じじぃの「歴史・思想_707_NATOを知るために・ドイツ」

ドイツが主力戦車レオパルト2」をウクライナに供与へ アメリカも「エイブラムス」供与を検討と報道 “方向転換”のワケは?|TBS NEWS DIG

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=4KekKF5r_fg

独ベルリンで行われたウクライナとの連帯を示すデモ行進


ドイツ、退避のウクライナ国民の全員受け入れを発表

2022.03.03 CNN
ドイツ政府は3日までに、ロシアの軍事侵攻を受けてウクライナを避難した全ての同国国民を迎え入れる方針を明らかにした。
ドイツのベアボック外相がスロベニアのロガル外相と臨んだ共同記者会見で表明した。国境線へ逃げてくる人々を全ての欧州諸国へ退避させる準備があるとし、ウクライナへの人道支援を増やす考えも示した。
同外相は発言で、ロシアのプーチン大統領の敬称も省いて弾劾(だんがい)。「ウクライナや同国の罪のない国民へのプーチンの戦争は途方もない苦難をもたらし、数十万人が避難し、数百万が生命と将来への危惧を抱いている」と指弾した。
ドイツ政府はロシアの侵攻を受け、第2次世界大戦以降、堅持していた規制条件がある武器輸出政策を転換し、ウクライナへ一部の武器援助に踏み切ることを発表してもいた。
https://www.cnn.co.jp/world/35184405.html

エリア・スタディーNATO北大西洋条約機構)を知るための71章

【目次】
はじめに
第1部 NATOとはどのような組織か
第2部 冷戦期の展開
第3部 冷戦の終焉
第4部 冷戦後の危機管理
第5部 冷戦後の拡大をめぐって

第6部 ウクライナ危機とNATO主要国の対応

第7部 集団防衛への回帰――今後のNATO
第8部 日本とNATO

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NATO北大西洋条約機構)を知るための71章』

広瀬佳一/編著 明石書店 2023年発行

第6部 ウクライナ危機とNATO主要国の対応 より

第50章 ウクライナ危機とドイツ――慎重な対応から貢献の拡大・強化へ 【執筆者】森井裕一(東京大学 大学院総合文化研究科 教授)

NATOはドイツの安全保障政策の中核であるのみならず、歴史的にみれば国家の存在そのものの前提でもある。占領下から東西に分断された形で独立した西ドイツ(ドイツ連邦共和国)は、1955年にNATOに迎え入れられることで外交主権を回復し、国際社会に復帰した。
1990年の統一は西ドイツが東ドイツを吸収する形で実現したため、NATOは統一ドイツの防衛政策の要であり続けた。しかし、冷戦後のヨーロッパでは旧社会主義諸国の民主化市場経済への移行と、欧州評議会(CoE)、欧州連合EU)、NATOの拡大もあり、自国と同盟国領土の領域防衛よりも、NATO域外の紛争地域での危機管理が、安全保障政策の中心と認識されるようになった。
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ドイツ統一が当時のソ連の承認により平和裡に実現され、旧東ドイツ地域からのソ連軍の撤退も1994年に完了したことから、その後のロシアとの関係は重視された。1998年に就任した社会民主党SPD)のシュレーダー首相の任期中は、プーチン大統領との個人的な友情関係も背景として、ガスパイプライン「ノルドストリーム」の建設など経済関係も深化した。ウクライナではオレンジ革命後のユーシチェンコ政権が積極的にNATO加盟を目指したが、メルケル政権のドイツはウクライナ国内の改革の進捗状況が思わしくないことやドイツ国民のウクライナ加盟支持が弱いことから加盟に反対した。

独ロ関係はロシアのプーチン政権の強権化もあり次第に冷却化していく。ロシアによる2014年のクリミア併合をドイツは国際法違反として強く批判し、EUによる対ロ経済制裁は独ロ貿易関係にも大きな影響を与えた。しかし、同時にウクライナ東部地域での紛争の終結のため、ドイツは外交的努力も継続しミンスク合意の形成にも貢献した。その後も経済制裁は継続し政治的にはシリア介入や人権問題でロシアを批判するなどしながらも、「ノルドストリーム2」の建設も進み、ロシアとの関係は重視された。

2021年にロシアがウクライナ周辺へ軍事力を集結させると、ドイツは緊張緩和のための外交努力に注力しつづけた。この時期に連邦議会選挙が実施され、16年続いたメルケル政権に代わって12月にショルツ政権が発足した。この政権は、伝統的に対ロ関係を重視してきたSPDと、ロシアの人権状況やガスなど化石燃料への依存を批判してきた緑の党自由民主党(FDP)による3党連立政権であるが、ロシアによるウクライナ侵攻によって大きな衝撃を受けた。侵攻からわずか3日後の2022年2月27日にショルツ首相は連邦議会で安全保障政策の転換を表明し、通常の予算とは別立てで1000億ユーロの連邦軍特別予算枠を設定し、長年の課題となっていた連邦軍の装備の更新と拡充を短期間で行うことを表明した。ドイツの国家財政は基本法憲法)の規定により厳しい財政規律ルールで規制されているが、その予算枠を財政規律の適用例外とするため、6月には憲法改正も実施された。

ウクライナ危機は、ロシアと緊密な関係を構築し対話を続けることでロシアの軍事行動を抑止できるという考え方を間違っていたことを認識させ、長年にわたって論争の対象となってきた連邦軍予算問題を短期間に大きく転換させた。2014年のNATOウェールズ首脳会議で合意された防衛予算をGDPの2%以上とする合意について、ドイツ国内では慎重論も多く、むしろ開発援助を増額し、開発援助と防衛予算を合わせてGDPの2%とする方がドイツの国際貢献としては好ましいとの意見もみられた。しかし同時に、クリミア半島併合後の安全保障環境の変化に対応すべく、ドイツはNATOのバルト諸国領空監視活動に参加し、「強化された前方プレゼンス(eFP)においてはリトアニアで主導国の任務を担ってきた。つまり、一方でロシア脅威を強く認識する同盟国へ配慮し軍事的な貢献をしつつも、他方で国内での脅威認識の低さが予算対応で中途半端な対応を続ける背景となっていた。しかし、ウクライナ危機は同盟国の領域防衛重要性を強く認識させ、局面を転換させた。

ショルツ政権は初期にはウクライナに対する軍備供与問題でロシアとの戦争に巻き込まれるリスクから慎重な姿勢を示したが、次第に重火器・高度な兵器の供与も実施した。

ドイツは民主的に選出されたウクライナ政府が国際法的に正統な防衛を行うのを支援するために、政策を変更した。ロシアからのガス供給は停止されたが、対ロ経済制裁を継続し、エネルギー供給の問題を解決しながら、ウクライナに兵器を供与し、同時にNATOにおける軍事的な役割を果たし続けるためには国内の支持が前提となる。政権担当経験のある主要政党はみなNATOと安全保障政策を支持しており、世論も一定の犠牲を払ってもウクライナ支援を継続すべきとの考えを支持する者が多数となっている。連邦レベルで政権に入る可能性のないドイツのための選択肢(AfD)と左派党のみが異なった対応をしている。
スウェーデンフィンランドNATO加盟承認の手続きもドイツでは短期間で完了した。こうしてウクライナ危機はドイツのNATOへの貢献を拡大する契機となった。ショルツ政権はNATOの強化と同時にヨーロッパ諸国がEUの強化により安全保障政策分野でも行動能力を高めることも目指しており、今後EUNATOの関係性をどのように展開していくかにも注目される。