋条約機構)を知るための71章』

広瀬佳一/編著 明石書店 2023年発行

第6部 ウクライナ危機とNATO主要国の対応 より

第47章 アメリカのウクライナへの対応――インテリジェンス・軍事協力による手厚い支援 【執筆者】渡部恒雄笹川平和財団上席研究員)

2022年6月にマドリードで開催されたNATO首脳会議では、対ロシアの軍事同盟回帰と米欧の団結が明確になった。
バイデン米大統領は会談後、「開戦前にプーチン露大統領に、ウクライナ侵攻を行えばNATOは強化されるのみならず一層結束すると伝えたが、それがわれわれが今日まさに目にしていることだ」と発言した。

これまでNATOは度重なるミッション(使命)と存在意義の喪失に直面してきた。NATOソビエト連邦の軍事的脅威に対抗するために形作られたが、冷戦終結ソ連が消失すると、旧ユーゴスラビア紛争への対応において、ヨーロッパ内の危機管理というミッションを見出した。2001年9月11日のアメリカでの同時多発テロでは国際テロへの対処が加わった。これで、いったん団結を取り戻したNATOだが、2003年のイラク開戦で、アメリカがドイツ、フランスの反対を押し切ったことで溝が広がり同盟の漂流が始まった。

2003年の「バラ革命」で政権に就いた、ジョージアのサーカシヴィリ大統領の強いNATO加盟への意志とロシアの反発は、2008年のロシア・ジョージア戦争を引き起こした。
しかし2009年に始動したオバマ政権は、ロシアとの関係の「リセット」を重視してロシアの責任を追及せず、2014年のロシアによるクリミア併合とウクライナ内戦介入にも、米欧の対ロ制裁は中途半端だった。当時のNATOはロシアの脅威を再認識し始めたが合意と団結をもたらすレベルにはなかった。

その間、NATO加盟国は、対テロ協力としてアフガニスタンでの治安回復と復興支援のための国際治安支援部隊ISAF)に部隊を派遣してきたが、2021年8月の米軍の拙速な撤退とアフガニスタン政府の崩壊とタリバーン政権成立はアメリカへの大きな失望感をもたらした。

このような経緯を振り返ると、ロシアのウクライナ侵攻は、国際秩序にとっては不幸な出来事だが、NATOという軍事同盟の存在意義を強く蘇らせたと考えていいだろう。ただし、バイデン政権のウクライナ危機への当初の対応は、過去のオバマ政権同様、対テロ姿勢という点では「生ぬるい」対応だった。2021年12月7日、バイデン大統領とプーチン大統領は、ウクライナ国境にロシア軍が集結するという緊張状況のなかで、オンラインでの会談を行ったが、翌日、バイデン氏はロシアがウクライナに侵攻した場合でもアメリカが一方的に武力行使に出ることはないとの考えを示したからだ。

バイデン氏の発言が、ロシアのウクライナ軍事力行使のハードルを下げたともいえる。とはいえ、アフガニスタンイラクでの約20年間にわたる「長い戦争」に疲れ、トランプ前大統領の「アメリカ・ファースト」を熱狂的に支持するアメリカ内政の状況を考えれば、バイデン政権にそれ以外のオプションはなかったともいえる。2月8日から11日のCBSニュースの世論調査では、ロシアとウクライナの対立に対してとるべきアメリカの姿勢について、53%が「軍事的に関与すべきではない」を選択し、「関与すべき」は41%にすぎなかった。

その後のバイデン政権の動きは戦略的だった。2022年2月17日、プリンケン国務長官が、国連安全保障理事会で「ロシアの侵攻シナリオ」を示し、「ミサイル攻撃や空爆で口火を切り、通信妨害を仕掛け、重要な機関をサイバー攻撃で機能不全に陥らせて、地上部隊と戦車がウクライナの主要都市へ進軍し、そのなかには首都キーウも含まれている」と暴露した。
さらにブリンケン氏は、2月23日、ロシアが24日夜明けまでにウクライナに侵攻するとの見方を示してけん制したが、実際、24日にロシア軍はウクライナへの侵攻を開始した。

数日後、ロシア軍はウクライナ軍の強い抵抗にあい、作戦難航が明らかになった。アメリカの軍事支援とインテリジェンス情報協力がウクライナのロシアへの抵抗に大きく貢献している実態が認識され、開戦前のインテリジェンス情報開示によるけん制を含め、アメリカの「軍事支援力」が評価されるようになった。事実、アメリカはウクライナ軍に対して、対戦車ミサイル「ジャベリン」などの武器給与と米軍による訓練という軍事支援を、クリミア併合があった2014年から、着実に行ってきた。

4月2日、ロシア軍がウクライナの首都キーウ近郊から本格的に撤退を始め、ウクライナ防相はキーウ州全域が「解放された」と発表した。電撃的な首都陥落によりゼレンスキー政権を崩壊させ、親ロ政権を作るというプーチン大統領の戦略遂行は失敗した。これを受け、4月10日、ジェイク・サリバン米国安全保障担当大統領補佐官は、CNNへのインタビューで、ロシア軍のキーウ周辺での敗北はウクライナの果敢で粘り強い抵抗によるものだが、それを可能にしたのはアメリカとヨーロッパの支援した兵器であると発言した。

バイデン政権は、「第三次世界大戦を避けるために」という表現を再三使って、核兵器の欧州にエスカレートするリスクがあるNATO軍とロシア軍との直接対決を極力回避しようとしており、ウクライナ軍への軍事情報の提供やサイバー戦での協力の事実は表に出してはいない。

しかしアメリカとNATOウクライナ軍への手厚いバックアップが、ロシア軍を押し返す作戦の成功に寄与していることは状況証拠から明らかだ。その一端を示す事実として、8月2日、ロシア国防省報道官は、ウクライナ軍関係者の傍受から、ウクライナ軍が高機動ロケット砲システム「ハイマース」を使ってロシア側を攻撃する際にアメリカ側の承認があったとして、アメリカの直接介入を批判した。

結局のところ、バイデン政権が、内向き志向が高まっているアメリカの有権者が嫌う直接の軍事介入を避け、アメリカ人の血を一滴も流さずに、国際秩序に対する現状変更を阻止する方向で、NATO加盟国間の連帯を強化していることは特筆すべきことだ。アメリカにとって目下の最大の安全保障上の懸念は中国の武力による台湾併合だが、ロシアのウクライナ侵攻を失敗に終わらせることで、中国の武力行使のハードルを上げる効果も考えている。

マドリードで合意された2022年のNATOの新戦略概念には中国への対処がはじめてミッションに入れられた。